「彩、そっちに回ったぞ!」
「了解!」
林の中に隠れていた彩が、ターゲットの前に飛び出す。
抵抗を見せるそいつに対して、鎖分胴を投げつけ、動きを封じた。
「リュー!」
「おおっ!」
リューは、手にしたスライサーでターゲットの喉元を掻き斬った。
紫の体液が飛び散る。
「ギャォォ!!」
2本足で立つ巨大なトカゲのような生物は断末魔をあげて、倒れた。
「やったな」
「ああ」
二人が顔をあげると、向こうから仲間が走ってくる。
「おおーい、こっちも終わったぞ!」
「じゃあ、今日はこれで引き上げか」
倒れた生物をじっと見つめている彩に声をかける。
「行くぞ、後は処理班が始末してくれる」
「やっぱり紫がいいな」
「何が」
「髪の色」
未知なる生物の体液から、ヘアカラーを想像できるあたりがなんとも言えず、彼らしいのだが…。
「それ以上やったら本当に禿げるぞ」
「まだ大丈夫」
と髪を触った。
「リュー先輩!」
ロイが手を振ってこちらに駆けてくる。
彼は、まだ第三部隊に配属されたばかりの新人だ。歳は15歳…そこそこだろう。
素直で少しばかりシャイな彼は、隊員たちから可愛がられ好かれていた。
だが、ロイがこちらに走ってくると同時に彩が動いた。
「ロイ!来るな!」
「え?」
林の中から唸り声をあげて、飛び出してくる何か。
そいつはロイに飛び掛ると、鋭い爪を振り上げた。
「…!」
ロイは反応ができず、その爪が自分に振り下ろされるのを見つめていた。
「っ!!!」
ロイの身体が飛んだ。
彩がロイを抱えて横に飛んだのだ。
振り向きざま、彩はそいつの胸から肩までを鎌で切り裂いた。
「ギャアアア!!」
生物は倒れた。
「大丈夫か、二人とも!」
「まだ一匹いやがったのか」
すぐさま、まわりを警戒しはじめる仲間に囲まれながら、リューは彩とロイに駆け寄った。
「彩…っ!」
彩の背中から血が流れ出している。
「ちょっと待って、血止めを…」
「あ…?ああ」
めんどくさそうに返事をした後、彩はロイを抱き起こした。
「怪我は?」
「ありません。でも彩さんがっ」
ロイは涙目で彩を見ている。
「僕が、油断していたために彩さんをこんな目に…どうしたら…」
後半は、かすれて聞き取れなかった。
彩は背中の傷をリューに任せたまま、ロイを抱き寄せた。
「泣くな。こんな所で泣かれても困る」
「うぅうっ…」
「ん?」
リューは、彩の背中を手当てしながらも、二人の間に妖しい雰囲気が流れているのを感じ取り…
「ほらよ、彩。血止まったぞ」
わざと、軽く肩を叩く。
「ありがとう。ところで、たぶんあれが最後の一匹だよ。もう気配はしない」
彩が普通に返事をしたので、リューは顔を背けた。
-なんだよ、こいつ-
「おまえさぁ、たしか前、男は年下が好みだって言ってただろ」
あれから数日後。
リューは、こたつでみかんを食べている彩に尋ねた。
「ああ、そうだ」
彩はみかんを丸ごと口に入れる荒業を披露しながら頷く。
口小さそうなのに、毎回よくやるな…と思いながら、リューは続けた。
「単刀直入に聞くが、それはロイのことか」
「そんにゃ…そみゃ…」
「ああ、わかった。ちょっと待ってるよ」
彩が食べ終わるまで…。
リューはおとなしくしていた。
しかし、みかんを飲み込んだ彩が返した返事はリューを驚愕させた。
「それは凍牙の事だ」
「はぁ???」
「知ってるだろう。第6部隊の凍牙」
凍牙というのは、第6部隊に所属している金髪の美少年の事だ。
実のところは、少年といえる歳ではないらしいが…。
フランス人形を思わせる、大きな瞳、長い睫毛、陶器のような肌は当初隊員たちを燃え上がらせたものだが、実のところその性格は陰湿かつ陰険で、今となっては隊員たちを震え上がらせていると評判だった。
それに、彼はリヒャルト長官の親衛隊の隊長でもあり、リヒャルト長官にぞっこん惚れこんでいて、長官のためならばどんな手段も問わないとの噂が広がっていた。
「あんな奴が好きなのか…」
これには、リューも絶句せざるえない。
だが、まことにあっさりと彩は答えた。
「あれが好みじゃ悪いか」
数日後。
リューは、彩と凍牙が接触しているのを目撃した。
しばらくして、凍牙がいなくなると、リューは彩に声をかけた。
「楽しめたのか」
「別に…」
と呟いた彩だったが次の瞬間、ぱっと顔を輝かせて
「ああ、そう今度バレンタインだろ!凍牙にやるものを作ろう!」
「は?」
そういえば、日本では、バレンタインの日に好きな相手にチョコを贈る習慣があるらしい…
リューはふと思い出した。
「凍牙にやるのか、その…チョコレートを!」
「やっちゃいけない理由はない。うん、そうしよう」
ルンルンと、軽い足取りで部屋に戻っていく彩。
「まじかよ…」
たしかに、この男社会ではそういった華やかな行事に縁薄いが。
しかし、だからといってバレンタインって行事がないわけじゃない。
個人的に楽しんでいる者もいるらしいし、何より2月14日は長官室の前がプレゼントで埋め尽くされている。ドアを塞ぐほどのプレゼントの山は、たんに親衛隊からの物だけではない。
誰がやり始めたのかは不明だが、これのせいで毎年リヒャルト長官は外に出ることも出来ずに、ドアを愛用の鞭で打ち壊して自室から脱出しているという噂だ。
さらに毎年のように繰り返されるプレゼントの山を目にした長官の
「毎年、毎年…私の誕生日でもないのに・・??」
という激鈍発言は、プレゼントをあげたものに失望どころか萌えを蔓延させてしまったらしく、毎年プレゼントが増える一方だと言う。
リュー自身はここに来る前も来てからも、男にバレンタインプレゼントをやった事はないし、もらったこともない。
今頃、彩は部屋のキッチンでチョコレート菓子を作っているのだろうか…。
リューは気分が悪くなった。
-凍牙にあげるプレゼント-
さきほどの彩は、たしかに嬉しそうな顔をしていた。
…そんなに凍牙を好きなんて知らなかった。
…今までそんな素振りは一度も見たことがないのに。
…オレが鈍かったのか、彩が隠し通していたのか。
未だに、彩が掴めない。
-オレは、知らなかった-
リューにとって、それが一番辛い事実だった。
続く

