-1ヶ月後-
「そういえばさ…」
と、トトは言った。
「この前、私が咳き込んでいた時に思い出したのだけれど…」
「うんうん、何を?」
いつものように、トトの部屋で茶を飲んでいる。
サングは背をもたれかからせて座り、一見、踏ん反り返っているような姿勢で紅茶を飲む。
しかし、そのポーズが下品にならないのは、彼の持つどこか高貴な雰囲気のせいだろう。
トトは、その姿勢を見るのが好きで、彼のために茶を入れるのだ。
トトは前のめりでそっとカップに口をつけている。
ソファにも軽く腰掛けているようだ。
サングは、トトのこの控えめな姿勢が好きだった。
不思議と落ち着く。
トト自身は気づいていないだろうが、その空間を自分のものにしてしまうような姿勢なのだ。
トトはその姿勢のまま、ゆっくりと話をはじめた。
「私って、オペラ歌手にはなれないんだよ」
何の前触れもなく、核心に迫るような言い方をする。
会話が下手なのか巧みなのかは判断がつかないトト話調。
「なんじゃそりゃ?」
思わず前のめりになるサングに、トトはフフっと笑った。
「昔、オペラ歌手の人にそう言われたんだ」
「…い、いや…だからって落ち込むなよ…それでいいのか、返事は?」
自問自答して首をかしげるサングに、トトはまた笑った。
「なりたかったわけじゃないさ。私の声帯は通常より細いらしくて…。
…思い出さない?聖歌隊の時の事を」
「聖歌隊…ああっ!おまえが終始一貫して口パクだったあれだろ!」
サングが大声をあげて、トトを指差した。
部屋の窓が、ビビッと音をたて震えた。
「うるさいよー!きみの大声は変わっていないな、あの時から…。
もっとも、その大声のせいで大変な事になったんじゃないか。それに私は歌っていたよ。
こう見えて結構真面目なんだ」
「嘘つけ!絶対口パクだった!!それに、何も変な事はおきなかったぞ??
まぁ、聖歌隊なんて、めんどくさくて二度とやりたくねぇ!」
プリッとして、横を向くサングに、トトは3度目の笑いをもらした。
「思い出せないなら、教えてあげよう。二度とやりたくないだと…それはきみが言えるセリフじゃないさ」
サングは、チラリと視線をこちらにむけた。
続く
