トトはその日がハロウィンだとまったく意識していなかった。
何しろ、今夜はじゃがいもが食べたいなどとリクエストしていたくらいだ。
トトの従妹のレオーネがやってきたのはそんな日のお昼時。
「あれ?ここにはなんのお菓子も用意していないんですね?」
悪戯っぽくレオーネにそう言われて、トトは今日がハロウィンだと初めて気づいた!
「まずい!今日はね、お城の入り口でお菓子を配る予定だったんだよ!」
計画はきちんとしていたのに、今日がなんの日かすっかり忘れていたトトは、大慌てで城の外へ駆け出していく。
イルミーネ国王が住まう塔の城は丘の上に位置していたが、そんなことは構わずに子供たちが集まっていた。
「トリック・オア・トリート!」
何度も叫んでいるのに、誰も出てこない。
何人かは残念そうな顔をして去っていった。
その後、真っ青な顔のおかっぱ頭の国王が巨大なバケツにお菓子をたくさん入れて、ものすごい勢いで走ってきた。
「いたずらしてもいいから、帰らないでおくれ!!」
必死の形相で、おかしな台詞を吐く大人を可笑しく思ったのか、残った子供たちは腹を抱えて笑った。
「何人か帰ってしまったの?」
トトは酷い自己嫌悪に襲われて身体中震わせながらも子供たちにお菓子を配った。
「帰ってしまった子が知り合いだったら渡しておくれね」
どうして、こんな大切な日を忘れたんだろう。
私がここに来た子供だったら、とてもがっかりしただろうに。
トトが気にするほど、子供たちは気にしていなかったかもしれないが、トト本人は胸が潰れそうな勢いだった。それで、共もつれずに街に降りることにしたのだ。
どうしよう。どうしよう…。
と悩みながらイルミーネの街を歩く。
なんで忘れてしまったんだろう。
そういえば最近口の中が乾いて眠りが浅かったのだ。
うまく乾燥予防をしていないのかしら?
そんなことを考えながら、とぼとぼ歩いていたら、城にいるかと思われたアルキュード公ジュールが目の前に現れた。
ものすごい偶然である。
「兄上??」
「ジュージュ…私、元気がないんだ。忘れっぽくて」
ジュールは兄が忘れっぽく元気がないのを見て取った。
(忘れっぽいのは兄の特徴で、元気がないのはその表情だったので)
「何か忘れてしまったんですか?」
手持ちの何かをどこかに置き忘れたのか…と思って無遠慮に聞いたのだが、その言葉を聞いた途端にトトは、「嗚呼!」と天をあおいで倒れかかったので、慌てて支える。
「ど、どうしたのです!」
「私、ハロウィンを子供たちに…嗚呼、忘れてたせいでお菓子をもらえない子がいたんだよ」
ここでジュールという人の賢さが発揮される。
普通の人では意味の分からないセリフでも、兄の様々な特徴を知っている彼ならではの直観力と推理力で『トトがハロウィンを忘れていたせいで、お菓子をもらい損ねた子供がいた。それをトトは悔やんでいる』ということがわかってしまったのだ。
「まぁ、それは可哀そうですが、巡り合わせという運もありますし」
極めて冷静にジュールは答えた。
「何かできないかな」
「次の収穫祭(クリスマス)で街の広場にお菓子を置いたらいかがです」
「う、うん」
トトから言わせると、次じゃ遅いのだ。今日中にできることをしたい。
「私考えたんだけどね。街の真ん中にある教会の塔の上からお菓子をばらまくのはどうかな?」
「異常行動だと…」
ジュールはきりりと真顔で返す。
トトから言わせるとすごくいい思い付きだと思ったのに、異常行動という言葉で切り捨てられてしまったのだった。
「今からできることならば、面倒ではあるけど…」
ジュールの思い付きにトトは顔を輝かせた。
・・・・・
「ねぇねぇ、次はあのお店に行ってみようよ」
子供たちが何人かで商店街を歩いていく。
イルミーネの商店街では、この時期、お店ごとにハロウィンのお菓子を配っている。
「あそこで焼きたてのクッキーがかならずもらえるんだって」
誰かがそう言った。
「いってみようよ!」
「いこういこう!」
仮装をした子供たちが「トリック・オア・トリート!」と叫ぶと、おかっぱ頭で不気味なお面をかぶった小柄な大人が黙ってクッキーを何枚か手渡した。
そこは、とあるレストラン。
オーブンを借りてクッキーを焼いているのはもちろんトトである。
レストランの窓際の席では、長身の男がクッキーの生地を伸ばしている。
「ジュージュ!もう全部焼き終わってしまったよ。もう一度生地を作っておくれ!」
「はーい」
ジュールが提案したのは、なじみのレストランのお菓子用オーブンを半日借りることだった。
ちょうどこのお店でもハロウィンのお菓子配りをしていたので、営業は夜からということになっているので都合がよかった。
クッキーならば、すぐに生地を作ることができるし、レストランなので設備も整っている。
とにかく、トトはイルミーネの街に住んでいる子供たちにお菓子を配りたかったのだ。
かといって、国王が街に降りて商店街で直接手渡し…ということになると大掛かりになってしまう。
なるべく正体を隠して、過ごせたら…。
そんな事情もくみ取ってジュールは提案したのだった。
(教会の塔の上からお菓子を投げる案よりは数段素敵な提案であった)
焼きたてのクッキーをもらって笑顔で帰っていく子供たちを見て、トトもほっとしたようだ。
なんだかんだと言っても、やはり私は兄の笑顔が見たいだけなのだ。
とジュールは生地を伸ばしながら考えていた。
・・・・・
「今日はね、素敵な日になったよ!ありがとうジュージュ!!」
帰り際にトトはジュールの手をとり、微笑んだ。
塔の城に帰るまでの道筋には誰もいない。
「それはよかった」
「今日ね、本当は最悪の悲惨な日になるところだったんだけど、ジュージュがいたから最高の日で終わることができたんだよ」
「ハロウィンってそういえばオカルト的な要素がありますね。ジャンク・オー・ランタンは地獄にも天国にもいけないとか」
「私はね、地獄から天国にいくことができたんだ。今の心地はそんな感じ」
トトは、誰も見ていないことを知ってか、ジュールの背に手を回した。
「最高の日は最高の人とともに過ごすのが一番♪」
歌うようにトトが言えば、
「今日の善き日は善い人とともに過ごすのが一番」
とジュールが答える。
これからもお互いにこうして腕を組んで一緒に歩いていきたいね。
城に帰る道すがら、二人は何度か腕を組み背中を撫であって歩いた。
ハロウィンには、素敵な人と歩く道筋があって、それは次の収穫祭…もっと先まで続いているはずだから。
ハッピー・ハロウィン!
皆が幸せであるように!!
END
-ハロウィンの話-
イルミーネ国の物語