「あーあ、これじゃ、しばらく動かない・・・」
破損した機体を調べて、ジャンはため息をついた。
飛行機が危うく川に突っ込む前に水上用に変形できたことで、壊滅的な危機を免れたものの、修理にはだいぶかかりそうだ。
しかも、これを製作したのはミラーであって自分ではない。
このままではSSGの救援部隊が来るのを待つしかないが、とりあえず、どこかに行ってしまったメンバーを探さなければ。
飛ばされたミラーは地上着地用のユニットを身につけていたし、SSGの二人に関しては、たぶん大丈夫だろう。なにしろ超人的な二人だ。
この場所を忘れないようにしておけば、行動範囲は広がる。
ジャンはさっそくメンバーを探しに出かけた。
・・・・・
しばらく歩いて、ある木の下に来たときだった。
ガサガサと音がしたので、上を向いてみると人の脚が見えた。
「ミラー?」
「!!!」
誰かが葉の間から顔を出したのを見て、ジャンは驚愕した。
「子供?!」
どこから見ても、このへんの子ではない。
切りそろえられた黒髪のおかっぱ。
茶色い瞳。
ミルク色のやわらかそうな肌。
そして、なぜか着ているものは中世ヨーロッパ貴族のようだった。
「誰なの?」
少年は半分警戒した様子でジャンの様子を伺っている。
「安心しろ、オレは敵じゃない」
もしかしたら遭難した子供かもしれない。
すると、少年はするすると木から降りてきた。
「私はトト」
「オレはジャンだ」
「あなたも宝を探しているのか?」
「・・・まぁな。だが、それよりも前に仲間を見つけなきゃならないんだ」
宝・・・なんでこの子供が”幻の箱”のことを知っているんだ?と疑問に思いながらも、ジャンは少年の返事を待った。
「そうか。なら、私と同じだ。私も親友を探しています」
気がつくと、地上だった。
あの恐竜が突然旋回をして、あっという間に振り落とされたのだ。
そのちょっと前に、リヒャルトがどこかの木にひっかかって取り残されたわけだが、どうしてやることもできなかった。
木の枝に乗ったリヒャルトが「おまえは獣でもいいのか!」とか「浮気者!」とか「私の目の届かないところへ行ってしまえ!」とか捨て台詞を吐くのまで聞きながら、こちらは必死にプテラノドンにしがみついていたわけだ・・・・。
その光景を思い出し・・・密やかに頬を赤く染めながら幸せ気分に浸っていたRQであったが、次の瞬間、とっさに上体を起こした。
「なんでぇ!あんた。死んでんじゃないのかよ!」
「悪いが、人に顔を踏みつけられる趣味はないな!」
今にも自分の顔を踏みつけそうになった少年を見下して、RQは怪訝な顔をする。
少年は癖のある金の髪をして、中世のヨーロッパ風の服を着て、マントをつけていた。
どう見ても、このあたりの住民ではない。
「おまえ、どっからきたんだ?」
「あんたこそ、こんな森の中で頭から血ぃ流して何してんだよ?」
・・・・・
二人は、歩きながら話をした。
「じゃあ、あんたもお宝を探しに来たんだな」
「まぁ、そうだが。オレはお宝なんかどうでもいい。恋人とスリル満点のデート中なのさ」
サングはまわりを見回した。
どう考えても、ここにいるのは二人だけだ。
「おっさん、頭大丈夫か?ここにはあんたの恋人はいないぞ!」
「いいや、いるんだ。もうじき現れる。オレを殺したいって瞳で・・・燃えてきたぜ!」
「おいおい・・・」
破天荒のサングでさえ、目の前の大人が心配になってきた。
何しろ、発見した時はまさしく死体そのものだったのだから。
血だまりの中に、RQは横たわっていたのだ。
普通の人間ならとっくに事切れているはずだが、この男は只者じゃない。
サングは直感的にそう思った。
「ところで、おまえの名前は?」
「オレはサング。おまえは?」
「オレはRQ!その他はなにもかも秘密だぜ!!」
ビシッと親指を立ててから、RQは唐突に聞いた。
「ところでおまえは一人か?」
「いいや、お宝も探しているけど、その前に親友を探している。友達なんだ、だから」
「必ず見つかるさ!」
RQの大きな掌がサングの頭を包んだ。
先ほどから考えているのだが、このトトという少年は、どこか普通と違う。
妙に子供っぽくないというか・・・。
いきなり「私の身分については聞かないように」などと言い出すし。
トトが何者かよりも、どうしてこんな場所に親友と来たのかが気になる。
「車か飛行機で親と来てはぐれたのか?」
と聞けば、
「馬車とか?そうじゃないよ。バストールのほうから歩いてきたとしか言いようがない」
馬車?!
やはりこの辺の村の子供なのだろうか?
「ところで、ジャンさんは冒険家か何かなの?とても変わった服装をしているね」
「これ?これか・・・ああ、まぁ冒険家みたいなものだ」
変わった服装といえば、トトのほうが学芸会みたいな服を着ている。
オレは、昔見た「小公子」という映画を思い出した。
あれもたしか、主人公がトトのようにおかっぱ頭で、こんな格好をしてたっけ。
「そういえば、ジャンさんはあの老人に会った?幻獣を使うあの魔法使いみたいな・・・」
「いいや?」
幻獣?
魔法使いみたいな老人?
「じゃあ、どこからこの禁断の森に入ったの?」
オレは空を指差した。
「あそこかな、オレたちは飛行機で来たんだ」
トトは首をかしげて、しばし考えた。
「ああ・・・他国では気球という乗り物があるって本で読んだことがある。そういうもの?」
「気球じゃないんだけどなぁ」
「まさか、翼が生えて飛んできたの?もしかして飛行物体に乗ってきたとでもいうのかい??」
トトの瞳が爛々と輝いてきた。
ふと弟を思い出した。ミラーも物珍しい話を聞くとすぐにこうなるんだ。
そういえば、ミラーは無事だろうか?
あの弟が何かあったとは思えないが。
「オレは、弟が作った飛行物体に乗ってここまで来たんだよ」
「ジャンさんには弟がいるんだね。私も・・・」
と言って、トトは少しうつむき加減になる。
「あまり話したことのない弟だけど・・・」
「不仲なのか?」
「そういうわけでもないんだけど・・」
最近では、子供でも家庭の複雑な事情の犠牲になることが多い。
それ以上は立ち入らないことにした。
すると、トトが急に立ち止まった。
「どうした?」
「なんだかすごい殺気がする!」
「殺気?」
トトの喉がごくんと動いたのを感じて前方に注意を払うと、いきなり枝が一本飛んできたのでトトをかばいながら避ける。
「近づいてくるよぉ!!」
今度はオレにもわかる。これは知っている人物の殺気だ。
なにかあったに違いない。
そっと様子を伺いながら近づいてみる。
草むらの中から見覚えのある黒髪が見えた。
そして、キレまくっている独り言も・・・。
「・・・くっそーあの浮気者め!次に会ったら平手ではすまさんぞ!」
「あ、あのーリヒャルト。オレだ、ジャンだよ」
リヒャルトが森の中で、無造作に鞭を振り回していたのだ。
「ジャンか。あの浮気者を見なかったか?」
「RQか?見てない」
「そうか、見たら伝えておけ。今度という今度はもう許さん!とな」
「殺気だった痴話喧嘩だねぇ。この人もジャンさんの仲間なの?」
トトがひょっこりと顔を出す。
「?どうしておまえがここに?潤一はどうした?」
「?」
リヒャルトがトトを見て不思議そうな顔している。
「誰?それ?」
「・・似ているが・・・や、人違いだ。実は私の知っている占い師によく似ているもので」
「占い師・・・。それはもう一人の私かもしれないね!ケケケ・・・」
トトはおもむろに懐からタロットカードを取り出した。
そこには「運命の輪」が描かれている。これでは占い師と間違えられてもしかたない。
ともかく、リヒャルトを見つけた。これからは他のメンバーを探さなくてはならない。
リヒャルトをどうにか説得して、オレたちは歩みを進めることにした。
・・・・・・・・・・・
「うげっ!」
森を歩くサングが、変な声をあげた。
それもそのはず、木々の中から爬虫類と思われる足が見えたからだ。
爬虫類という言い方は可愛いかもしれない。
その生物の足は巨木と同じくらいの太さだ。
「声を出すな」
RQがさっとサングの口を塞ぐ。
どう考えても、あれは恐竜という奴だ。
RQはふと首をかしげた。
だが、あれは一度、ほぼ絶滅したはずだが・・・。
あの大災害の中でも生き残っていたというのだろうか。
・・・ともかく、今はあれをかわさないといけない。
ふと考えたサングが「もしかして・・」と呟いた途端、草むらが割れて
「サングっ!」
「うわぁぁ!!」
小型の恐竜が牙をむいたのだ。
とっさにサングが右手を突き出すと、そいつはかすかな悲鳴とともに消滅した。
「なにっ?」
「やっぱり・・・幻獣・・・」
サングは、黄金の光を発している自分の右手を見つめた。
そして、RQも。
「そういうことか」
ニヤリと笑うRQとサングの背後に、巨大な気配が迫ってきた。
先ほどの騒ぎに、デカブツが気づいたらしい。
巨大な・・・肉食獣と思われるそいつが大きな口を開けて、二人を噛み砕こうと襲い掛かってきたのだ。
「おーし、戦ってやるぜ!」
ファイティングポーズを決めたサングは、すぐに自分の足が地上から離れたことに気づいて声を上げる。
「あにすんだよ!おっさん!」
「あーいうデカブツはタイミングを計らないとダメだ。二人で奴の上下を一斉に攻撃する!」
「わかった」
サングを小脇に抱えながら、森の中を駆け巡るRQ。
肉食獣は涎をたらしながら、二人を全速力で追いかけてくる。
やがて、木々が横倒しになっている場所が目の前に現れた。
RQは、身軽にその倒木の間をかいくぐっていく。
恐竜の動きが鈍くなった。
「今だ!」
RQの腕から、サングが空高くジャンプする。
RQの両手から生まれ出た無数の光の矢が太い足をジグザグに貫いていく。
サングの拳が太陽の光を浴びて光り輝いた。
「うぉぉりゃーー!!」×2
巨大な生き物の頭上で光球が一瞬強く輝いた。
・・・・・・・・・・・・
「なんだあれは?」
気づいたのはリヒャルトだった。
そして、トトも。
「あれは、私の友達の気だよっ!!」
一瞬、空が黄金色に輝いたのだ。
もう天変地異とか考えようがない。
「どちらにせよ、そっちの方向に誰かいそうだな」
「うん、間違いない。私と友達はね、見えないもので結ばれているんだ」
トトが興奮気味に語る。
「そういえば、ミラーはどうしたかな」
「あいつならきっと無事だ。私がプテラノドンと共に飛行しているとき、パラシュートを広げてどこかへ降りているのが確認できた」
「だが・・・」とリヒャルトは続ける。
「この状況では無傷とは限らん。早く救出しなければ」
今、オレたちのまわりには、紙が散らばっている。
トト曰く「紙媒体の幻獣」というやつらしい。
どうみても滅んだはずの恐竜が実体をもって襲い掛かってきたのだ。
幸いにして大物には当たっていないが、小物でも十分危険な奴らだ。
オレはこういう時に備えて、アステカの宝剣を持ってきていた。
幻獣・・・過去には、宝探しの途中でそのようなトラップに襲われたこともある。
しかし、あれはこんなリアルでもなかったし、せいぜい大蛇程度だった。
まさか、恐竜が出てくるとは。
幻獣を倒せるというアステカの宝剣一つでは到底かなわなかっただろう。
しかし、この仲間たち・・。
リヒャルトは、どういう理屈か知らないが、物理的に切り裂くことしかできないはずの鞭で、幻獣を切り裂いていた。
トトは、身体中から不思議なオーラを燃え滾らせて、人間とは思えない戦闘力を発揮した。
二人がいてくれたおかげで、今まで生き残っている。
「ともかく、あの方向を目指そう」
「うん」
「ああ」
ところが。
オレたちの目の前には、数百m級の崖が現れたのだ。
「今まで、見えなかったぞ。これはどうなっているんだ、ジャン!」
リヒャルトの言うことはもっともだった。
今までこんな巨大な障害物は見えなかった。
行く手を阻むように、突然現れたようなのだ。
隣を見ると、トトが震え上がっている。
「すごい霊的パワーを感じる・・・。ここは・・・なに?」
・・・・・・・・・・・・・・
「なぁ、さっきまでこんなのあったか?」
RQとサングは顔を見合わせた。
二人の前には、数百m級の崖が立ちはだかっている。
「なんかおかしいぞ、この森は」
「そりゃ、恐竜までいたんだ。何があっても驚かないさ。しかし、まるでオレたちの行動が読まれているみたいで気にくわねぇな」
フン!とRQが鼻を鳴らす。
「迂回するか、登るか?二つに一つだけどさ」
「もちろん、登ってやるさ」
「げーーまじかよ、おっさん!」
岩肌に手をかけて登りだすRQの下で、サングが声を上げた。
「しかたないな。オレの背中に乗りな。ちびっ子!」
「少しくらいデカイからっていい気になるなよ!・・・乗るけどさ」
サングを背に乗せたRQはガシガシと岩に手をかけて登っていく。
「オレたちを邪魔しようってんだったら、この向こうに目指すものがあるってことだろ」
「なるほど!あったまいいじゃん。おっさん」
「おっさんて言うな!オレはハニーより年下だ!年下の魅力ってやつでハニーをメロメロにしてんだぜ~!」
「ふーん、オレにはわかんないね!」
「ちびっ子だからなー」
「ちびって言うな!!」
そうして、1時間ほど登った頃だろうか。
RQがもう一度手をかけた岩に奥行きがあった。
否、そこは崖の途中にあいた横穴。
「おっ?」
RQの背中から降りたサングが、奥を覗き込む。
「深そうだ」
「次はこっちへ行けって意味だろう」
「何もんだかしらねぇけど、こういうやり方って嫌いだな」
「気に食わないってことは認めるさ」
二人は、暗闇が続いている洞窟の奥を見つめた。
・・・・・・・・・
「おーい、二人とも大丈夫か?」
一応、登山用の道具は用意してある。自分とリヒャルトの身体をロープでつなぎ合わせて。
小さなトトはリヒャルトの背中に背負われている。
崖を回避するすべもあったのだが、トトが「ここに何かあるに違いない!」と叫ぶので、登ることにしたのだ。それにしても、不思議だ。
この崖は、本当につい先ほどまで存在しなかったのだから。
トトの言葉も含めて、何かあるには違いない。
しばらく登ると、いきなり洞窟のようなものが現れた。
「ちょっと休憩!」
3人で洞窟の中を覗き込む。
トトが「ここを進むんだ」と言いはじめた。
「どうして?」
リヒャルトが理由を促す。
「ここに進めって誰かが言っているようなんだよぉ!!」
まったく説得力がない言葉だったが、トトの懐からタロットカードと得体のしれないモフモフしたものがこぼれ落ちた時、リヒャルトはギョっとして、
「その言葉を信じよう」
とあっさり意見を採用してしまった。
実はこのモフモフしたものは、イルミーネ国に伝わるお守りだったのだが、リヒャルトがそれを知るはずもない。しかし、リヒャルトはこのモフモフしたものを持っているというだけで、トトを信用する気になったらしいのだ。
おそらくは信頼できる誰かの印象がかぶったのだろう。
そうして、洞窟の中を進むことになった。
懐中電灯を照らすと、トトが「変わった道具だね!」と感嘆の声をあげる。
だが、途中から懐中電灯は必要ではなくなった。
洞窟内が輝いていたのだ。
壁一面が様々な色で光っていた。
ヒカリゴケか、光る鉱物が含まれた岩盤なのかもしれない。
今は、そんなことに気をとられている場合ではない。
この奥に何があるのか。
もしかして、この穴は向こう側に通じていて、ここを抜ければ何かがあるかもしれない。
それに、ミラーやRQやトトの親友ってやつも、まだ見つかっていないのだ。
しかし、この崖はたしかに先ほど空が光った方向を塞ぐようにそびえている。
抜ければ、誰かが待っているのでは・・・
そんな期待さえしていたが、いきなり行き止まりにぶつかってしまった。
そして、そこには・・・一枚のレリーフが彫ってあった。
“ここに幻の箱眠る”
「ここに宝があるのか!」
しかし、その下の文字をトトが発見した。
”しかし、壁をこの側から破壊する者、洞窟と共に滅ぶ”
「この側?ということはあちら側が空洞なのか?」
「そういうことらしい」
リヒャルトが壁に手を当てる。
こちら側にしろ、あちら側にしろ、とても分厚い一枚の岩盤だ。
なにか道具がなければ、破壊するのは難しいだろう。
「まって、もう一行ある!」
トトの言葉と同時に、入ってきたのは悲鳴のような人の声だった!
