リューは自室の前で立ち止まっていた。
さっき聞いた一連の話が真実だとしたら、彩は…。
-ますますわからなくなっちまった!-
事の真相はわかったが、中身がいまいちわからない。
凍牙は口を割らなかった。
「僕と彼が取引をしていたら、内容を他人に話すわけないじゃないか」
それは、すなわち取引があったという事実だ。
「彼に聞いてみれば?もっとも、それで君と彼の仲がどうなろうと知らないけどね」
可愛らしい顔を陰険に歪め、凍牙はせせら笑った。
-そりゃ、こんな奴に彩が惚れるわけないな…-
今まで気がつかなかったのが不思議なくらいだ。
「そういえば」
と、凍牙は大きな瞳を動かしながら
「占い師にでも聞けばわかるんじゃない」
「バカにするなよ!」
確かにSSG内には公認占い師が存在するが、今は占いをしている気分じゃない。
「なら、自分で考えるんだね。tschus!」
凍牙は、厭味ったらしく去っていった。
そして…脳内右往左往の結果。
目の前には、可愛らしいクマの看板。
「お留守中」
と書いてあるが、人は在中だ。
なにしろここの住人は、彩に優るとも劣らない面倒くさがりなのだ。
意を決してノックする。
「なぁに?」
のんびりした声が聞こえて、ドアが開いた。
起きがけらしく、オレンジ色のパジャマ姿で目をこすっている小柄な男。
この人がSSG公認占い師“兎兎”
「きみがくる事はわかっていたんだよ。リュー・ウェン」
核心めいたセリフを言うくせに、どう見ても、あともう一時間は寝ていたい感じだ。
リューが部屋に入ると、兎兎は手のひらサイズの透明なケースを持ってきた。
「きみが知りたいのは、これの正体だね」
「いや」
-やはり占いは信じられない。くるんじゃなかった-
背を向けようとした時、
「これを彩が持ってきたものだと知っても?」
兎兎が声をかけたのであわてて向きかえる。
「彩がなんだって?」
「すなわち、これが取引材料なのさ」
兎兎の話によると…
「ある日、彩がこれをここに持ってきた。私は彩と個人的に仲がいいからね。
そして、彼に頼まれた。これで凍牙を釣ってくれないかと…」
「でも、彩は凍牙の事なんか…」
「まぁ、最後まで話を聞きたまえ。彩が凍牙に頼みたかったのは、囮役だよ。
私を仲介して、凍牙はそれを受け入れた」
「でも、どうして凍牙は…あいつがただでそんな役を引き受けるとは思えないな」
-一筋縄ではいかない奴だと、さっき確認したばかりだ-
「だから、ただじゃないって!きみ、これがなんだかわかるのかい?」
興奮した様子で兎兎はケースを差し出した。
「さぁ??」
見た目、何も入っていない。
5cm×5cmくらいのプラスチックケース。
中が透けて見えるが何も…
…髪の毛みたいなものが入っていた。
きっとゴミだろう。
「細菌とか?危険な菌じゃないだろうな??」
「とんでもない!」
兎兎は首を振った。
「これはある人物の体毛だよっ!!!」
「・・・」
兎兎の興奮した叫びとは逆に、リューは表情を出さなかった。
いや、出せなかったのかもしれない…。
「彼の体毛は、とてつもなく貴重でね!私も2本しか手に入れていないんだ!」
「…それがどうした…」
-何の話をしにここに来たんだっけ…-
リューは頭を抱えたくなった。
兎兎は、プラスチックケースを握り締めながら、問題のブツはDr.コッペリウスのDNA鑑定のお墨付きだとか、“彼”の体毛の収集率が悪いのはなぜだろう? とか一人でブツブツと呟いていた。
「美しい顔をして体毛が多めなのも萌えだけど、いい歳して体毛が薄いってのも萌えに値すると、私はこの件で結論づけたんだよ!!」
思わずガッツポーズ取る占い師に、リューは静かに語りかけた。
「ところで…肝心の真相は…」
戻らないと宣言した自室の前で、リューは思い返す。
「人を好きになった時、器用に動けない人のほうが多いんだよ。特に一般的ではない恋愛を繰り返してきた人は…臆病になってしまうのかもね」
毛話を終わらせた兎兎が呟いた言葉。
彩は…ロイが好きだから…。
続く

