見知らぬ世界②(矢崎 彗)

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先ほどから、とても喉が渇いている。

水を探しに行った彗は、もうじき帰ってくるだろう。

あれから、僕達は「とりあえず屋根のある所」を探し、ようやくまともに過ごせそうな場所を見つけた。

廃墟と化した学校跡。

まぁ、運のよいことにマットらしきものとか、保健室にあったであろう毛布らしきものとか・・
が見つかったので、とりあえず寝る事はできると思われた。

そして・・すぐにここに横になろうとは予想していなかった。

正確には、寝かされている。

外のほうで物音がしたと思うと、「調子はどうだ?」と声がした。

「まぁ・・まぁだよ」

彗は部屋の入り口から顔を出すと、もろに隠す事もない呆れ顔で僕を見て

「しかし・・本当にドジだな」

と言った。

「しょうがないだろ!」

怒鳴ると、ますます救い様がないという表情を見せて、バケツに汲んだ水を足元に置いた。

「水は発見できたぞ」
「え、やっほー!やったじゃん!」

水と塩があれば、人間は数日はもつという。

数日・・・。

・・・

彗は僕の気持ちを読み取ったかのように口を開いた。

「これで食料がなければ、オレたちは共食いしないといけなくなるな。
まず、犠牲になるのは階段から落ちて怪我をしているおまえだという事になるが・・」

「げっ・・!!」

冗談じゃない。
誰かがいてくれて、内心ほっとしていたのもつかの間、僕はこいつに食われてしまうのだろうか?
足を引きづりながら、壁際にあとずさりする。

彗は、とたんにフッと笑って、背後から大きな袋を取り出した。

「食料も見つかったぞ。よかったな食われなくて」
「な・・」

なんて性格が悪いっ!

この状況下で、よくもまぁこんな危機的なことを冗談にできる。

「ところで、矢崎・・彗って、ビジュアル系か何か?」
「いちいちフルネームで呼ぶな。・・なんだ、ビジュアル系って?」

髪を・・こんな色にして。
脱色すると言っても、しすぎだろう。
金色を通り越して、銀色に近い。
しかも、一応結ってはいるが腰まで伸ばしている。

オレンジ色の瞳は特注のコンタクトか何かか?

ビジュアル系バンドでもやっているとしか考えられない。
それと、西森中学校は校則が緩いのだろう・・。

そんな事をいろいろ聞くと、彗は「別に・・」と前置きをして
「祖父さんがロシア人なんだ」
と答えた。

「じゃあ、それはナチュラル?」
「うんうん」

何でもないような顔で、発見してきた缶詰などを物色している彗を見ると
実は、なかなかいい男だと気がついた。
祖父さんがロシア人だとするとクォーターか。
そういえば、日本人っぽくない顔つきだ。
例えていうならば、シベリアンハスキーみたいな
・・うまく例えられないが・・。

「おまえ、モテるだろう」
「興味がない」

「そ、そうですか・・」

そうキッパリ言わなくても・・。
この人の、たいぶ標準より上出来の顔の中で、唯一欠点を見つけられるとしたら
への字に結ばれた口だった。
かなりモテたとしても、付き合ったら案外つまらない男だとバレて人気を無くしてしまいそうな
タイプにも見えた。
意外と・・正体がバレたらモテないのかもしれない。

「おまえ、案外モテないだろう?」

そう言うと、彗はほんの少々不機嫌そうな顔をして

「ごく標準的だ」
と、答えた。

その時、気がついた。

彗の右頬が赤く腫れているのを。

「どうしたん?それ?」

「ああ、これか・・」

彗は頬を擦りながら、言った。

「最初、これは夢かと思って何度も頬をつねってみたんだ。でも何度やっても痛みを感じる。
それで・・これは夢ではないと確信した」

大真面目に・・そう言う彗を見て、なんだか可笑しくなった。

「プハハハ・・変な奴だな、おまえ・・」

「笑っていないで手伝え。まったくくだらない質問ばかりしてどういうつもりだ。
どうして、そんなに余裕でいられるのか、不思議でならない。
浮雪、おまえは可笑しな奴だな」

見るからに冷静そのものの彗。
人を余裕があるとみるほうが不思議だった。

何はともあれ・・

こうして、僕と彗の生活は始まった。


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