-DAY-

宇宙人1/2

「なぜ、高層ビルの展望台が?」
360度の景観を目の前に、リヒャルトが呟く。
そして、グレーのつり目がちな大きな瞳をRQに向けた。

「なぜ…“デートコース”なんだ?」
「なぜってさ、あんた」
RQは一歩前に進んだ。
そして、大きなガラス窓の前に立って
「景色がいいだろ」
と言った。

今日のRQはピンク色の髪ではない。
太陽の光がキラキラと黄金のシルエットを輝かせる。
リヒャルトは、眩しそうに一瞬目を細めた後、また聞いた。
「ここから眺める空も、地上から見る空も変わらないと思うが?」
「…」
RQは、少々ぎょっとした表情で窓の外…上、下を、そして遠くを見つめた。
「普通、真昼間から展望台で上を見つめる奴はいないぜ…」
「?…そうなのか?ならば、なぜ??偵察の必要もないのにどうして?」
さっぱりわからないといった様子で、リヒャルトは近くのビルの窓を見つめた。
会社の食堂のようだ。会社員がランチのトレイを持って席についている。
「彼は、栄養バランスが悪そうだ」
「どうして、そこ気になるんだよ!?」
すると、リヒャルトは機嫌が悪そうに視線を落とした。
「人の生活を上から見下ろすのは気分のいいものではないな。気になってしかたがない」
「…まぁ、そりゃあんたはな」
リヒャルトの前職が元暗殺者…と考えれば納得がいく。
昼間にビル街を眺めるという楽しみがわからない理由も。
たしかに、偵察や狙撃という目的があってこその高層ビルだろう。

RQは、ふと思い出したように言った。
「でも、夜景を見るのは嫌いじゃなかったよな…たしか前も、ほら二人で船を見たりして…」
その言葉を聞くと、リヒャルトの顔が見る見るうちに紅潮してくる。
「余計なことを言うな!」
「大声出すなよ、ターゲットに見つかっちまうだろ!てっ!!」
RQの足をグリグリと踏みつけながら、リヒャルトは「わかっている」と小声で言った。

今回、二人がこの場所“カップルに最近おすすめのデートコース”にいるのか。
理由は、昨日急に入った依頼のせいだった。

「仕事の依頼が入った」
情報部長のマックスに出動命令が出たのは、その日の午前中。
「で、何なわけ?」
長官室に出向したマックスは、リヒャルトが差し出した書類を受け取り、長い前髪を掻き揚げた。
「依頼人はリリアン・トリート」
「へぇ、女の子?」
緩い笑みを口元に浮かべながら、マックスは書類に目を通す。

「リリアン・トリート嬢は、友人の安否を気遣っている。彼女の友人ジェシーの交際相手は、トリート嬢から見ると危険な人物のようだ。二人はさっそく明日デートするという。
二人を探ってほしいと依頼が来た」
「あのさぁ」
マックスは、眉を顰めた。
「どうして、これが僕達の仕事なのか聞いていいか。地元の探偵事務所にでも依頼すれば、すむことだと思うんだけどさ」
リヒャルトは額に手を当てて溜息をついた。
「リリアン・トリート嬢は国防長官の娘だ」
「なるほど。我が侭娘のおせっかいってやつか」
「それだけではない」

リヒャルトは、PCの画面を見ながら説明を始めた。

“ねぇ、聞いて頂戴!私の友達が危ないの!変な男と付き合ってるのよ!!ジェシーは、私が何か言っても聞かないし、はっきり言って彼女夢中なの。あの男…エイドリアンに。
あの男、この前のパーティで知り合ったときから嫌な感じがしていたわ。
なかなかのナイスガイだけど、でも微笑みがいやらしいのよね。
いかにも、ジェシーのパン・・ティー(!)に手を…(!!)手を突っ込みたい(!!!)って雰囲気…で、で…(///)”

「なぁリヒャルト。無理にギャルのメールを読み上げる必要はないと思うぜ」
「くっ!!」
リヒャルトが顔をあげると、いつの間にかRQがそばに立っていた。
「おのれ、いつの間に!」
「恋は知らない間にやってくるものさ!」
RQは大袈裟に両手を広げて、笑ってみせた。
「ところで、その後を教えてくれよ。エイドリアンはジェシーに突っ込みたいんだろ?」
「省略しすぎだ、ばか・・」
マックスさえ呆れ顔で、RQを見やる。

キリキリとした表情で、リヒャルトはまたメールに目を通し始める。

“でも、下心見え見えって、そういうのは二の次なの。問題なのは…”

そこで、リヒャルトは言葉を止めた。

“問題は、彼女の隣に座っているエイドリアンの背中がニョニョって動いたから”

「ニョニョ??」
マックスが繰り返す。

“背中に口があるんじゃないかって思ったわ。そういう不気味な動きをしたのを私は見た。
あいつはモンスターよ!間違いない…”

「おやおや、こいつは…」
RQはニヤリとする。
「情報部の出番というより、俺達の出番なんじゃねぇか?」

ふーん、とマックスは肩を上げてみせる。
「そこのところは長官判断だけどな」
「ふむ・・」
リヒャルトはメールを閉じた。
「いきなり実働部隊が出動というよりは、先に情報部に探ってきてもらうのが最適ではないか。
今の時点で、彼女の発言は信憑性が高いとは思えない」
「なんていうか、こういう時期ってあるんだよね~友達に恋人ができるのが複雑な年齢ってさ」
マックスが軽く溜息をついて、書類を小脇に抱えた時だった。

リーンリーン♪

机に置かれた電話が着信音を鳴らした。
「私だが…ああ。なに?!回してくれ」
リヒャルトの表情が一瞬強張った。

二人が注目する中、リヒャルトは「え、でもそれは…」「私としても」「…しかたありません」
「貴方からのご依頼 ならば」「・・・・承知いたしました」

そうして、しばらく黙っていた。
ふぅと天井を見つめて、「マックス、この件の情報部への依頼は取り止めだ」と言った。
「ん、まぁいいけどさ」
マックスは書類をリヒャルトの机に戻す。
「で、どうなったんだ?」
なぜだか嬉しそうにRQは聞いた。
「国防長官からの直々の依頼が入った。この件について、本気で調べて欲しいと。だが、あくまで個人的な目的なので人員は割いてくれるなという…難題だ」
「何も…調べるとなれば、情報部でも本気はだせるけどね」
少し不服そうなマックスに、リヒャルトは
「これがSSGに来た依頼だったのなら、もちろん情報部に任せる。だが…」
そう言って、ポツリポツリと呟いた。

「これが、私のお世話になっている方からの依頼でなければ、丁重にお断りしているはずだ。
二度目の依頼は私本人に来た。国防長官から直接」
「げっ、それはただごとじゃないんじゃない?!」
マックスは、気まずそうに後ずさる。
「リリアン・トリート嬢が父親に泣きついたそうだ。友達を救うのに最上のやり方はとってもらえないのか、と。だが、国防長官としてもこんな個人的な目的のためにSSGの人員を割くのはまずいと判断したのだろう。ならば、一番権威のある人間一人を指名して依頼するという方法をとったらしい」
軍帽を脱ぎ、疲れた様子で、それを机の上に置く。

「じゃあ、長官がデートを監視すると…。なんてことだ、まさしく地獄のデートコース…」
呟いたかと思うと、マックスは
「それじゃ、依頼はなしってことで。また今度」
足早に部屋から退散した。
今日のランチタイムは哀れなカップルの末路について話題が飛び交うだろう。

「む・・・」
リヒャルトは珍しく頭を抱えた。
毎日の仕事量は多い。…だが、問題はそこではない。
「カップルの監視…」
危険な生物なら殺す。そういう想定ならいくらでもできる。
だが、今回の依頼はそれだけでは済まないような気がしていた。

「ふん、しょうがねぇな、オレが着いていってやるよ」
「おまえは必要ない」
「まぁそういうなって。もし予想もしない事態が起きたらどうするんだ。連絡役は?」
「文明の利器がある」
リヒャルトは、猫のステッカーが張ってある大変可愛らしい携帯を取り出した。
「敵に電波を妨害されないとは限らないよな」
「む・・、では影を一人同行させる」
“影”というのは、任務中の隊員を密かに守るために存在している連絡用の隊員のことだ。

「カップルを監視するんだぜ…わかってんのか。カップルだぞ!」
言い聞かせるように、RQは声を上げた。
「いちゃいちゃしてるかもしれないんだぜ?それこそ突っ込み現場に居合わせるかもしれねぇ!」
「…だから、なんだというのだ・・・・」
あきらかにイラだった様子で、リヒャルトは呻く。
「その…あんたがドギマギして感じちゃったら、どうするつもりなんだ!」
「その時は・・・ど、どうすることもできんだろう!」
思わず、リヒャルトは叫んだ。

叫んだ後ではっとなる。

「だから、なんだというのだ!」
RQはニヤリとしながら言った。
「だ・か・ら、オレが同行する。こうなったら、さっさと仕度しないとな!」
「お、おいっ!!」
悠々と部屋を出て行くRQ。

呆然と見送ってしまったリヒャルトの前に、再び現れたRQは、金髪の長い髪を一まとめにした姿だった。

「あんたが、いつもうるさいからアイデンティティーを伏せてやってるんだぜ」

“カップルに最近おすすめのデートコース”というタイトルの雑誌を差し出して、ウインクをしてみせた。


二人の前にいるカップルは、初々しくそっと指を合わせては、ドギマギした様子で離した。
いくぶん男のほうに余裕があるようだ。
もしかしたら、ワザと初々しい態度をとっているのかもしれない。
やがて、二人は展望台レストランに入っていった。

「追うぞ」
「OK」
リヒャルトとRQもレストランに入る。

二人は、ピザとフライドチキンを注文したようだ。

「オレ達も何か注文するか」
RQはハンバーガーを、リヒャルトはサラダを注文した。
「オレは以前から思ってたんだが、あんたは菜食主義者なのか?」
「なぜ?」
トマトをフォークで突きながら、リヒャルトは首をかしげる。
「いつも食堂では、豆スープと胚芽パンとオレンジジュースだろ?たまに酒も飲むが」
「い、いや…これが慣れているというか、他の物に慣れがないというか…」
なぜか恥ずかしそうに俯き加減になってしまう。
「私の育った場所は、あまり食材が豊かでなかった。だから…。でも肉も魚も食するが」
「ふーん、挑戦してみるのも面白いのにな。たとえばコッペリウス!」
ハンバーガーを頬張りながら、RQはSSGの医学博士の名前を出す。
「あいつなんか珍味好きが高じて、生きたマムシを食おうとして死にかけたらしい。そこには占い師の兎兎も同席していたとかで、兎兎のブラコン弟が怒り狂っていたぞ」
「彼らと一緒にしないでくれ…」
溜息をついたリヒャルトだが、ターゲットが動くのを見て席をたった。
すばやく会計を済ませて、後を追う。

「次は、ここじゃないか?軽くショッピング。相手の服とかの趣味を知るにはもってこい」
ショッピングセンターの前でRQは楽しそうに話した。
「うむ…」
実際に、二人はそこに入っていくようだ。
「だが、よくこうも混んでいる中で買い物なんてできるな?尊敬に値するぜ、おっと!」
「これもトレーニングの一つだと思え」
ぶつかりそうな人ごみを抜けながら進んだ。

立ち止まったのは小物屋、そして次にアクセサリー店。
「アクセサリー店?結婚でもするつもりなのか?」
リヒャルトの言葉に、RQは目を丸くした。
「見かけによらず、思い切ったことを言うなぁ」
「ターゲットの考え方一つだろう」
「いや、リヒャルトがな」
「馬鹿なことをいうな…私はまだっ…」

その時、ふとリヒャルトの視線が鋭くなる。
たしかにターゲット=エイドリアンの背中が不自然に動いた感じがした。
だが、まだ何とも確証が持てない。

「こういう場合って、わざとぶつかるとか・・・あり?」
背後からRQが囁く。RQも何かを見たらしい。
「いや、下手な刺激はしないほうがいい。様子を見よう」

二人は、なかなかいいムードで店を出てくる。ジェシーの片手には小さなバッグ。

「二人の気持ちがそこまで堅いのなら、そちらの件に関しては口出しはできないが、背中のブツは気になる…」
「オレ達も入ろうぜ、ネクタイピンくらい買ってやるよ」
さりげなく肩に手を回し、RQがリヒャルトの耳元で囁いた。
「キサマは見ていなかったのか、あの二人はもう店から出てきた。追うぞ」

一人でスタスタといってしまうリヒャルトを見ながら、RQはポツリと言った。
「やっぱりオレが着いてきて正解だったな」
リヒャルトの恋愛感覚は局地的すぎる…とまではさすがに声には出せなかった。

二人は、ショッピングセンターの向かい側にある公園に入っていく。
いつの間にか、太陽は傾きかけていた。
「オレだったら、このままあんたを誘って、あの…」
と、上の方を指した。
「観覧車に乗りながら、さっき買ってやったアクセサリーをつけてやるのにな」
リヒャルトはRQの言葉に足を止める。
たしか公園の真ん中には観覧車がある。
二人は、ゆったりとした足取りでそちらに向かっていくようだ。
先ほどよりも親密に腕を組んで…。

「おまえは…」
前を行くリヒャルトが複雑そうな顔で、RQを振り返った。
「どうした?」
「私よりもあの二人の行動がわかるのだな…」
悔しそうな…がっかりしたような表情。
「べつに、そうたいした事じゃねぇよ」
「そうか…私は…あの二人はジョギングを始めるものだとばかり思っていた」
「ジョギング?!」
思わずRQが声を上げると、リヒャルトは続けた。
「ランチにピザとフライドチキンを選択したのだから、そのくらいの運動を…」
「は…はぁ…」

展望台で景色を楽しんだ後、ショッピングでアクセサリーを買った後のカップルが、いきなり公園で走り始める…?まさかな。

「…オレは、あんたのそういうところが一番好きだ。オレでよければいつでも付き合うぜ!」
「…」
リヒャルトは訝しげにRQを見ている。
「それよりも、オレ達も観覧車に乗ろう。あの二人の近くに接近する必要があるからな」
「ん…」

観覧車は、この時間にしては空いていた。
先に歩いていった二人が乗り込むのを確認し、すぐに駆け寄った。
「お、お客さん!!」
係員が叫んでいるのを無視して、リヒャルトとRQは観覧車のドアを開け、目にも止まらぬ速さで乗り込んだ。(よい子は決して真似するんじゃねぇぞ!BY RQ)

「これは面白い!」
リヒャルトは乗り込んだ途端に目を輝かせた。
「よかったな。あんたが観覧車好きだとは思わなかったぜ」
「もう少しスピードをあげさせる事はできないのか?トレーニングにも使えそうだ。
時速60kmの自動車に飛び乗る方法は…」
「観覧車は初めてだったのか?」
「あ、…ああ」
ゆっくりと地上から離れる室内で、リヒャルトの白い顔に夕陽があたり、赤く染める。
「ふーん」
RQは結んだ髪を解いた。
はらりと髪が広がるなり、黄金色に輝く。
「…ん」
ちょうどRQの後ろのほうから陽が差しているので、リヒャルトは顔を手で覆った。
「眩しい」
「オレが?」
RQは、そっと顔を近づけ
「影を作る方法を教えてやろうか?」
「え?」

「っん?!」

確かに眩しくない…ここまで近づいていれば。

「…ん、ふっ…」

舌の触れ合う湿った音が、りヒャルトの意識を現実に戻した。

「やっ!!」

抵抗を見せるリヒャルトを無理やり押さえ込んで、RQは乱暴に口を吸った。

「あと、少しだ…」

ドン!と音がしてリヒャルトはRQを突き飛ばした。

「間に合った」
「ふざけるな!!」
という二人の声が重なる。

観覧車は一番上に着いていた。

「観覧車の一番てっぺんであんたとキスするのが、オレの夢だった」
「何を…!」
眉を吊り上げるリヒャルトを見て、RQはニィと口端を上げた。
「夢を叶えられたばかりか、こんな真っ赤なリヒャルトを見られた」
「!!」

リヒャルトは、あわてて自分の頬を両手で覆った。

「誰もほっぺなんて言ってねぇぜ。あんたには夕陽が似合うな」
「!!…た、ターゲットの様子はどうだ?」

くるりと背後を向き、リヒャルトは「…っ!」と声を上げた。
ジェシーとエイドリアンの姿は重なっている。
何をしているかは明らかだ。

「ほらな、オレが付いててよかっただろ?」
言葉を失ったまま愕然とした様子のリヒャルトを見ながら、RQは言った。

観覧車を降りた後、前の二人の会話が聞こえてきた。
「ジェシー、見たかい?僕達の後ろにいたカップルを」
「え、ええ。綺麗な男の人達二人が…幸せそうだったわ。長い間…ずっとキスしてたもの」
「僕達も同じだね」
「うん!」

見るからにガーン!といった様子のリヒャルト。
フラフラとしながらも、かろうじて言葉を紡ぎだす。
「…明日すべての髪が白くなったら、キサマのせいだ」
「どうせなら、髪じゃなくて心を染めてくれよ」
綽々とした様子で、RQはターゲットの後取りを追う。

ところが、ターゲットの二人は素早くタクシーに乗り込んだ。
追ってきた二人は、次のタクシーに飛び乗る。
「あのタクシーを追ってくれ!決して見逃すな!」
「は、はいっ」
リヒャルトの声は殺人犯を追う覆面警官のそれ。
哀れな運転手は、ガタガタ震えながらハンドルを切った。

渋滞に巻き込まれながらもタクシーは進んでいるが、前の信号でターゲットとは距離ができてしまった。
「どこに行くと思う?」
「…」
リヒャルトの問いにRQは黙っている。
「聞いているのか」
「…あんたが怒りそうな場所だな…っと」
何かを思い出したように、RQは拳を握り、指を鳴らし始めた。
「そういえば、オレは今回、まだ一度も人前で脱いでねぇ!
う、うぉぉぉ!!」
叫んだかと思うと、自らのシャツを引き裂いた。
パン!パン!と、はじけ飛ぶボタン。

「!!!」
ボタンが運転席にまで飛んできても、運転手はなるべく後ろを見ないように神経を集中しなければならなかった。
「なんなのだ!普通は人前で脱ぐ機会など、そう毎日ないだろう!」
微妙にズレたことを言っている、もう一人の客。

そして、ドサリと大きな音がした。
「やめろ!馬鹿っ!!」
「いますぐ、ここでヤリてぇんだよ!」

「・・・・」
だめだ。どうしても気になる。
運転手は、後部席を気まずそうに振り返った。
「あ、あの…お客さん」

すると、半裸の男が細身の男をシートに押し倒していた。
「運転手さん、悪りぃな。オレはもう我慢できそうにないんだ。今すぐにここでコトを始められたくなかったら、もっとスピードあげてあのタクシーを追ってくれよ。いくとこは同じだからな!」

ここは、中心地から少し外れたホテル街。
RQは脇腹を押さえながら、建物の影で一息ついた。
「あ~いてぇいてぇ!だが、さすがリヒャルトだ。あの狭い車内で的確に急所に当てるとは…」
「キサマがふざけた事をしたからだ!」
「でも、オレのおかげで、間に合っただろ?」

ターゲットが入っていくのは、ホテル。
リヒャルトが眉を顰める。
「あの二人は出会ったばかりと聞いていたが・・」
さっきまで、結婚するのでは?とかいってたじゃねーか…と思いながらも、RQは
「オレ達も似たようなもんじゃないか!」
と言い、リヒャルトに2撃目を食らった。

「ともかく、二人のそばについてないとな」
「…」
「どうした行くぞ、リヒャルト!」
「…わ、私と…か?」
「そりゃ、あんた以外誰がいる?一人じゃ、ああいう場所は入らねーだろ」
「しかし、私は…男だ」
「関係ないだろ。ここら辺はそういう奴も多いしな」
「!!…いや・・だからって、私は…」
「なんなら、オレだけで潜入してもいい。だが、パートナーは必要だ」

そう言うとRQは道路を渡り、半裸姿のまま、ふらりと道端に立った。
そして、甘い眼差しを通る男達に向ける。
リヒャルトが目を離せずにいると、10mほど先にいる頭にチェーンを巻きつけたレザーパンツの男がゆったりとRQに近づいていく。

「なぁ、ちょっと付き合わないか?知り合いの店が近くにある」
ところが、RQは首を振った。
「酒なら…個室で飲みたい」
「ほぉ」
男は顎鬚に手を当てると
「で、どこがいい?」
RQの腰に手を回した。
ホテルに向かって、二人は歩き出す。

「まてっ!!」
道路の向こうから怒鳴るような声が聞こえたと思うと、RQはきつく腕を掴まれた。
「あんだよ、兄ちゃん」
男は不服そうな眼差しをリヒャルトに向ける。
「こ、この男には先約がある!」

「なんだ、モテなあんた」
男はうっとりとした視線をRQに向けて
「で、どうするんだ。この子猫ちゃんは必死だぜ?オレのほうが優しく抱いてやるが…」
じゃれるように自分の髭をRQの頬に擦り付けながら、リヒャルトを指差す。
「やめろ!それは私のものだ!!!」
堂々と宣言し、目を丸くしている二人にかまわず、リヒャルトはRQの腕を引き、ホテルに入った。
「二人!ツインで頼む!!」
「え?」
聞きなれない単語を聞いた受付の男は、聞き返す。
「うちにツインはないが…キングサイズってことか?」
そこで何か言おうとしたリヒャルトの口を塞ぎ、RQは
「悪いな、こいつ、この国に着いたばかりで、まだ言葉がうまく話せないんだ」
「そうか、じゃ、これ」
派手なストラップ付きのキーを受け取り、RQはエレベーターに乗った。
「おい、あの二人の部屋の近くなんだろうな」
「隣のはずだ。この手のホテルは、いちいち客の顔見て部屋を決めるような洒落た真似はしない。ほぼ順番どおりのはずだぜ」
「む…」
頷きながらも、リヒャルトは何か納得のいかないような顔付きをしている。
「あんた、もしかし…なくても、こういう場所初めてだよな」
「…」
黙り込むリヒャルトの背中をRQが押した。
「ひゃ!!」
「…?着いたぞ」
ここに入ってからリヒャルトの様子がおかしい。

じっと身体を固くして、何かを警戒している様子…。

「部屋入るぞ」
「あ、う…」
RQが先にリヒャルトを入れようと肩を掴むと、ビクリと震える。
「?」
その時、どこかの部屋から喘ぎ声が聞こえた。
「早くドアを閉めろ!」
「ああ、それでか・・」
ドアを閉めるなり、RQは
「結構ここ音漏れ酷いな」
と呟く。
これが当たり前と慣れている人間ならともかく、初めてこういう場所に入った人間には刺激が強いのかもしれない。
「でも、今回の目的には好都合かもな」
「…ん」

リヒャルトは俯き加減でソファに腰を下ろした。
どうにか平常心を取り戻そうと、横に置いてある雑誌を手にとる。
しばらくペラペラとめくっていると、RQが冷蔵庫から飲み物を取り出して来た。
「参考になるものはあったか?」
RQもリヒャルトの見ている雑誌を横から除き、ニヤリと笑う。
「だいたい、リヒャルト。その雑誌、上下逆さまだぜ」
「え、え??」
しかもよくよく見て見ると…
「わぁーー!!」
モザイクなしのページが開いたまま床に落ちる。
「好きな体位は見つかったか?」
「っくっ!!」

耳まで真っ赤になっているリヒャルトを見下ろしながら、RQは向こうのドアを指差した。
「オレはシャワー室にいる。…声をかけたくなったら、開けてはいってきてもいいぜ!」
「誰がっ!!それに、シャワー…なんて」
声が小さくなっていくリヒャルト。
「シャワー室って、意外と声響くからな。隣室の様子を確かめてみる。今すぐにあんたの期待にはそえない。残念だが」
「私は!」

「きゃーーーー!!」

言いかけたところで、隣室から鋭い叫び声が聞こえた。
「おい!」
「ああ!」
先に部屋を飛び出したRQは、隣室のドアに手をかける。
「鍵かけてないなんて、まったく大胆だな!見せる気満々ってか」
「踏み込むぞ!」

リヒャルトが部屋に飛び込むと…

ジェシーが目を見開いてベッドから転げ落ちている。

上半身裸のエイドリアンの背中には…モモンガのような生き物が張り付いている。
一見、可愛らしく見えるが「キキーー!!」と鋭い声をあげた。
「う、うわーーー!!」
エイドリアン本人は小動物に憑かれていた事に気づいていなかったらしい。
悲鳴をあげながら、もんどりうって暴れている。

「こいつは?」
「第4惑星ベガの逃げ出した野生種といったところだろう」
「逃げ出した野生種??」
「つまりはエイリアン同士の密輸入品!見かけはともかく獰猛な種だ。人の薄皮の下で繁殖する」
「なるほど」

キー!!
小動物は高い声をあげながら、牙をむいた。
「ちょっと可哀想だが」
RQが腕を伸ばすと、素早い動きで空を舞う。
「任せろ」
リヒャルトが隠している鞭を振るうと、鋼鉄の鞭は小動物の胴体に巻きつき、拘束した。
続いてRQが拳を振うと、ドンと音をたてて動かなくなった。
「怖がっている二人は…」
RQがズボンのポケットから小さなステッキを出すと、リヒャルトはサングラスをかけた。

ピカっと部屋が一瞬明るくなる。

・・・

「二人の記憶は消したが、どうする?」
「…続きか?いいぜ、今晩はここで二人過ごすってのも…」
「そうじゃない!!出会ったばかりの二人がこんな所で…」
ブツブツ言いながら、リヒャルトは目を反らす。
「だから、それはオレ達も同じだろ?オレ達だって出会ってすぐに気持ちいいことしただろ?」
「…っ!!あれは…犯罪だ」
「ともかく、そっちに関してはオレたちが関わることじゃねぇ。たとえ友人らしいリリアン嬢でもな」

SSGに戻るタクシーの中。
「今日の任務は…複雑だった」
リヒャルトは不機嫌そうに窓の外を眺めた。
「そうだな。デートを監視…しながらデートするってのは複雑すぎた。今度は仕事抜きにしよう」
「…ああ」
「それと、嬉しかったぜ。あの告白」
「ああ、あ?!」
「これで次のデートの約束は取り付けたし、熱い告白も受けたし~」
「ちょっと待て!私は約束などしていないし、告白などしていないぞ!」
「あんな大胆な発言をして??私のもの…か」
「っ///あ、あ、あれはっ!!私の部下という意味だ!おまえはSSG隊員で私の部下でもある!
下手な行動をされると困る!!」
「フフフ・・・」
RQは軽く微笑むと、リヒャルトの頬に手を置いた。
「今日、何度この頬が赤くなったかは…オレしか知らないんだな」
「…離せ、バカ…」


1週間後。

リリアン・トリート嬢からの返事はなかったが、国防長官から連絡があった。

「今回のターゲットエイドリアンとジェシーは結果的に別れたらしい」
「へぇ、そいつは」

長官室でRQは報告を聞いていた。

「あの件か。別れたって…」
ちょうど、マックスがドアを開け、書類を差し出す。

「理由は、なんとなく男らしくない気がしたから…だそうだ」
「あの時の記憶がほんのわずかに残っていたのかもな、フーン」
「まさか、リヒャルトが何かしたんじゃないだろうな?可哀想に…」
はぁ、と一息ついてマックスは部屋を出て行った。
今日のランチタイムの話題は、「長官とデートコース。悲劇のカップルの実例」となるだろう。

「ところで、あんたは次にどこへ行きたい?」
RQは“カップルに最近おすすめのデートコース”の雑誌をリヒャルトに差し出した。
「は?」
「観覧車は乗ったから・・・次は水族館とかどうだ?」
「いやだ」
「そうか、やっぱ、あのホテルでの続きがいい?あの時は期待に添えなかったもんな。
今度は、もっとスリリングな仕掛けがあるホテルに行こう!」
「誰もそんな事言ってないだろう!第一、私は何にも期待なんて!…」

意気揚々と雑誌を広げるRQに、苦々しい表情のリヒャルトが鞭を持って迫ってくる。

「マジで恋する数秒前って、この事をいうんだな…」

END

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