「ゴホッ!ゴホッ!」
イルミーネ王宮の王の私室から、咳こんでいるような声が聞こえる。
「ゴホッ、ゴホッ…ヒューヒュー…」
だいぶ苦しそうだ。
「大丈夫か?」
ノックもせず、部屋に入ってきた派手な服装の金髪男は、机で書き物をしながら胸を押さえて咳をしている黒髪の国王に声をかけた。
「ゴ…ああ、きみか」
「休んだ方がいいだろ。何やってんだ」
もっともだ…と言いながらも、彼は机から離れる気はなさそうだった。
「仕事なんて、後にしなよ」
「仕事?仕事をこんなに真面目にやると思っているのかい。私は今、小説を書いているんだよ。
ちょうどいいところなんだ。今一番盛り上がっている部分!そういえばわかるだろう。
…ゴホゴホ…」
「毎度の如く、きみのオタク魂にはあきれ果てるが、萌えに対するひたむきな情熱だけは認めるよ。だが、しばらくしたら休みな。オレは、ここにいるからさ」
「うん、せっかく来てくれたのにすまないね…」
こういう時のトトは何を言っても止められない。
サングは長年の付き合いでわかっていた。
盛り上がり部分にメドがついたらしく、トトは薬を飲んで、ソファに横になった。
「勝手に食べさせてもらうからな」
サングは、目の前に出された菓子をバリバリと食べている。
「ぃん、ゴホッ・・・・・声が出にくいんだ」
「しばらく休むこった。そのうち、よくなるだろう。何かしてほしいことはあるかい?」
「・・・・何もない。しいて言うなら、風邪がうつるかどうか心配だ」
「そうか、じゃあな」
「じゃ…」
トトはサングが部屋を出て行くのを見ていた。
「また」
「早く治せよ」
サングは、いつもこうだ。
ふらりと現れては、あっさり帰っていく。
彼の住んでいるバストール国からここまでの道のりを考えると、帰ってもらうのは悪いような気がする。
だが、こっちがそのように考える前に、あっけないほどさらりと背を向ける。
なら、もっと早く帰ってもいいのではないかと思うのだが・・・・。
「何かしてほしいこと…か…」
トトは、天井を見つめた。
-私は、今日せっかく来てくれた彼に菓子を出し、茶を入れただけだった-
-気がきかないのは、いつも私の方なのかもしれない-
彼が帰ってしまった後で、そう思うのだ。
続く

