次の日、SSG寮内は華やいでいた。
例のバレンタインという行事のためだろう。
朝の食堂でも、皆がどこかそわそわしている。
そんな中。
一番注目をあびている人物は、その様子に気づくはずもなく、いつもと同じように好物の胚芽パンと豆のスープを口にしていた。
「今夜は少食にしておけよ」
近づいてきたピンク髪の男が、黒い軍服に囁きかける。
「いつも節制はしている」
リヒャルトは“当然だ”というふうに答えた。
「そういう意味じゃなくて、オレがスイーツをやるから」
「は?」
一瞬呆けたような表情を見せる長官から、皆が目をそらす。
「あいつ、いの一番に告白しやがってっ!」
「でも、長官のあの顔っ!よくないか?RQの奴が、もう少し面白い方向にもっていってくれたら、もっと違う表情が見れるかもしれないぞ!」
「萌え~~v」
こそこそと言い合っているギャラリーを、横目で見ながらリューは彩の事を考えていた。
-あいつ、夜中までラッピングにこだわってたけど、今日…どうするんだろう-
チョコレートを凍牙に渡す。
それから…?
逃げるように食堂に来てしまった。
なんか、考えたくないんだ。あいつが次に取る行動を。
すると、いつも通りの寝ぼけ眼で、彩が長官と同じメニューを選んでいるのが目に付いた。
「彩先輩!」
ロイが朝から眩しいくらいの笑顔で彩に話しかけている。
彩はロイに胚芽パンを一つ渡すと、何かポツリと言って席についた。
一人残されたロイはその方向を呆然と見ている。
「ロイ」
「あ、リュー先輩」
「今、彩と話してただろ。あいつなんて?」
普段だったらこんな事聞かないはずなのに、今日はとても彩が気になる。
すると、ロイは困惑したような顔で答えた。
「知り合いに食べてるところ見られるのが嫌なんで、頼むから一人で食べさせてくれないか。
と、言われたんです…これを渡しながら」
ロイは胚芽パンをリューに見せた。
「へぇ、変な奴…」
「で、でもっ!」
続いてロイは縋るような瞳で訴えた。
「彩さんは、リュー先輩の前ではいつも何か食べてるんですよね!それは…それは僕だからダメだという事なのでしょうか?!」
「そ、それはないと思うけど。あいつ変に神経質なところがあるから…今日はそういう気分だったってことじゃないか?」
「そうですか…うん…」
がっかりしたような表情で下を俯くロイが妙に可哀想に思えて、一緒の席についた。
リューが部屋に帰ると、トレーニング着の彩がこたつに入って待っていた。
「一緒にトレーニング場まで行こう」
「ああ」
「今朝、ロイと一緒にいただろ」
着替えをするリューの背中に、彩が声をかける。
「あ、うん。おまえあんまり変な事言うんじゃないぞ。ロイが気にしてた」
「…」
「おまけにパン一個渡されたりして困ってたぞ。まったくどうすりゃいいんだって」
「…ロイは、他に何か言ってなかったか」
「おまえの傷を気にしてた。オレが大した事ないって伝えといたけど」
「…そう」
振り返ると、彩がこたつの中に頭を埋めている。
どうも潜ろうとしているようだ。
「潜ってる場合じゃないだろ!もう行くぞ。リヒャルト長官がキレる!!」
「う、うん…向こう側からでるよ」
20秒後、彩は反対側から顔を出した。
「よし、行こう」
「顔真っ赤だぞ、大丈夫か」
「こたつに潜ったせいだよ」
トレーニングはいつも通りに進み、そして、あっという間に夜になった。
「ちょっと先に帰っててくれないか」
意味ありげの笑みを浮かべながら、彩がそう言う。
・・・手には小さな包み。
昨日、一生懸命に作っていたチョコレートとラッピング。
「いいよ、うまくやりな」
「うん…」
その時、ちょうど凍牙がトレーニング場から出てきた。
いつも、一番最後までトレーニング場に残って掃除までして帰るのが、彼の日課だ。
誰かに強要されているのではなく、リヒャルト長官が周りの最終チェックをするので、その手伝いをしているのだ。
凍牙が長官親衛隊長なのは、ただ単に長官Fanというだけではなく、本気でかの人に惚れこんでいるからなのだった。
そこまで一途な凍牙に想いをかけている彩。
報われるはずもないのに…。
自分の事でもないのに、苦々しい想いを抱えたままリューはその場を去った。
ところが…。
「リュー先輩っ!」
翌日、朝の食堂に向かう先で後ろから声をかけてきたのは、ロイ。
「おはよう!ロイ、何かいいことでもあったのか?」
走ってきたので、息を切らせながら、興奮した様子でロイは言った。
「彩さんは?」
「先に行ったけど」
「あ。その…昨日彩さんから、いいものをいただいたので…あの時は突然だったんで。
お礼もうまく言えなくて…それで…」
「彩から何をもらったって?」
すると、ロイは顔を赤らめて、目をぎゅっとつぶって…。
「チョコレートですっ!」
続く
