-休酒宣言!-

イルミーネ国の物語

今日は、トトの従兄妹であるレオーネの誕生日だ。
クレランス家でひらかれたささやかなパーティに、トトもお忍びで参加していた。

「トト、もう一杯どうですか?」

レオーネがワインを勧めてくる。
このパーティの主役兼主催は、かなりの酒好きで、自分のセレクトした酒を人に振舞うのも好きだった。
そんなわけで、トトも期待していたわけだが、弟のジュールが近づいてくるのを見ると
「少しでいいよ」
と言った。

「兄上、今何杯目ですか?」
「…に、2杯目」

ジュールは背が高いので、当人は意識していなくても、時として非常に威圧的に見える事がある。
ちょうど、今のように…。

「今日は、グラス2杯までだよ」
「う」
渋い顔をしているトトを無視して、ジュールはレオーネに言った。
「すまないが、これ以上兄上に勧めないでくれないか」
「はぁ」

「どうなさったの?」
レオーネの恋人であるセシリーが、不思議そうな顔をしてやって来た。

「いや、アルキュード公に、これ以上トトを酔わせるなと叱られてしまったんだよ」
おどけたような口調でレオーネは言った。

「まぁ、アルキュード公も今夜くらいはリラックスなさるといいのに」
「いいえ、兄上と今日呑む量を約束したのです」
ジュールは頑なに首を振る。

トトは、その横でしゅんとして黙っている。

その数日後。

トトを訪ねたレオーネは、あの日のアルキュード候が、酒に対して頑なな態度をとるに至った事情を聞いた。

「私が悪いんだよ…」

下を向いて、トトは話をはじめた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は少し帰りに寄りましょうか?」
ジュールがそう提案したのは、久々に二人でお出かけした帰りだった。

「うんうん!」
トトは嬉しそうに頷く。

ジュールが寄ると言ったら、間違いなくお酒の呑めるお店の事だ。
トトは、そう強くはないがお酒が大好きだった。

「この店、気になっていたんだよね」
ジュールが指差すのは蕎麦屋のようだった。

さすが、バストール国“東の市場”。
珍しい店がある。
のれんをくぐって入ってみると、店内は木作りのシンプルな内装で感じがよかった。

「おそば食べるの?」
トトがメニュー表を出して、じっと見ている。
「ううん、ここの小料理が美味しいと聞いたから」
ジュールは慣れた様子で店員を呼んで、「本日のおすすめ」をきいた。

「お酒を呑まれるのでしたら、3種盛りセットはいかがですか?
3種類の料理と3種類の酒がついてきますが」
と店員。

「3種の料理って?」
「今日は、まぐろの刺身と茄子の煮浸し、かまぼこですよ」
店員のかわりに、板前さんが窓から顔を出して答えた。

「うーん、まぐろかぁ…」
トトが唸る。
トトは青魚の刺身が好きではないのだ。

「生が嫌だったら、ホヤの燻製がありますよ」
「じゃ、それお願いします」

「楽しみだね!」
トトは、おしぼりで手を拭きながら笑っている。

「うん・・それにしても今日は楽しかったな」
ジュールが思い返すように天井を見つめる。

二人にとって、今日は久々の休みだったので、トトが前々から行きたがっていた動物公園に足を伸ばしたのだ。

トトは、初めて見るペンギンに親しみ深そうな視線を投げかけ
「この鳥には、なぜか親しみを感じるよ」
と、歩き方を真似て見せたので、ジュールは笑った。

その後も、サル山を見て人間ドラマを考えたり、象とにらめっこをしたりした。

「本当に、トトは楽しそうだったよね」
ジュールは思い出し笑いをする。
「ジュージュも楽しかったよね!」
「うん」
口元を押さえながら、ジュールは頷いた。

「私はヤギが印象的でした。縦長の瞳で見つめられると、感じが悪い」
「そんな難しい顔で言わなくても~」

二人で笑っていると、酒と料理が届いた。

「どれが一番好き?」
3つ並んだグラスを前にして、トトが聞いた。

「この左のかなぁ」
「私は右の。呑みやすいよ」
「それ薄い!」
「ええ?呑みやすいったら!左の濃すぎるよ!」
「大人の味ってことで」

「ところで、この真ん中の微妙だよね」
「後味が悪い。性格悪そう」
「一見、呑みやすそうなのにさ。2面性があるんだよ。ジュージュみたい」
「いいもん!2重人格で」

ジュールがプリプリとしたところで、トトは食事に手をつけた。

「これがホヤというもの??・・・・変な味・・・」
「トト、これの原型みた事ある?」
「ない」
「…当分、見ないほうがいいと思う」
「え、そう言われると気になるよぉ!」
「ハハハ!気にしない。気にしない!」

ビクつくトトを見て、ジュールは心底愉快そうに笑った。

「じゃあ、帰りましょうか」
「う~ん、あと一ヶ所寄りたいところが…」
「大丈夫?」

ジュールが止める前に、トトはとことこと歩き出していく。

トトが勝手に入っていったのは、ビアパブだった。

「ちょっとすっきりビールでも飲みたいんだよ」

だが、二人が店に入ったとたん、カウンターに座っている客が声をかけてきた。
「よぉ、ひさしぶり!」
「あ、お元気ですか?」
ジュールが答えた。どうも顔見知りらしい。

「今日は連れがいるのか?隣あいてるから、座りなよ」

最初に頼んだビールがなくなる頃。
いい気分のトトがウイスキーを頼んだのを、隣の客と話していたジュールは気がつかなかった。

「すみませんでした。話し込んでしまって」
「ううん~だいじょうび~~~」
トトはイィー!と笑ってみせる。
明らかに酔っぱらっている。

「よし、私は焼酎を呑みに行くぞ!」
「は?いや、これ以上はやめたほうがいい。帰ろう」

ところが、トトはジュールの言う事も聞かず、ヨロヨロと歩いて2・3軒隣にある店の扉を開けた。

「あ、兄上!」
「おすすめは??」

トトはトロンとした目付きで、ジュールの真似をしてみせる。

「今日はこれが新しく入ったんですよ!」
愛想のいい店主は二人を座らせ、グラスに並々と焼酎を注いだ。
「うちはロックかストレートしかやらないからね!」
それが売りらしい。

「えへへ、いただきまーす!」
アルコール度数25℃なんて気にもしない様子で、トトはグラスに口をつけた。
「これで帰るからね」
ジュールが呟いた。

だが、そこでも…

ジュールが席をたった隙に、トトは残った酒を飲み干し、事もあろうにさらに40℃の原液を注文した。

「お客さん、強いですね!」
「ハハハ、それほどでもぉ~」
強いなどといわれると嬉しくて、その酒でさえゴクゴクと飲み干した。

席に戻ったジュールが見たものは、テーブルに突っ伏してニヤニヤと笑っているトトの姿。

「ウヒーウヒー…」
「あ、トト!」
「ジュールよく来たねぇ。次は泡盛でもいこうかしら~」
「すみません、勘定お願いします!」

ジュールが叫んだのも無理はない。

その後、ジュールは一人では歩けなくなったトトを抱きかかえるようにして王宮に帰った。
国王の私室にて、気を失うようにベッドに倒れこんだトトの上着を脱がし、布団をかける。
そして、自身は隣に横になった。
このまま、何事もなく朝が来るはずだった。

深夜、何度かトトが起き上がりどこかにいくのを、ジュールは気がついた。

トイレか?

ところが回数がいやに多い。

何度目かトトがいなくなった時、ジュールはトイレに行ってみた。

荒い息づかい、喉の奥から何かを搾り出しているような音。

「大丈夫?」
ドア越しに声をかけるが返事がない。

突然、扉がバタンと開いて、ゼイゼイと苦しそうに呼吸しながら、トトが転がり出てきた。
「トト!」
「苦しい!気持ち悪いよぉ!!」
何度か戻したようだ。
顔は蒼白で、手足は冷たくガタガタと震えている。

「医者を呼んでくる!待っていて!」
トトをベッドに寝かせた後、ジュールは部屋を飛び出して行った。

-どうして、気づいてやれなかった!-

急性アルコール中毒だ。下手をしたら命に関わる!

ジュールは医者の資格を持っていたが、普段その仕事をしているわけではないので、この症状を抑えるための治療・投薬はできない。

そのため、国王付き医師達に大至急連絡を取った。
ジュールが部屋に戻ると、トトがベッドから落ちて、はいつくばっているのが見えた。

「大丈夫、今医者が来る」
「苦しいよぉ!苦しいよぉ!!」

とてもベッドで横になっていられなかったらしい。
半分錯乱したような状態のまま、トトは胸を押さえて喘いでいた。

呼吸ができない!
少しでも気を緩めると、意識が途絶えてしまいそうだ。
内蔵を取り出して洗いたいくらいにアルコールが体内で暴れまわっているのがわかる。

「気持ち悪いよぉ!死にたくない!まだ死にたくない!」

苦しさと痛みと猛烈な吐き気。
手足をバタつかせる力さえなくなってきた。

-私、ここで…もしかしたら…こんなところで…-

息を吸っている実感がなくなってきた。

心臓ばかりがバクバクと動いているのがわかる。

「トト!トト!しっかりしてください!!」

ジュールが強く手を握っているのがわかる。

-どうしよう、楽しい一日だったのに…こんなふうにしてしまった…どうしよう-

涙を流す余裕もなく、意識が完全に途切れる寸前に、医師団が流れ込んできた。
手早くトトの腕に点滴針を差し込む。

「これですぐよくなられるでしょう」
「・・・」

ジュールは無言で頷いた。

目が覚めると、いつも通りの天蓋の一部が見えた。

頭と喉は痛むが、先ほどとは比べ物にならないほど、気分が回復していた。
横を見ると、ジュールが手を握ったまま目を伏せている。

「ジュ…」

声をかけると、眠っているかと思われた人は、真っ赤に腫れた瞳をあけた。
いつもの彼とは比べるべくもないやつれた表情。

「私…」

ジュールに謝らなくては。
一日を台無しにした事。

ところが。

「トト、こんな目にあわせてしまってごめんね」

ジュールが俯いたまま言ったので、トトは言葉を失った。

「私がちゃんと見ていてあげればよかった。あなたをこんな目にあわせてしまった」
「違うよ!私、いい気になって。昨日幸せだったはずなのに。
私のほうこそ、謝らないといけないのに…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

レオーネにそこまで話すと、トトはそっと目頭を押さえた。

「泣くのもおこがましいほど、バカな真似をしたと思う。
どうしてこんな事してしまったんだろう…」
「へぇ、そんなことが。でも、まぁその程度でよかったじゃないですか」
軽くレオーネは言った。
おそらくは自身もそれに近い経験があるのだろう。

「そう、あなたがあまり呑まれなければいいのです」
突然、背後から声がしたので、トトが振り向くとジュールが立っていた。
「ch…uく!」
「ほらほら、口を尖らせて誤魔化さない」
「…」
トトは口を尖らせたまま「ふにゃ」と言って頭をかいた。

「事情はわかりました。私はてっきりトトを酔わせた事で、あらぬ誤解を受けたのかと」
レオーネはハハ…と笑った。
「君がもしそんな事をしたなら、ただではおかないとは思うけれどね」
ジュールもハハ・・と笑う。

「冗談ですよ」

レオーネが帰った後、ジュールはトトの頭を人差し指で突っついた。

「やめてよー!」
「いじめたい!このこの…!」
「ふひー、やめてぇ~」
「言う事聞かないとダメだよ。呑みすぎは厳禁!」
「わかったよぉ!!」

酒を控えめにするようになって、トトには時間ができた。
今では、ジュールに外国語を教わったりしているらしい。

「酒のない時間って結構有意義だよ」
トトは笑う。

「でも、多少は・・・・?」
「う、うん」
酒を促す動作をするレオーネに聞かれて、トトは恥ずかしそうに頷いた。

そして、次に開かれるクレランス家での新酒パーティに参加すると約束したのだった。


半分以上実話です。真似しないように(ーー;)


END

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