-きみコエ3-

イルミーネ国の物語

「今年の収穫祭は、お二人とも参加していただくことになりました」

バストール国の老臣が、部屋に入ってくるなり言った言葉。

「収穫祭なら、毎年参加してるが…」
サングは濃いブルーの瞳を動かして不思議そうな顔をした。
「・・・」
その場にいたトトは嫌な予感がして、黙っていた。

「教会で毎年聖歌を歌う聖歌隊を、貴族の子女から募っております。
今年は、ぜひともお二人にとの声があり…」
「は?やだ!」

老臣の気持ちなどまったく無視しきった返事を返すサング。
だが、これもいつもの事と老臣は心得ているらしく、冷静に続きを話した。

「国民の声なのです。日頃から、国務のための行事の時にしか陛下方のお姿を拝見できない。
もっと身近に感じたいとの声が…」
「ふざけるな、オレはっ」

何か言おうとしたサングの口をトトが後ろから羽交い絞めにして塞いだ。

-王宮を抜け出して、街で遊んでいる事くらい国民は知っているだろう-

なんて、大声で言われたらたまらない。
トトは、老臣に言葉を進めるように視線で促した。

「コホン。そういう事ですから、今年の聖歌隊に加わっていただきます」

暴れるサングを押さえつけながら、トトはポツリと反論した。

「私は、イルミーネ国の国王だ。バストールの収穫祭には出席しない」
「なっ!おまえよくも抜け抜けと!」

サングが「ずるい!ずるい!」と叫びまわる。
老臣は静かに言った。

「イルミーネ国側からもそのような声が聞かれます。そんなわけで今年の収穫祭は両国合同で行う事と決定しました」
「…!」
「なんでもう決定してるんだよ!おかしいだろ、当人たちの意見も聞かずに」

サングがぎゃあぎゃあと言っている中、トトはこの世の生物が全て死滅した地球に一人佇む…のような暗い顔をしていた。

「そういう事で、明日から練習に加わっていただきます」

そういい残して老臣は去っていった。

「おかしいよな!勝手にさ!」

サングは怒鳴り散らした後で、酷く絶望的な表情で今にも死んでしまいそうなトトを見やった。

「大丈夫か、トト」
「…」
「あ、ほら、歌うたえば終わりじゃん…大丈夫だと思うよ。そんなに深刻な顔しなくても…」

このままでは、次の瞬間、窓から飛び降りるかもしれないような風情の友人を、サングは必死に慰める。

「何も踊れとか言われているわけじゃない!その場に立っていればいいんだ!」
「何で歌なんて歌うんだ…どうして必要なんだ、そんなもの。神が喜んでくださるのは歌をうたう事じゃなくて、よい行いをする事だと私は思う…」
「だからっ!そうやって深く考えるのがきみのいいところだが、今だけはもっと軽く考えた方がいい!」
「これをどう軽く考えるというのだね、きみ!なぜ人前で歌わなきゃいけないんだ!どうして強制されるんだ!芸術とはそのようなものではない!」

トトは、顔を歪ませて何かを憎んでいるような眼差しに変わった。
いつも身近にいるサングさえも、背筋が凍りそうな視線だった。

「つぶしてやる・・こんな行事…」
「それはやめたほうがいい。楽しみにしている人が多いのも事実だ。そこまで…」

いつの間にか、歌う方向に流されつつある友人にトトは眉をひそめた。

「きみだって、やだって言ってたじゃないか!」
「そりゃ、めんどくさいけどさ…ん、ひょっとしてトトって…オンチ?」

次の瞬間、不機嫌極まりないトトの鉄拳がサングのみぞおちに入った。

「ぐはっぁ!!何しやがる!」
「音痴…とかそんなのじゃない!」

人に鉄拳をくらわしたくせに、トトは本気で泣きそうな顔をしていた。

「…もし、音痴の人がいたとして、強制的に歌わされたらトラウマになってしまうよ」
「ああ、ああ!わかったよ」

サングも、これ以上トトになんだかんだ言っても埒があかない事に気づいて、両手をあげる。

「なら、せめて口パクでいいじゃないか。合唱だもん、誰が歌ってるかなんてわかるもんか」
「う、うん。そうする」

先ほどから比べると、驚くほど素直にトトは頷いたのだった。

続く

タイトルとURLをコピーしました