ートト編ー
ジュールと話す。
ジュールの話を聞く。
ジュールはとてもおしゃべりだ。
話を聞かされるのを嫌う人もいるが、私は人の話を聞くのが好きだ。
特にジュールの話は。
この人の知識の引き出しは、いつも新しいもので溢れている。
私の新しいものへの興味はサンから受け継いだ。
流動性の激しいバストール国では情報は宝だ。
ジュールもそうした血を引いているのかもしれない。
知識、それ以上にジュールの話が面白いのは、話し方がうまいからだろう。
まるで見たように話すのだ。
この人は声もいい。歌もうまい。
私などは躊躇ってしまうが、ジュールは歌を歌うのに何の躊躇いもなかった。
躊躇いのない行動というのは、相手に緊張を感じさせない。
私は、いつも実に穏やかな気持ちでジュールの歌を聞いていた。
このようにジュールは魅力的な人物なのだ。
しかし、人にジュールの事を聞かれると悩んでしまう。
どんな人なのか?
どんな人なのだろう?
その人のどこが一番好きか?
どこが気に入っているのだろう?
ただ、日々会いに行ってしまうだけだ。
そして夜になると、明日ジュールはどんな話をするのだろう?
どんな表情をするのだろう?
私と目を合わせるだろうか?
と考える。
ジュールが私の言った事に興味をしめせばいいな。
考えれば考えるほどに、夜寝付けなくなるのが悩みだ。
私は、他にする事も寄る所もあるというのに、ジュールのところに出かける。
後ろめたい理由がたくさんあるのも事実だが、正直それだけじゃない。
ジュールが私といて喜んでくれると嬉しい。
ある日、こう言われた。
「陛下がアルキュード候のところに行かれなくても、あの方なら大丈夫です。」
ジュールが怪我をしているから、私のせいで怪我をしたから、ジュールのところに見舞いに行っていると周りからは思われていた。
現在でもずっと。
私は、どうしてジュールのところに行っているのだろう。
ジュールがいつもの木の下で手を振っている。
「兄上!」
この人と一緒にいよう。
この人に一番嬉しい顔をさせる人間になろう。
「兄上?」
幸せな事を考えたはずなのに、涙が出た。
この感情の名前はなんだろう?
私は…

この瞬間、時が止まってしまえばいいと思った。
ージュール編ー
ソファに座って、本を朗読する。
瞳を瞑って静かに聴いている人の顔を、密かに眺める。
「-」
「ありがとう、ジュールは本当にいい声をしているね」
「…」
兄は、夜眠る前にこうして本を読んでもらうのが好きだった。
トトがベッドに座る。
その横に腰掛けた。
「…ジュール」
何かを言いたげな瞳。
「おやすみなさい」
ゆっくりと、抱きしめる。
「うん」
トトは横になった。
「ジュール…また明日も来てくれる?」
「はい、必ず参りましょう」
無防備なトト。
「・・・・」
動かないジュールを見て、トトは不思議そうな声を出した。
「…ジュ…?」
「では、また明日」
扉を閉める音が普段より強かったのか、バタンと音がした。
「・・・ふぅ」
部屋に帰ったジュールは、着替えもせずにベッドに突っ伏した。
-私は、何をしようと…-
瞳を閉じたトト。
少しばかりはだけている寝着。
-もっと、見たい-
着物に手をかけている自分を想像した。
-もっと、触れたい-
強い力で肌を撫で回す手。
望んでいないかもしれない行為なのに。
昔から、こうして身体だけが暴走しそうになる。
そのたび、自分がおぞましく感じられた。
こんなの愛情じゃない!
枯渇している喉を掻き毟った。
父と母がおこなった愚かしい行為を繰り返そうというのか!
愛情と偽って人を蹂躙するような真似を!
-こんなの望んでいない-
「ジュージュ…」
「ジュージュ…」
「ん?」
「もう、朝だよ。というか昼前」
「・・でも、まだ眠い」
上に乗っているトトはちょうどいい重さで、暖かい。
「じゃあ、私ももう少し寝ちゃおう」
トトの息が肌にかかる。
何も着ていないトトの背中を撫でた。
「その前に一度だけキスをしてよ」
「ん、いいよ」
ゆっくりとトトが起き上がるのがわかる。
暖かいものが降りてきて、私を覆う。
「大好きだよ」
「ここにいて」
「…幸せなんだ」
あなたといると幸せなんだ…。
目を覚ますと、一人きりの冷たいベッドが現実だった。
「…トト」
涙が頬を伝わった。
愛しい人の名を口の中で噛み締めながら、自分の身体を爪で掻き毟った。
夢はいつだって叶わないのだから。
来ると聞いていた父は来なかった。
母は、報われぬ想いを抱えたまま死んだ。
私は…

あなたにとって一番優しい恋人になりたかった。

