今日は冒険するのだ。
彗は出かけてしまった。
総一郎は顔を洗いに行った。
今、ここには僕しかいない!
さぁ、出発だ!
未知の世界へ。
実は、今まで彗に見張られていて、自由に外を出歩くことなどできなかったのだ。
だが、外の世界は何もなかった。
建物らしきものはあるのだが、人が住んでいたのは数十年前だろうという感じ。
一応、道らしきものはある。
やがて、建物が密集しているところへやってきた。
途中に壊れた水道管をみつけた。
水がちょろちょろと出ていた。
ものは試しと口をつけたら、普通に飲める品物だった。
彗は、こうしたところから水を持ってきているに違いない。
コンクリートが剥き出しになっている建物の間を歩いて進む。
ドアもなく窓もない。
人は当然いない。
廃墟の町。
僕は・・・いろいろ考えた。
でも、考えなどどうでもよくなった。
たとえ、この世界が核戦争で滅んだ後の世界だとしても。
偶然、僕達だけが生き残っていたとしても。
どうでもよかった。
家族も、友達も、親戚も死んだのだろう。
それでも・・。
心がそれ以上考える事を拒絶しているようだ。
なぜか、この街に興味と好奇心を惹かれて、きょろきょろと見て回る。
楽しい。
ちっとも楽しくないはずの状況なのに。
ここから帰ったら、彗がいる。総一郎がいる。
戻って、目を閉じたら・・無条件でまた明日がくるのだから。
「そう、その通り。でも、明日が来なかったら、あなたはどうするの?」
「え?」
建物の裏側から声が聞こえた。
たしかに、人の声が。
鈴を振るような少女の声。
「誰かいるの?」
「あなたのすぐ近くに」
僕が建物の向こう側に回ると、小さな影が見えた。
砂の彫刻。
やがて、風がやむとそこには一人の少女が立っていた。
「はじめまして、浮雪」
「どうして、僕の名前を?」
少女は浮雪の顔をじっと見つめた。
「?」
その網膜が濁っているのを見て、浮雪は気づいた。
「きみ・・・目が」
「ええ、見えないわ。でも、そのかわりあなたの心が少しだけ見える」
「・・心」
少女はにっこりと笑った。
「私も、その人のところに行ってみたい。あなたの心に蓋をしているその人のところに」
「・・」
「そこにきっと答えがある」
「答え・・」
次の瞬間だった。
とてつもなく大きな怪物に襲われたのは。
「わっ!!!」
「シルバー」
食われる!
彗に食べられる前にっ!!
こんな怪物に食われるくらいなら、彗に食べてもらった方がよかった・・。
観念して、目をつぶると頬にくすぐったい感触。
「ふふ・・ふふ・・・やだ・よょ!!」
「シルバーよ。私の友達」
怪物は、なんと彼女の飼い犬らしい。
どう見てもポニーくらいの大きさがある。
白い毛の巨大な犬。
彼女はその犬の背に乗ると、僕の後をついてきた。
「きみの名前は?」
「白爪 弥生」
学校に帰ると、総一郎が・・
なんと正座で玄関前に座っていた。
「浮・・ふゆきぃ~~~!!」
縋りつくような調子で叫びながら、総一郎はなんとか正座を解いた。
「何してんだよ?そんな格好で」
「おまえのせいだぞ~・・矢崎が・・あの恐い人が・・しびびびび・・」
総一郎は、立ち上がろうとして失敗し、浮雪につかまってようやく体勢を立て直す。
「おまえが勝手にどっかいっちゃうから、矢崎が・・『どうして、おまえが見ていないんだ!あいつは足を怪我しているんだぞ・・。オレが探してくるから、おまえはここで正座をして待っていろ!』・・と言って行ってしまったんだよ」
「断ればいいじゃないか。正座なんかやだって」
「そんな事言えるか!あの時おまえいなかったからそんな事言えるんだよ。
そりゃもう、世紀末大爆発という感じだったぞ」
「ふふ・・ふふふ」
「?」
「!」
後ろを振り返ると、弥生が笑っている。
「・・?」
「本当に恐そうね」
「・・ああ、彼女。出かけてたら会ったんだよ」
「へ・・」
総一郎が呆然と弥生を見ている。
「・・?」
弥生が不思議そうな顔をして総一郎を見つめていった。
「草薙・・総裁の息子さん・・?」
「そうだけど・・なんで父さんの事を」
「えっと彼女はね」
心が読めるらしい・・と僕が言う前に、弥生が口を開いた。
「何度かお会いした事が・・私の父と・」
「?きみは?」
「白爪弥生、・・父の会社の事で」
「白爪・・旧財閥の!」
「?」
お金持ち同士にしか通じない会話を、二人はしている。
「白爪・・コンツェルンと聞いた事がある」
僕の隣で気配もなく突然声がした。
「彗?!」
「・・でかけるんなら、一言かけて欲しかった」
「・・ごめん、心配かけたみたいで」
「・・べつにそんな事はない。足は大丈夫なのか」
「うん」
「矢崎!」
総一郎が駆け寄ってくる。
「ああ~~~こういうわけなんだよ」
総一郎がまるで僕が見たことを見てきたみたいに、的確に話した。
「ようこそ、白爪さん」
「弥生でいいわ。はじめまして、彗」
こうして少女と1匹が加わった。
