-友達~番外~-

イルミーネ国の物語

「そういえば、おまえは小説を書いてたんだっけ?」
「そうだよ、読んでみる?」
「いや、いいや」
「なんで?いつも言いかけて…やっぱりやめるじゃないか」

トトは不満気についっと口を尖らせた。

「なんていうか…俺には、俺だけの思い出があるからさ」
「じゃあ、なんでいつも話かけるんだよ」
「ハハッ。おまえらしいって思ってさ」

こんなところはいつも変わらない。
昔からこの部屋だ。
昔からこの椅子だ。

二人は、いつもどおり。
サングは偉そうにふんぞり返って座り、トトは浅く前のめりに腰かけている。

「友達って…長く続くのは奇跡だよな」
「どうして?」

サングの言葉にトトは首をかしげる。

「ほら、お互いに別の生活になるし、だからって契約で結ばれているわけでもなし」
「まぁ友達と一緒にいても、誰にも羨ましがられないし、幸せになったのねとも言われないものね」

トトは皮肉気に笑った。

「別におまえといることを誰かに『幸せそう』って表現されたくないんだけど」

サングは鼻を鳴らせて笑う。

「…うん。気持ち悪い」

トトも想像してみて、それは余計なお世話だと思った。

「でも、私はきみの服の匂いが好きだったんだよ」
「?!」

サングは怪訝な顔をして、自分の服の匂いを嗅ぐ。

「臭かったら言ってくれ」
「いいや、いい匂いだよ」

すると、サングは「やっぱりおまえ気持ち悪い」と嫌な顔をした。
トトは、喉で「クククッ」と笑ってみせた。

サングにとって、トトは親しみ深いがどこか不気味でつかめないところがある。
その生けるオカルトみたいなところが、興味を惹かれる部分でもあった。

サングは思う。

トトがアルキュード公を好きな理由はなんとなくわかる。
いけすかない奴だが、あいつの理屈っぽい部分をトトはきっと好きなのだ。
普通では嫌味にしか感じられない、あいつの本質を変人トトは好んでいるに違いなかった。
決して、まわりが褒めたたえるような音楽の才とか美貌とかを愛しているんじゃないだろう。

トトは、いつだって当人が一番嫌いな嫌な部分に惹かれるのだ。

アルキュード公が…トトの本質を掴んでいるのかどうかはわからないし、興味もない。
しかし、サングからすればアルキュード公のほうがトトよりも100倍近くわかりやすい人間だった。

嫌味でひねくれ者で寂しがり屋なおしゃべり男だ。

トトは…もう10年以上一緒にいるのに、この友人のことはうまく説明できない。

微妙なところに気を遣う人間で、強がりで、意外とノリがいい…感動屋で泣き虫で…。

「ん?」
目を見開いたままのサングを見て、トトを首をかしげて、口元に手をやった。
お菓子がついているのかと思ったのだ。

「おまえをなんと表現しようかと考えてた」
「ふーん」
「まさに生けるオカルト」
「…UMAにされてしまった!!」

トトはブルブルと首を振り始め、興奮している様子で 「それで!!」
と身をますます乗り出す。

「いや、それだけ」
「なんだ」

トトはふと思った。
私はミルク色の肌をして、赤い唇をしている・・。
妖怪に見えたのかもしれない。

そして、サングのことを考えてた。
この友をなんと表現したらいいだろう。
この世で一番激しい人、天才…。
それで十分だろう。

トトにとってサングは、そこにあるから意味のあるものだった。

だから、自分の命と同じなのだと思った。
私もここに在るから、在るのだ…と。

ジュリエットが彼のことをなぜ好きなのか…そんなの考えるまでもなかった。
ジュリエットも彼に惹かれたのだ。
私が、すべての人が惹かれたように。
生き物すべてが太陽に惹かれるように。

サングがジュリエットを好きなのは、きっとジュリエットは私よりもほっとするからなのだ。
それ以上のことがあっても、別に知らなくてもいいことだった。

そこは彼の生活の場なのだ。
例えば、彼が昨日の夜食に何を食べても、関係ないように。

こういう割り切り方がよかったかどうかは、トトにはわからない。

ただ、お互い別の幸せを追っている時は、別にその人の背中を追う必要はない。
と、ある時から悟ったのだった。
昔、背中を追って絶望した経験が余計にそうさせているのかもしれない。
友を永遠に失わないために、帰ってくるのを待っているしかない時もある。
いつか、帰って来た時。
それがどんな時かはわからないけど、そこで力になれるのが本当の友達だろうと、トトは考えている。

魂を分けた相手には、いつだって会える。
それが今でなくてもかまわない。
たとえ、何十年か後だって、きっと会えるのだから。

そう考えると、この先…悠久の時をこの人とともに生きているような気分になれるのだった。

「宇宙を見ていた」

ぽつりとトトは言った。
「は?どうしたんだ!おい、一人でどこに行ってしまうんだ!?」

サングは、時々この友が本気で心配になる。
一人の世界に閉じこもるなんて、生易しい。
一人でどこかの世界に飛んで行ってしまうから。

そして、自分もそこへ急に飛ばされてしまうのだ。
なかなか楽しい経験だが、アルキュード公ならなんて言うだろうか。

「宇宙がどれくらいの広さか知っているか?」

とでも言うのだろうか。

「宇宙は私たち二人の間に存在している」

トトは至極真面目に答えた。

「それじゃ、宇宙を覗いてみようか」

サングも楽しくなって、トトが伸ばした手をとった。
二人で腕を輪にして、その中を覗き込むと、本当に星雲が見えてきた。

「ほら、ここが私たちの世界だ」

二人の間から生まれた宇宙は、大きく広がっていく。
すっかり飲まれてしまう。

その中でサングとトトは二人で旅をしたのだ。




「バストール王宮で妙な儀式をしていたと、報告がありましたが…」

至極真面目な顔で、ジュールは帰ってきたトトに聞いた。

「宇宙をみてきたんだよ」

満足そうにトトは微笑む。

「宇宙…の大きさがどれくらいか知っていますか?」

ジュールは聞いた。
トトは窓から夜空を見上げた。

「さぁ、この手を伸ばせば届きそうだけど、いつかその端までいくことがあるだろうか?」
「そこまで行ってみたいですか?」
「いいや、大きいものには憧れている時が一番だよ。端まで行ったらがっかりしてしまうから」
「またまた…」

ジュールはトトの肩に手を置いて、笑った。

「ジュージュは見てみたい?」
「うーん、そうだな…見てみたい。そうしたら端からここを見て思うんだろう。遠いなって」
「そうしたら、すぐに帰ってきてね」

そういうトトをジュールは腕の中に入れた。

「大丈夫、しばらくはここにいるから」

そして、ジュールは思った。
トトはサングと宇宙の端を見たのかもしれないと…。

帰ってきてくれてほっとしたのは、きっと私なのだろう。

「おかえりトト」

END

タイトルとURLをコピーしました