-世界一の宝物 1-

宇宙人1/2

「あー今日も疲れたな。たまには風呂でも入るか!」

汗だくの身体をタオルで拭きながら、ふと考えた。
日頃、シャワーを浴びるのが普通になっている。
一応、事務所兼住居として借りているアパートにはバスタブもあることだし。

帰宅後。
バスタブを覗いたら、案の定、湯が入っていた。

「なんだ、あいつ気が利くじゃないか!」

手で温度を調べてから、バスタブにザブンと漬かる。
ちょうどいい湯加減だ。
もう少ししたら、身体がじんわり熱くなってくるはず・・・。
ところが、その瞬間はいつまでたっても訪れない。
それどころか、

「寒いっ!!」

湯は熱いのに、なぜ???
そういえば、湯から妙な匂いが漂っている。

「これは、ミント?」

少し湯から出てみると、空気に触れたそばから肌が凍りつきそうだ。
こんなことをやる奴は一人しかいない。
オレは寒さに震えながら、弟の名前を叫んだ。

「ミラーーーーーーーー!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はーい、兄さん!お呼びデスかぁ~」

ごっきげんな声で、ミラーは脱衣所に現れた。

「なんだ、この風呂はっ!」
「うわぁ、さすが兄さんだ!ミラー君お手製の”びっくりどっきり風呂”にいち早く入るなんて!」
「家で妙な実験するなって、いつも言ってるだろ!」
「それより、寒かった?ねぇ、寒かったでしょ?」
「凍えそうだ・・・」
「やったー!実験大成功!」

ポコン♪
軽くミラーの頭を叩く。

「もう二度とこんなことするんじゃないぞ!いくつ命があっても足りそうにない・・・」
「大丈夫、そうしたら、いつの間にか3人目の兄さんが現れて言うんだ。
”オレは3人目だから”って寂しそうな瞳でさ!」
「オレはまだ1人目だぞ・・・」

ミラーは天才的なマッドサイエンティストであると同時に、日本のアニメオタクでもある。
2人目はどこへ消えたとか、突っ込む気にもなれない。

「ところでね、これから来客がくるんだけど、さっきの”びっくりどっきり風呂”はその人のアイデアなんだよ」
「・・・兄さんいつも友達は選べって・・・」

そうこうしているうちに、ベルが鳴った。

「やぁ!お待ちしてました」
「おひさしぶりだね、ミラー君」

ドアの前で、ミラーにハグしている人物には見覚えがある。

「兄さんも会ったことあるよね。ユウさん」
「ジャン、おひさしぶり」

ユウはこちらにも手を差し出してきた。
男にしては長めの黒髪の東洋人だ。
穏やかなアルカイックスマイルには、確かに見覚えがある。
ボストンで探偵事務所を営んでいるとかいう、蓮実祐介という人物だった。

「・・・たしか、月に行く前に一度会った記憶が」
「そう。あの時は、私に用が入っていて残念ながらお供できなかったけど」

ずいぶん前に、あるお宝が月に眠っているとかで協力したことがある。
途端に、背筋にぞっとするものを感じた。
そうだ!あの時、頭文字が”S”という団体に関わっていたのだ。
それからも”S”という団体に仕事を依頼されることは数回あったが、毎回ろくな目にあわない。
今回も”S”がらみかっ!!
そう思った瞬間、轟音とともにドアが吹き飛んで、ピンク色の髪の男が目の前を横切っていった。

「きみは足が速いな。ユウ」
「それほどでも。長官さん」

「で、でたーーー!!」

粉塵の中から現れた黒髪の男こそ、”S”の責任者だ。

「SSGの猫長官登場!そして、僕たちは無敵のトレジャーハンターJ&M!」

吹き飛ばされたドアの前で、ビシッとポーズを決めるミラー。
”スペース・セイフティ・ガード”。
略して、”SSG”と呼ばれる宇宙人とかのごたごたを片付ける国際的秘密機関だ。
やっていることはまともじゃないが、所属している人物たちもまともじゃない。

「おはようございます。今回もJ&Mに仕事の依頼にきた。受けてくれるな」

丁寧な挨拶をしながらも命令口調で、こちらにビシッと鋼鉄の鞭を向けるリヒャルト長官。
彼の鋼鉄の鞭は何者をも切り裂く威力がある。
この姿勢だと依頼というより、脅しに近い。

「うん、もちろんだよ。猫長官!」

ミラーが素直に頷く。
ミラーがリヒャルトを猫と呼ぶのは、単純にリヒャルトが猫に似ているからだった。

「では、ユウから説明をしてもらおう」
「実は、私がやっている仕事で”ある依頼”を受けてね・・」

ある日、ユウの探偵事務所に老人が一人現れた。
一見ホームレスかと間違えるほどの貧しい身なりだったが、顔つきは只者ではなかった。

「私はとても不思議な気持ちになったよ。まるでファンタジーの世界に迷い込んだかのような錯覚さえ覚えて・・・」

ユウは遠くを見つめた。
そして、ぽつりと、あの老人はどこか義弟に似ている…と意味もなく笑いながら、話を続けた。
その老人は、名乗りもしないうちに仕事を依頼してきたのだった。

”とても大事なものを盗まれてしまった。
その宝物は、今は盗人によってある場所に保管されている。
どうしてもそれを取り返してほしい”

用件のみを伝えて、老人は立ち去った。

「せめて名前だけでも聞こうと、老人が出て行ったドアを開けて通路を見たんだけど、もうそこには誰もいなかった・・・」

それから、しばらく沈黙が続いた。

「・・・それって、俺たちの仕事か?」

その一言があるまでは。

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