-彩ちゃん異譚-

宇宙人1/2

これは、SSGで幽霊騒動があったすぐ後の話…。

なぜか、皆で怖い話で盛り上がろうという事になった。


「あの後だろ~普通はやらなくない?」
リュー・ウェンは普段は明るい性格の男で、あまり物怖じするほうではなかったが、怪談のたぐいは得意ではない。怖いというより、気持ち悪いという感覚になじめないのだ。
だから余計に、怪談話をしようと自室に人が集まった時、嫌な顔をした。

「やるなら別の部屋にしろ」
「だって、コッペリウスの部屋じゃ、冗談が冗談じゃなくなりそうな気がして…」
情報部部長のマックスが苦笑いをする。
医者のコッペリウスは、「私の部屋はロマンチックすぎるんだ」と胸を張った。
骨格標本と骨と骨と…内臓みたいなもののホルマリン漬けで占拠された部屋。のどこがロマンチックなのかは知らないが、全員が彼の部屋だけは拒絶した。

集まったのは、マックス、コッペリウスと、機械部部長の潤一(彼は、オカルトも怪談も嫌いだったが、それ以上に仲間はずれが嫌いだった)、事務総官のカロム。
いつものメンバーに一人だけ足りないのは占い師の兎兎で、彼は怪談という言葉を聞いただけで、にわかに気分を悪くしてベッドに潜り込んでしまった。
実は、怪談が怖くてたまらなかったのだ。

「一応、座布団は人数分用意した」
リューと同室の彩が皆を部屋に導く。
「彩、まさかおまえが召集したのかよ?!」
あまり人付き合いがいいとはいえない彩が、そんなことをするわけがない…。
嫌な予感がして、リューは叫んだ。
「どういうわけだ!」
「どうしても話さなければいけない話がある気がした…」
「なんだそりゃ?」
怪談をするには、ずいぶんと切ない顔をしている…。
ふと思い出してみると、彩が報われない恋を終わらせる時の表情にも似ていた。
まさか!
リューの中にあってほしくない疑惑が浮上する。
この中の誰かに告白でもするのか?!怪談の途中で?
信じたくないというふうに首を振るリューに、何を思ったか彩は
「心配するな」
と微笑んで見せた。


リューの提案で、明かりはそのままにしようという事になった。
「不気味だからとかじゃねぇ!誰かが茶でもこぼしたら、拭くのがオレだからだ!」
真顔で宣言するリューのそばで笑いが漏れる。
こうして、ふさわしくない雰囲気の中で怪談話は始まった。

はじめはウキウキとした様子のコッペリウスからだった。
笑顔を交えながら話す本人のまわりで、皆は青ざめた。

ただ、淡々と話すわりには残酷すぎる話だった(しかも、おそらくは実話)。
また医学用語が多すぎて、一般の人間には意味がわからないところも多かった。
実験体が、骨とホルマリン漬けになったところで話は終了した。

次は、マックスだった。
「これは、僕の知り合いが見たという話なんだけどね」
から始まり、話す本人は本気で怖がっている様子ではあったが、どうにも真実味に欠けていた。
「僕も、実は見える人なんだよ」
などと言っても、見えてしまうことに悩んでいる様子ばかりが目立ってしまい、
しまいには
「このように昔から苦労が多かった」
という愚痴に変わり、いつの間にか、異性関係を含めた苦労話に変わってしまった。
マックスは話を終えると、手にした”いちごミルク”を酒でもあおるかのように、ぐいっと飲み干した。

「私は…」
潤一が口を開いた。
この人はオカルトや見えないものの類を信じる人ではなかったが、残念なことに彼の兄は霊媒体質だった(だから、兎兎は怪談を避けていたのだ)。
潤一の話は、兄の身に起きた事実だった。
たいぶ昔に兄は報われない女の霊に取り付かれてしまい、潤一に迫ったことがあるという。
「それって、きみの願望じゃないの?イヒヒ…」
というコッペリウスを冷たい眼光で一喝し、潤一は話を進めた。
そのとき、兄を救ったのは兄の幼馴染で今はインターポールに入っているという人物だという。
幽霊曰く、彼のものすごいパワーのせいで、取り憑いていられなくなってしまった。
あいつ自身が無意識だというところも変な話だ。と潤一は言った。

「そういう人もたまにはいる」
彩が口を開いた。

「そういう彩は話があるんじゃないの」
カロムは言った。
「じゃあ、僕の話をしてもいいか。これは、僕の地元で起きた話だ」

皆は、彩がどこで育ったか知らない。
SSGの隊員は過去があるものも多く、あまり出身地について詳しく語りたがるものは少ない。
「たしか…多摩川のそばだって」
リューがポツリと言った。
昔、たしか、彩がそんなことを口走った。
「その辺の小学校の話だ」

都会であって、都会ではない町だった。
町のいたるところに、まだ闇が残っていた。
町には不思議な道場があった。
霊能者が住んでいるという噂が子供たちの間にあった。
そこには、確かに山伏のような姿をした中年男が住んでいて、いたずらで忍び込んだ何人かの子供に秘術を教えたのだった。
霊を感じ取れるようになれる力、悪い霊と戦える方法など…。
子供たちはTVのヒーローのような気分になった。
男はその中でリーダーの役割を果たした。

遊びのつもりだったと思う…。
あの事件が起きるまでは。

由利源助はいつも一歩引いて彼らを見ていた。
実際の戦いとは、こんなに生易しいものではない。そう考えていた。
だが、どうしようもなく巻き込まれた。

その頃、地元の小学校では所謂学校の怪談が流行っていて、実際、怪現象が起こっていた。
物が勝手に移動するくらいならともかく、不可解な事件による怪我人も出た。

「オレたちの出番じゃないか!」

霊能者の力を授かった子供たちは、立ち上がった。
だが、
「あれは手を出すべきじゃなかった」
彩が肩を竦ませて呟いた。

皆に不気味な沈黙が降りた。

再び、彩は口を開いた。

何人かが一様におかしくなったんだ。
精神に弊害を及ぼす何かによって。
次々に子供たちは口走った。
「仲間を殺してしまった、もう生きていられない」
「悪いことをしてしまった、もう許されない」
由利の前で、皆は狂っていった。
リーダーのはずの霊能者は、結界の中にいた。
彼は無事だった。
皆を先導し、子供たちを犠牲にしたのに。
彼は、言った。

「おまえなら、あいつを抑えられるかもしれない」

由利は、自分の身にもそれが襲い掛かってくるのがわかった。

ついに、それは彼の前に正体を現した。
狂って叫ぶ同級生の向こうに彼は立っていた。
傷だらけの痩せた子供。

どっと彼の記憶が流れてきた。
狂った母親が彼の身体を面白いように痛めつけていた記憶。
裸の彼の突出した部分は縛られ、壊死を起こしていた。
彼は同級生を操ってお互いに殺し合いをさせていた。
だが、実際の彼らの身体には傷一つつかない。
夢の中での殺し合いが、彼らの精神を蝕んでいた。
「悪いことをしてしまった、許されない」
「友達を殺してしまった、助けて」
知らないうちに、由利も幻の世界に引き込まれ、そこの住人と化した。

操られた同級生が襲い掛かってくる。

由利は幻の刃物で彼らを殺した。
「おまえは仲間を殺した。許されざる刃がその身に突き刺さる」
憎しみに満ちた声が聞こえてくる。
だが、由利は淡々と仲間を斬っていった。

「なぜ、おまえは罪悪感に心を蝕まれない」
あいつの記憶が心にしみわたってくる。
恐怖と屈辱の記憶。
あいつが罪悪感にこだわるのはなぜなのか、由利にはわかっていた。

「罪悪感は感じている。僕は仲間を殺したくはない。だが、こいつらを野放しにしたら、他の人間が傷つく。誰も殺したくはない。だが、これが僕の正義だ」
「自分の正義を振りかざして、心を庇っているのか、おまえのしたことを見ろ」

由利の手は仲間の血で汚れていた。

「本当は嫌だ、誰を殺すのも。心の傷が痛む。痛みは消えない。僕のしたことは誰にとっても許されないだろう。だが、これが僕の正義だ」

由利は泣いていたが、それでも心は折れなかった。
傷だらけの子供を目の前にして、言った。

「おまえは自身の傷を見せつけ、悲しみで人を縛り、さらには他人を傷つけさせて、自発的に罪の意識を植え付ける。それは、おまえ自身を傷つけた人間に一番感じてほしかったものだ。
何人を罪悪感で縛れば、おまえは満足するんだ。おまえは救われるんだ」

気がつくと、景色は子供と由利の二人だけだった。
手に浴びた血も消えていた。
「痛い…やめてー!!」
自らの身体を抱きながら、子供が絶叫した。
「おまえは人に傷を見せつけながら、どうして、自分の傷を自分で見ようとしないんだ」
その場の空気が変わった。

気がつくと、由利は現実に戻っていた。

「その子供が成仏したのか、由利が抑えたのか、誰もしれない。だから、そいつは今でも近くにいるかもしれない…」

彩がぼそりと呟いて、話は終わったが、その場は静まり返ったままだった。

「うほーーー!!!」
いきなり高い叫び声がして、占い師が飛び込んできたので、部屋は大混乱に陥った。
「ごめんなさい…」
兎兎は怪談の終わりを見計らって、皆を驚かそうとしたらしいのだが、あまりにもうまくいきすぎてしまい、気まずそうな顔をしたまま、潤一に連れて行かれてしまった。

そうして、皆もビクブルと震えながら部屋をあとにした。


「おまえのあの話、どういうわけか釈然としないんだけど…」
皆が帰った後、リューは彩に言った。
「なにがだ」
「…うまく言えないけど、どうして由利だけがその…幽霊を説得できたんだ?
…んで、なんで由利だけが抑えられると霊能者は言っていたんだ??」
「自分だけ無事だったあいつは、源助の傷を知っていたからさ」
「…?どうして?それに、あの話を思い出してみると、由利はヒーローになろうとした小学生一味には思えない」
「…不思議なことが起こるものだよ、子供には」

まるで他人事のような口調で、そう言って、彩はリューのベッドに横になった。

「そこはオレのベッドだ」
「一緒に寝る」
「…ええ??」
たしかに、こうして寝るのは、まぁ今までにもあったけれど。
たいていはリューが眠った後、彩が忍び込んで来るパターンが普通だった。
それというのも、彩はリューが眠らないと眠れないからだ。

ドギマギしてもしょうがない。
リューは覚悟を決めてベッドに入った。

そういえば、寝顔を見られるのを異常に嫌がっていたな…。

でも、前に一度だけ見たことがある。意外と普通の寝顔だった。
そういえば、その時に「人前で寝たら襲われる」とか言ってたと思い出す。

「もしかして、由利って…」
由利の傷がなんだったのかと考えると、生理的嫌悪感が湧き上がったが、言い知れぬ想いに駆られて、リューは彩の頭を寄せた。
あの幽霊が一時的にでも引いた理由は、由利の中にも自分と通じる傷を見たからに違いない。

「どうしてあんな話したんだよ」
「きみを…信じている」
彩は、それだけ言った。


「子供の頃は、夢みたいな本当の話があるから」
翌日、兎兎と彩が話しているのをリューは見た。

「ああ、リュー」
いつもと変わらぬ様子の彩に複雑な思いを抱きながら、リューは「おはよう」と挨拶をした。
リューが起きた時、彩はすでにいなかった。
「僕が夢を見たという話だよ」
「彩の夢の話を昨日したんだってね」
彩と兎兎はそれぞれに口をそろえたので
「ああ、あれ夢だったのか!」
リューは驚いてみせた。
自分でもわざとらしいとわかっている。

「子供の頃の夢は真実でもあるから」
兎兎がポツリと言ったが、彩は歩き始めていた。

「変な気分だ」
リューが言うと彩が答えた。
「僕と寝たからか?」

まわりから黄色い悲鳴が上がる。
「ほら、やっぱりあいつらデキてるんだって!」
「お幸せになー」

「だから、ちがうっーに!!」
いつもままの光景で何も変わりりゃしない。
トホホと肩を落とすリュー。
だが、前を行く彩の雰囲気が昨日とは少し違う気がして。

「おまえ…よく見ると結構男前だよな」
「いまさら気づくとは!」
彩は苦笑いをしながら、振り返った。

「僕がSSGに入った理由と、きみと生きていく理由を思い出した。そういう夢を見た」
そう小声で言ってから、照れ隠しなのか、偶然通りかかった凍牙をいきなり抱きしめた。
「ぎゃーー!!なんだ!なんだおまえ!!!」
隙を突かれたあげく、大胆な告白をされてしまった(?)凍牙。

「また、三角関係じゃん!妬くなよ、リュー・ウェン!」
通りすがりに冷やかされ、肩を叩かれながらも
「まぁ、おまえの面倒はオレがずっとみてやるよ」
と、リューは返事をしたのだった。

~おわり~


あとがき

はたして、彩の話は真実だったのか、それとも夢だったのか?
由利源助とは、はたして誰なのか?
はたまた由利と霊能者の関係とは?
彩が再び語るまで、わからないままですね。
しかし、最後の二人の会話がまるでプロポーズのようで…。
きみたち、実はこの中でベストカップリングなんじゃないのか?
と疑いたくなる(^^;)

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