今日も今日とて、会議で疲れた。
国を変えるという事は、やはり、とても難しいのだと実感する。
そして、今回はブレーンが非常に少ない状況で行われたものだから、余計だ。
改革反対派に回され突かれ、ボロボロ…。
数の少ないブレーンの人々も、まわりの空気に流され、何も言えずに…。
私は、皆から見放され、否定されるような状況に立たされたのだった。
「ふぅ・・・」
トトは私室に帰ってくると、溜息を一つついた。
顔をあげると、ジュールが新聞を広げてソファに座っている。
「お帰りなさい…どうかなさったの?」
「ううん、なんでもない」
ジュールに、いちいち1から説明するのは面倒くさいし、もう思い出すとムカムカくる内容ばかりなので、何も言わないことにした。
ただ…
「もしさ・・ジュールが・・」
「ん?なに??・・・開発中の極少トマトは直径8ミリ・・・」
新聞の記事を見ながら、指先で8ミリを測っているジュールに聞いた。
「もし、ジュールが他国に行って、誰かに「君は外交官むいてないよ」と言われたら、どうするの?ショックだよね…辞めたくなってしまう?」
すると、想像の極少トマトの直径を指先でつまむ様にしながら、ジュールはポツリと答えた。
「そんなことじゃ、外交官なんてやっていられませんよ」
こちらを見ようともせずに、極少トマトを想像し続けているジュールの言葉に、一瞬、胸を貫かれるような痛みを覚えた…が。
「そりゃ、そうだよね」
よく考えたら、彼に適職だと外交官を進めたのは、この私で…いまだその任務を与え続けているのは、私なのだ。
そして、彼はこんな質問を投げかける私に命じられて、他国へ赴くのである。
自爆的…というか、本末転倒も甚だしい質問だった。
嫌だといってもいない人に、嫌だったら辞めてもいいというようなものである。
「ごめん、変な事を言った」
「ううん…」
ジュールは、見えないスプーンで極少トマトを掬う真似をしつつ、言った。
「それに、誰かがむかないと言っても、それは私が仕事をする事に何ら関係しないから」
「うん、そうだね」
なんだか、ほっとした。
そして、彼にこの職を与えた自分って、もしかして結構すごかったのかもしれない。
なんてちょっと思ったりした。
当人は、あいかわらず至極真面目な顔をして、極少トマトの記事を読んでいるようだが。
「ジュールがいてくれてよかったよ。私、結構ネガティブだからさ」
新聞を読むジュールの前に座って言ってみる。新聞に隠れて顔は見えないだろうが。
「トトがネガティブ?」
ジュールは驚いたように、新聞をおろして、私と顔を合わせた。
「だって・・先の事を考えると、つい・・こう・・・悲観的になってしまうんだよ」
すると、ジュールは
「なんだ、結構ポジティブじゃないですか」
と言う。
「なぜ?」
「そもそもネガティブだったら、悲観的になる以前に、先の事なんて考えないよ」
「そ、そうか!」
目の前が、開けた感じがした。
「ジュールってすごいね!超ポジティブじゃん!」
「?そうかな?」
ジュールは不思議そうな顔をして、頭をかきながら、再び新聞を顔の高さに上げた。
「そんな事言えるなんてさ、すごいポジティブ人間だよ!」
そう言うと、ジュールはまた新聞を降ろし
「そんな事言われたの初めてなんだけど…」
照れくさそうに笑った。
「うん、すごい。すごいよ!ありがとう!」
思わず、目の前の膝に頬ずりをすると、ジュールは新聞をはずし、困ったような顔で
「え?あ・・・ところでね、極少トマトって何か使い道あるのかなぁ?
さっきから考えていたんだけれど…」
ぶつぶつと言いながら、指で曲線を描きつつ考えているらしい。
「サラダとか、スープとか、パスタに入れるんだよ」
「うん、そうなんだろうけれどね。やっぱり、これの希少性を伝えるにはこうして…」
と、掬うような手振りをいれる。
「スプーンで掬って食べるのが、一番じゃないかと思うんですよ」
「うん、シンプル イズ ベストぉ~♪」
なんだか、意味もなく楽しくなってきた。
「やっぱり、トトはポジティブだね!」
ジュールは笑う私を見て、同じく笑いながら言う。
―ジュールといると、ポジティブになれる―
それが一番私にとって幸せな事なのだ。

END

