-私を染めて-

イルミーネ国の物語

初めは、軽くステップして踊る。

ぐるぐる回る。

今宵。
自分を偽らない。

私の事など、誰も知らない。

雪に閉ざされたこの屋敷では、誰もが仮面をして踊る。

今夜は少しばかり日常から抜け出してみようか…。

宝石のシャンデリアは暗闇の中で、星のように輝く。

もうすぐ完全に日が落ちる。
カーテンに閉ざされたこの部屋からは見えないが。

夕焼けの切ない匂いだけが漂ってくる。
まだ夜ではない。
出合いの時。

肌の感覚だけでパートナーを捜し求める。

ゆったりと。

その腕を求める。

「これで、ハプニングがあったら面白いのにね」

私の声に、仮面の相手が苦笑したのがわかった。

「いじわるをおっしゃる」

居場所を求める小鳥のように
腕の中に抱かれた時、思ったよりも白い衣装が冷たい事に気づいた。

「燃えてない」
「処女を抱く時は、冷たいものだと聞いた。今宵はまだ温もりを知らない」
「じゃあ、その堅苦しい貞操を崩してみようか」
「試してみる?」

仮面の男は笑う。

白い仮面には、嘲るような眼差しが描かれている。
僅かに見えている軽薄そうな唇。

「仮面が本性か」
「隠すためじゃなくてね。実は素顔を見せているんだ」
「ほーほー」

冷たい腕を振りほどき、こちらから裸の腕を伸ばし誘いかけた。

「今夜は貴方に決めた」
「お手やわらかに」

白いマントが蝶の羽のように広がった。

この腕に抱かれて、踊る。
今、彼の中に入り込んでいる。
まるで二人は一つのように。

肌が紅潮している。
古代の神族の衣装のせいだ。
身体を少ない布地が覆っている。

手も足も湿った紅色の空気に曝されて。

「黄金の仮面などしていると、好奇心を持たれてしまうよ」

男が、白いマントで私を覆う。
本当の理由を遠まわしに言いながら。

「見せたいんだ」

私は彼から逃げた。

そして、彼の手の届くギリギリで踊ってみせた。

皆の視線が裸体に妖しく突き刺さる。
少ない布地でさえ、見透かされているようだ。

「誰も手を伸ばしちゃだめ!私から飛び込むまで…」

リボンが数本、空に舞って、絵を描いた。

-蹂躙されたいのか-
-蹂躙したいのか-

楽士が歌っているのが聞こえた。

-あなたは、美しい-

音楽が止んだ。

動きを止めようとした私は、後ろからかき抱かれた。

「まだ私から飛び込んでいない」
「いいや、あなたは自分から飛び込んできた」

-違うと言えない-

再び、歌が始まった。

-嘘つきな理由でも-
-それは、あなたが恋をしているから-

「理由は聞かない」
「言っても無駄だよ」

白く長い衣装が舞う。

「その仮面が本性なら、そんな危険な男には惚れたりはしない」
「惚れちゃいけない」
「ピエロめ」
「私が先に貴方に惚れるから。先を越されたくはない」

-どこまでも 振り回して-

「踊りたい」
「踊りたいなら、私の腕の中でどうぞ」

-束縛しないで-

「その手には堕ちない」
「でも貴方は、また自分から飛び込んでくる」

-恋をさせて-

「おまえが何度でも掴むから」
「そう、何度でも掴んでみせる」

-夢中になる-

まるでベッドに転がるように、彼の白い服にもたれた。

「おまえの夜をもらう」
「なら…」

白い手袋が裸の手をきつく掴んだ。

「離さない」

仮面の下からは、懐かしい肌の香り。
甘く、苦く、危険な香り。
恐れながらも、この香りに染められる自分を想像して、私の手足は力を失った。

「私を染めて…」

白い帽子から流れ落ちる鈍い金色の髪に何度も口付け…
彼の手に堕ちた。

どこまでも…奥深くまで、彼自身に染められながら。

END

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