その日、SSGではイベントが行われていた。
場所は、施設内の多目的会場。
ここは、普段トレーニングにも使われているが、年忘れ祭りなどイベントごとにも使われている。
普段、戦闘にあけくれている男たちのために、 月に一度、様々な趣向でパーティは行われていた。
今回は、日本の祭りがテーマになっており、浴衣姿も何人か歩いている。
そもそも浴衣を見たこともない者も多く、怪しげな着方をしている場合も多々あった。
そんな中で、きっちりと浴衣を着ているので目立っていたのは、意外にもRQだ。
過去にも何度か着たことがあるので、どことなく着慣れた雰囲気もある。
トレードマークのピンクの長い髪をアップして、それらしく簪を挿している。
【祭り】と書かれた団扇を持っている姿も艶やかだ。
「うわぁ、見とれちゃうね!」
RQの下のほうから声がした。
占い師の兎兎は、はっぴを着て鉢巻をしめていた。
今にもお神輿を担ぎ出しそうである。
「おまえも、楽しんでそうじゃないか!」
「うんうん、私のお祭り好きは有名なんだよ!」
そう言いながら、トトは焼きそばの屋台に走っていった。
ここの会場には、いくつかの夜店も出ている。
ちなみに、焼きそばの屋台でやきそばを作っているのは、兎兎の異母弟の泣く巨人も黙る機械部長の潤一。
「ここで隠し味にオイスターソースを入れます。小さじ2杯分」
「へぇ」
客からすれば、どうでもいいから早く作ってくれ!と言いたかったが、なにしろ相手が相手だ。
うんちく美食家ほどめんどくさいものはない。
「これには、七味唐辛子もあうんだよ」
兎兎が横から口を出す。
「辛さを控えたい方は、刻み海苔を入れてもいいでしょう」
潤一が付け加える。
「よし、完璧だ!」
だいぶ説明が長かったが、焼きそばが出来た。
「うーん、うまい・・・」
焼きそばを口にした人々は、一斉にうっとりとした眼差しをした。
ソースのくどさなど少しも感じない新しいタイプのソース焼きそばだ。
さすが、潤一というべきか。
本人は「当然!」と胸を張っていた。
「これ、本当に日本の料理なのか?オレは寿司しか知らないけど」
「ソース焼きそばは、日本食だよ。もちろん、本式の焼きそばは中国食だけど。ここまで味が違ってしまうと、もう日本の国民食といえるんじゃないかな。じゃがいもたっぷりのカレーがインド食じゃなくて、日本食みたいなもんさ」
「ふーん??」
彩に説明を受けても、リューはぴんと来ないようだった。
東南アジア出身の彼にとっては、中華麺を使っているという時点で、中華料理と日本料理の区別がつかない。
そこへ、Dr.コッペリウスがニヤニヤとやってきた。
どうも嬉しいことがあったらしい。
「皆、よく聞きたまえ!」
一升瓶を2本抱えたコッペリウスは、
「祭りには酒と女とケンカと言われている」
「そうなのか??」
「ケンカは聞いたことあるけどさ」
彩が首をかしげた。
コッペリウスが酔っているのは確かで、骨格標本の手にお猪口をのせて
「おおすまないね、コッペリア!」
と言いながら、くいっと飲み干す。
「私もご相伴に預かってもいいかしら?」
ちょこんと兎兎が座って、お猪口を差し出した。
「もちろんさ!楽しもうではないか!はははは~~~」
一升瓶の減り具合からして、そう量を飲んでいるわけでもないのだが、コッペリウスは酒があまり強くないらしい。
・・しかも笑い上戸だった。
「へーへへへっへへ・・ゴホゴホッ」
兎兎もしばらくすると、怪しげな踊りを始めた。
この人も酒が強くないのだ。
しかも、酒癖が悪かった。
脱ぎだそうとする兄を止めて、潤一は酒をそこらへんに持っていくように、顎をくいっとあげる。
「へぇ、これが日本酒ねぇ」
普段は、あまり酒を飲まないRQがグラスにトクトクと酒を入れているのを見て、潤一が声をあげようとした。
「RQ、それのアルコール度数は結構・・・・」
「うーん、この股引みたいのが邪魔なんだよぉ~~脱ぎにくいねぇ」
兎兎がうつろな瞳で、下半身に手をやる。
「兄上、いけません!」
もう、RQなんてどうでもいい。どうにでもなれ。兄上の下半身のほうが重要だ。
この時の潤一の判断が後々、大変な結果を呼ぶ。
(とはいえ、潤一にまったく責任はなかった・・・)
「おっ!この酒、甘いじゃねぇか」
RQは・・・日本酒をのんだことがなかった。
酒はあまり飲まないし、そんなに好きでもなかったが、いい匂いがしたので口にしてみたのだった。
当然、アルコール度数などは考えていない。
さらっとグラス1杯飲み干すと、すぐさま、足元がふらついた。
どういうわけか、身体が熱い。
・・・ああ~。
・・・・ヤリてぇ・・・。
ふらふらと、会場を出ようとする。
・・・リヒャルト・・・
ところが、目の前ににっこりと微笑んだ顔がある。
「・・・やぁ。なんだ、もう帰るのか」
彩だった。
「この会場ってトイレが遠いな」
リューは、ブツブツいいながら会場へ戻っていた。
もうすぐ0時になる。
そろそろ彩を連れて帰る時間だろう。
ところが、リューが会場の扉をあけて、ほの暗い照明の中で彩を見つけた時…
とんでもないことになっていた。
「どうした、いきなり?」
いきなり抱きついてきたRQを拒むでもなく、彩はRQの腕を撫でた。
「・・いい匂いがする」
ああ、こいつは僕を襲おうとしてるんだな。
と彩は考えたが、別に拒む理由はなかった。
なるようになれ、くらいにしか思っていなかった。
「ん・・・」
RQの唇が首筋をたどっている。
彩は浴衣の裾からそっとRQの太腿を愛撫した。
「ヤリたい?」
「・・・ああ」
そのまま、二人は唇を重ねた。
そういえば、彩は男が好きって言ってたな・・。
RQもそのくらいしか考えていなかった。
つまるところ、二人とも恋愛感情などなく、
「ま、いいか。こいつとヤルのも」
程度だったわけで。
もちろん、二人ともアルコールがまわってたせいで、理性を保っていたらこうはならなかっただろう。。。。たぶん。
ところが、まだアルコールが回っていなかった(さらにいえば常識人だった)リューには、そんなふうには見えなかった。
「おまえ!彩に何しやがるっ!!」
そばにあった一升瓶を持つと、それでRQの後頭部を思いっきりぶん殴った。
組織最強の男は、あっけなく潰れた。
「彩、大丈夫か!」
「え、あ、ああ。まぁ」
呆然としている彩を会場から、引きずりだすと
「なんで、抵抗しないんだよっ!!」
リューは怒鳴った。
「別に・・・どうにかなると思ったから」
「どうにかなってないじゃないか!おまえ、襲われてたんだぞ!」
「いや、なんていうか・・・べつにそれも」
リューも彩が男が好きだと言ったのは知っている。
しかし、それとこれとは別問題だ。
「貞操観念というか・・・そんなに古臭いこといわねぇよ・・・ただ、自分の身体をもっと大切に扱わないとダメだ」
「身体なんて・・」
「オレは、おまえのそういうところが大っ嫌いなんだよ!」
「リュー・・・」
リューがこんなに怒ったところを見たのは、ひさびさだった。
「誰とでも寝られる奴なんて、信じられない。・・そんなに軽いもんじゃないだろ」
「・・・僕は・・・とっくに忘れてしまった」
「忘れてんじゃなくて、麻痺してんだよ!本当は、そんなことできるはずないのに。
おまえがどんな人生送ってきたのかなんて、オレは知らないけどな。
少なくとも、本当のおまえは人一倍そういうの苦手だって・・・オレは知ってる」
二人は、黙った。
「人前で寝れないくせに、身体だけ開けるっておかしいだろ」
「それは・・・」
彩は、何度か口を開こうとしたが、リューが止めた。
「別に言わなくてもいいよ。でも、オレは、そんなおまえを見てるのがたまらなく嫌なんだ」
「・・・だったら、僕から離れればいいじゃないか」
「何言ってんだ」
そういうとリューは彩の手を引いた。
「おまえはこのまま部屋に帰る。それで、いつもどおりオレが寝たのを確認してから寝る!」
「でも・・・」
「ふー、オレはおまえの生き方まで変えられねぇよ。でも、面倒みるっていっただろ」
二人が廊下の向こうに去っていったあと、会場ではさらに酷いことが起きていた。
「やはり、貴様は誰にでも抱きつくのだな」
そう、運が悪く、問題の現場にはリヒャルト長官が到着したばかりだったのだ。
リヒャルトが見たのは、リューに殴られた直後のRQだったのだが、それだけで何があったのかは明白だった。
「言い訳は・・・しない」
RQは殴られた頭に手を当てながら、呻いた。
「そうか、ではおまえはこれから”こんちくしょーの淫乱浮気者”という不名誉な名前で呼ばれることになるが」
あくまで真面目に・・・真面目にリヒャルトは言った。
逆にその無表情が恐ろしい。
「うっ!!」
「まずい、長官。本気で切れてるよ!」
コッペリウスの影に兎兎が隠れる。
「そんなの私にだってわかっているよ!ああああ、あからさまに”浮気者”とか言っちゃう時点で理性失ってるーーー!!」
笑い泣きしながら、コッペリウスは恋人のコッペリアに抱きついた。
次の瞬間。
RQの半径10mの距離には人が一人もいなくなった。
それもそのはず、リヒャルトが鞭の陣を作り出していたのだ。
「さぁ、これで私とおまえの二人っきり!この状況下で何か言い残すことはあるか」
「だから、言い訳はしねぇって!!」
「では、本気だったのか?・・」
リヒャルトの無表情が崩れた。
だが、それは泣き顔などという可愛らしいものではなく、この世でもっとも恐ろしい鬼でもこんな顔はしないであろうというくらいに凄まじい表情だった。
「答えろっ!!」
「本気なわけないだろ!ただ・・・ヤリたいと思ったら、あいつが目の前にいたんだ!」
「この・・・変態がっ!!」
リヒャルトの鞭がRQの浴衣の中にするりと入り込む。
「ひっ!!」
RQは思わず悲鳴をあげた。
狙いが恐ろしい部分だったからだ。
「おっ!!おいおい、そこチョンされたら、永久にあんたとできないじゃないか!」
「それもそうだ。だが、今のおまえにはこんなものは不要だろう!」
「やめてー---!考え直してくれ!リヒャルトぉ~~~!!」
「なさけない声をあげるな、男らしく堂々としていろ!一瞬で済む」
「そんなっ!無理っ!!だから、オレは日本酒をはじめて飲んだら、頭がくらくらして、それで妙な気分になって、そしたら、あいつが目の前にいて・・・でもリヒャルト、あんたの事をずっと考えてた!」
「アルコールが入っていただと・・」
またするりとRQの浴衣から鞭が出てきた。
「なんでそんなに飲んだ」
「興味本位で・・・っていうか」
「日頃から、アルコールを摂取しすぎるなと言っているだろう!」
「おや、話の方向性が変わってきたようだよ」
と、焼きそば屋台に避難していた兎兎が呟く。
「あなたも興味本位でアルコールを摂取しすぎてはいけません」
こそっと潤一が顔を出す。
「わかってるよぉ~~」
さっきまで脱ごうとしていた兎兎は口を尖らせた。
「ごめん。」
「これで、アルコールも抜けただろう。ところで、浮気の最中に私を思い浮かべていたというのは本当か」
「・・その前から・・・」
「・・・」
「でも、軽い気持ちでやろうとしてたのは、事実だ。そのことに関しては言い訳はしない」
「今度から、アルコールを摂取するときは私がおまえを見張る。それでも、私の目の前で浮気をしたら、今度の今度こそ許さんぞ」
「・・・リヒャルト」
「わかったな!・・・二度も言わせるな」
背中を向けたリヒャルトに後ろから抱きつくRQ。
「あれれ?意外と早く仲直りしちゃったよ」
「現場を押さえられたわけではないからでしょうね。だったら、もっと面白かったのに」
焼きそば屋台の兄弟は、そう言いあった。
祭りのイベントは終了した。
もちろん、メインは酒でも女(約一名・・・骨格標本)でもなく、ケンカだった。
次の日。
リューが目を覚ますと、彩が隣に寝ていた。
「また夜中に潜り込んだのか・・・」
「おはよう」
彩も目を覚ます。
「誰より、きみと寝るのが僕は好きだ」
「朝一番にそれかよっ!!」
暑くて上半身裸で寝ていたリューは、あわててシャツを頭からかぶった。
「ふふ・・僕はきっときみの前でだったら、眠れる。今じゃなくて・・・もう少ししてからかもしれないけど」
「それって、信頼してくれてるって考えてもいいんだな」
「信頼っていうか・・・安心」
「・・そうか」
「安心っていうか、愛かも」
「え・・ちょ、ちょっとまて!!」
ベッドからあわてて飛び出したリューを見て、彩は腹を抱えて笑い出す。
「なんだよ、あんまり驚かせるな!」
そのまま、洗面所に入っていったリューの後姿に、彩はポツリと呟いた。
「まぁ、半分本気だけどね」
ここはリヒャルトの私室。
「おかしい」
リヒャルトはPCを前に首を捻っていた。
「なにが?」
ベッドからRQが声をかける。
「アルコールが入ると性欲が減退するとある。理性は失うものの、感じなくなってしまうそうだ」
リヒャルトは目をまんまるくして、じっとRQを見ている。
「それがどうかしたのか?」
「おまえは理性を失ってはいたのかもしれないが・・・」
「昨晩、3回じゃ足りなかった?とか・・・」
その台詞にリヒャルトの顔が一気に紅潮した。
「ばかもの!そんなことを言っているのではない!私はおまえが身体に変調をきたさないのがおかしいと言っているんだ!」
「変調をきたすほどは飲んじゃいないぜ。それに人にもよるだろ。あんただって、強い酒をあおった後で、一晩に何度もイっ・・・ブッ!!」
リヒャルトの投げたマウスがRQの鼻先を直撃した。
「ともかく、おまえはここ以外で酒を飲むな!」
「わかった」
RQは至極真面目に答えた。
「オレ自身、あんなのやだからな」
「そうなのか?おまえは、浮気ばかりしていると思っていた」
「んなわけないだろ。あんたに惚れてからはずっと・・・いいや、まぁいいや」
「きちんと答えろ」
「あんたに惚れる前までは、そりゃ言い訳できないほどだったとだけ言っとくよ」
すると、リヒャルトはベッドに寝ているRQのそばにやってきた。
「本当に・・・もうしないんだな」
リヒャルトの指先が、ピンク色の髪を梳いた。
くすぐったそうにRQは笑う。
「ああ」
「そうか。私は浮気をする奴は嫌いだ」
「じゃあ、浮気をしないオレは好き?」
「馬鹿もの!甘ったれるな」
先ほどマウスをぶつけられて赤くなった鼻を摘み上げる。
「いてっ!!」
「おまえの鼻が変形したら困るから、このくらいにしておいてやる」
言い残して、リヒャルトはアポロ(猫)を起こしに行った。
~後日談~
食堂に向かう廊下に、リューと彩が二人で歩いていた。
すると、向こうからリヒャルトとRQが二人で歩いてきた。
RQと彩がちらりとお互いを見る。
お互いに別になんの感情もこもっていない視線だったが、リューは彩を守るように自らがRQの側に移動した。
リヒャルトは・・
RQの尻をきつく抓った。
「いってーー!!」
「よそ見をするな」
その様子を見ている兎兎とコッペリウスは二人して、ニヤリと笑った。
「痴話喧嘩のあと、急激にラブラブ度が増したと思わないかい?あの二組」
「嫉妬も愛のうちって言葉もあるくらいだからねぇ。ドキドキしちゃったんじゃないの」
「私としては、彩とリューが気になるね」
「うーん、私としては、やはり長官とRQだよ。そのうち長官がデレはじめるかもしれない!」
そんなことを言われているとも知らず、二組のカップル?
は黙ったまますれ違っていった。
~END~
あとがき~
本当にリューがいい男に成長しつつあるのに、RQのこの馬鹿ぶりは一体?!
あと、長官は余程怒っていたらしい(さりげなくすごいこと言ってますね)。

