SSGのリヒャルト&RQと
『MELTING POINT(かげふみさん宅)』のアイス&アレクが温泉旅行?!
かげふみさん、掲載許可をありがとうございました(^^)/
「ぬぬぬぬ~」
ここは国際的秘密組織SSGの占い部屋。
おかっぱ頭がトレードマークの占い師兎兎が、今まさに水晶玉の前で唸っている。
「見えたんだよーーー!」
テーブルの上には、数枚のくじが置いてある。
その中から、兎兎は3枚選び出して、コインで銀色の部分を削った。
すべて”当たり”の文字!!
「さすが、兄上!」
「ふぅ~~これで来月の予定は決まったね!」
「来月は、日本で温泉とまいりましょう」
そう、これは近所のスーパーが期間限定で配布していたくじなのだった。
当たりは”日本の温泉ペア旅行”。
旅行期間は1泊2日(移動時間を抜かして)だが、SSGの隊員からすれば、自由な旅行など夢のまた夢。(兎兎と潤一は比較的暇なほうだったが)
それがわかっていて、潤一は
「残りの2枚は、誰かに売りつけよう」
といったが、兎兎は首を振った。
「これは面白いことになりそうだよ」
数週間後。
ここは、某温泉郷。
山の中のそのまた山の中で、見渡す限り山しか見えない。
「あれ、駅からすぐじゃなかったのか?」
「この地図を見ると、歩いていける距離ではある…」
長閑そのものの風景には、まったく似合わない二人がいた。
一人は、ピンク色のパンクな頭をした大柄の男で、もう一人は黒ずくめで前髪を片方だけ伸ばした目付の悪い男だ。
大きな男は髪の色のわりに比較的普通の服装をしていたが、もう一人の服装は…
黒いシャツの真ん中にエイリアンの顔が描かれており、それが苺をかじっているというなんとも不気味かつ可愛らしいものだった。
この二人が何をしにきたのかというと…。
「旅館のそばにある赤い橋で待ち合わせなのだが、わかるだろうか?」
「アイスはともかく、アレクが心配だ…我が友よ、頼むから迷わないでくれ!!!」
アイスとアレク。
未来の人間なのだが、偶然にも出会い交流を持ち始めた。
アレクはRQと、アイスはリヒャルトと仲が良く、ほとんど家族ぐるみの付き合いをしているといっても過言ではない。
現在、何でも屋のような仕事をしながら一緒に暮らしている二人をこの時代の日本に招待して、一緒に温泉を楽しもうという計画である。
ところで、アイスは几帳面な性格なので時間通りに場所に現れるだろうが、パートナーのアレクは極度の方向音痴で、アイスに置いていかれたら、この山間の場所で間違いなく遭難するのだった。
「もうすぐ夕方になる。完全に太陽が沈む前に二人に会わないと、危険だ!」
「もちろんだ。待ち合わせ時間まであと1時間30分はあるが、アイスのことだからもう来ているかもしれん」
二人は、川沿いの細い道を歩き始めた。
・・・
実は数日前、RQにTという謎の人物から匿名の手紙が届いた。
「温泉に行っちゃいな、YO!」
の一言とともに、「日本の温泉宿へご招待!」と書かれたペアチケットが2枚添えられていたので、さっそくRQは親友に連絡をとった。
「俺は、なんとかしてリヒャルトを連れてくから、おまえもアイスを誘い出してくれ!」
「OK、感謝するぜ、親友!」
とはいえ、RQがリヒャルトを誘い出すのも、アレクがアイスを誘い出すのも困難を極めるはずだった。
二人とも、仕事中毒が共通している。トレーニングという理由で誘い出すのにも限界がある。
だが、この二人の場合、どちらかを言い含めてしまえば、事はすんなりと進むかもしれなかった。お互いにお互いを固く信用していたのだ。
「リヒャルト、アイスが日本の温泉に行きたいらしい」
「何!アイスが?なぜだ?」
降ってわいたような話に、リヒャルトは耳を疑った。
しかし、RQは平然として、
「パートナーとの信頼を深めたいらしい」
と畳かける。
「…なるほど」
もしかしたら、場所を変えて関係を考え直してみたいのかもしれない…。
リヒャルトは、じっと考えた。
アイスは、大人への階段を一歩一歩登っている最中なのだ。
「その~、このことをアイスに追及しないでほしいんだよな…。ほら、あいつって普段強気っていうか、ツンデレっていうか…恥ずかしがりやだからさ」
「もちろんだ。私はそこまで無神経ではない」
RQは密かに胸をなでおろして、心の中でつぶやいた。
さぁ、アレク。おまえもうまく言い含めてくれよ!!
・・・・・
一方、アレクのほうでも。
「アイス、リヒャルトが日本の温泉に行きたいらしい」
「リヒャルトが?」
温泉というのは、水が地中の熱で温まったものを言い、溶解成分は場所によって異なるが、治癒効果が認められているものもある。
アイスは考えた。
リヒャルトは、人に言えない傷でも負っているのだろうか。それとも、古傷がうずくのだろうか。それなら、自分に言えばよいものを…。
しかし、リヒャルトの性格を考えると、人の世話にはなりたくないのかもしれない。
「リヒャルトは、たぶんパートナーのことを…」
「わかった。リヒャルトが望むなら」
黙っているアイスに、アレクはしどろもどろになりながら話したのだが、早速支度を始めたアイスの耳には、パートナー云々は入っていないようだ。
「そうかよ…」
アイスには、どういう理由であれ”リヒャルト”は魔法の言葉なんだ。
おまえのパートナーは俺だぞ。
アレクは、ちょっと捻くれた。
しかし、こうして
「日本の温泉でダブルデート!」作戦は始まった。
「赤い橋って、あれかな?」
「ああ、あれだ」
駅からは、30分ほど歩く。
ここは、長野県の山奥。
終着駅から降りたときは、あまりにも何もないことに一瞬不安がよぎったが、川沿いの道を歩いていくと、どうも温泉郷らしき通りが見えてきた。
その入り口付近に、赤い橋が見える。
「アイスはもう来ているだろうか?」
珍しく、うきうきとした様子のリヒャルト。
心なしか、足取りも軽くなる。
「まったく、あんたはアイスのことになると別人みたいになるのな~」
「…」
もう陽が落ちかけてる。
夕陽の向こうに、黒い影が映った。
「アイス!」
サングラスをした白い顔がこちらを向いた。
と、思うとその手には日本刀が握られている。
ついでに、アレクの姿は見えない。
「げっ!!まさか、あいつ、もうヤラレちまったんじゃ!!」
真っ青な顔のRQとは裏腹に、リヒャルトは顔を紅潮させながら、アイスに駆け寄った。
「元気そうでなによりだ!」
そうして、ハグ。
日本刀を持つ人物にいきなりそれはないだろうと、RQが思った時だった。
「待ってくれーー!!置いていかないでーー!!」
泣き言を言いながら、長身の金髪が現れた。
「生きてたか!友よ!」
RQもアレクに駆け寄ろうとしたが、アイスが腕を伸ばすほうが先だった。
「貴様は遅刻だ…」
「待ち合わせ時間まで、まだ1時間もあるじゃねぇか!!」
問答無用に日本刀を突き付きつけて、処刑宣告を迫るアイス。
リヒャルトが、そっとアイスの肩に手を置く。
「アイス、斬るのならいつだってできる。今はリラックスしよう」
(アイスは、パートナーに素直になれないのだ。その不器用さが微笑ましい)
「おまえがそういうのなら…」
(リヒャルトは、湯治に来ているのだ。こんなところで余計な気を使わせたくない…)
アイスは刀を納め、リヒャルトはそんなアイスを先導するように歩き出す。
残された二人は、ほっと息を吐いた。
今日泊まる宿についた一行は、部屋へと案内された。
宿は温泉街入り口付近にあって川沿いに立っており、各部屋から川の流れが楽しめるようになっている。
「お世話になります」
館内の説明を受けながら、部屋へと案内された。
「各部屋に露天風呂がついておりますので、お好きな時にお入りになれますよ」
・・・・
一通り荷物を片付けた後、リヒャルトはアイスを部屋へと誘った。
「この風呂に一緒に入らないか、久しぶりだし話したい」
「え!!」
「なんだよ!!」
アレクとRQが同時に声をあげる。
アイスは、静かにうなづくとリヒャルトのそばへ。
「待てよ、アイス!おまえが他人の前で全裸になるなんてことは、お母さんが許しません!」
「そうだ、リヒャルト!!俺しか知らないあんなとことかこんなとことか、特に腰から下!!」
「大体、アイス!おまえまだバージ…」
リヒャルトが止める前に、アイスがアレクをぶちのめした。
「ああ~俺たちのダブルデートがぁ!!裸でいちゃいちゃ温泉の旅がっぁ~~!!」
大げさに膝をついて天を仰ぐRQを蹴り飛ばしてから、リヒャルトはアイスに向き直り、
「余計なストレスを与えてしまったな、すまない」
「気にするな。これで静かに話せる」
RQとアレクをたたき出して、静かにドアはしめられた。
・・・・・
まずは、リヒャルトが湯加減を確かめた。
「大丈夫そうだ」
「温泉には詳しいのか?」
「それほどでもないが、普段では、薬草を入れた湯に入っている」
畳敷きの部屋の奥に木でできた台座のようなものがあって、その上に大きな桶を模した風呂があった。外の景色を見られる形で、頬に当たる風は冷たい。
まずは、ゆっくりと足から湯につかる。
リヒャルトは何も言わなかった。
以前、アイスに身体の半分についた傷を見られていたからだ。
お互いの身体に変な意味での興味も持たないことを知っていたので、逆にリラックスした様子で、二人は手足を伸ばした。
身体中が温かい湯に包まれる。
「わずかに硫黄の匂いがする…リヒャルト…」
「ん?」
「もし、神経系の痛みなどがあった場合なら、私にでもどうなるかなると思う」
アイスは、この身体を心配してくれているのだ…。
リヒャルトは、驚くとともにほのかに胸の奥に温かさを感じた。
それは、温泉の熱だけではない。
「あの男の前で言えないこともあるだろう。もし、…よければ」
「ありがとう」
まさか、あのアイスがこのようなことを言うとは思わなかったので、リヒャルトは幸せな面持ちでうなづいた。
…アレクと一緒にいて、成長したんだな。
・・・・・・・・・
「こっちはこっちではいろーぜ!!」
「はっ!裸の付き合い上等じゃねぇか!」
こちらは、すっかり置いてけぼりを食らったアレクとRQ。
やけくそになった二人は、やはり風呂に入ることにした。
服なんて、そこらへんに脱ぎ捨てて。
ザブンと大胆に飛び込んだアレクは、
「あちっーー!」
と湯の中で飛び上がった。 「どれどれ?」
そう言って、慎重に入るのかと思いきや、RQも飛び込んだ。
大きなしぶきが二人を襲った。
「あちっーー!!」
「耐えるんだ、ゾクゾクしてくるだろ!」
「痛みはともかく、熱さはちょっと違う・・」
なんて、ドMな会話をしているうちに、身体が熱さに慣れてきた。
「それにしても、よく説得できたな、あのアイスを!」
「おまえこそ、リヒャルトを連れ出したなんてすごい!」
「ん~いや、リヒャルトはアイスが絡むと…意外と素直になるんだよな」
「あ、そうそう、アイスも。リヒャルト絡みだと『リヒャルトが望むなら』なんていうんだ」
「…」
「…」
「どうして、ツンデレ同士はああも素直なんだ?」
「~~。似た者同士だからか?アイスは、一度だって俺にはあんな言葉…」
「二人は二人にしか通じない言葉で話している気がする」
「俺だって、アイスに初めて友達らしい友達ができて、よかったと思ってるんだ。でもさ」
「…ん~、友達っていうか、あの二人の反応は…久しぶりに実家に帰った感じ」
「落ち着いてる気はする。アイスにも家族替わりみたいな存在はいるけど、それとも違うような…、リヒャルトのことは」
「ところで、どうよ…何か最近いいことあったか?」
そう聞かれて、アレクは「うーん」と考えた。
「あ、そういえば!アイスが俺の腹の調子を聞いてきたんだ。そこらへんに置いてあったキノコ丸かじりしたら、舌がしびれてきてさ!」
「それ…毒キノコじゃないのか?!」
「いや、アイスが実験用に培養したキノコだったらしいんだが、それよりも、あのアイスが俺に「大丈夫か?」と聞いたんだぜ!」
「そりゃ、びっくりだ!!…まさか、その後、優しく介抱されたとか??」
「あのキノコの無事を調べたいので、おまえを解剖してもいいか?と聞いてきた」
あの時のアイスは、たしかにメスを片手にしてたけど…と前置きしてから、アレクは
「攻撃をよけまくってたら、飽きたように横になって寝ちまった」
「あいかわらず、ツンデレだなぁ、あいつは!」
「そういえば、アイスがああやって急に寝るようになったのも、最近だったな」
「それで、それからの展開はないのか?」
「まぁ、俺はこれでいいと思ってる」
アレクは、今のままでも幸せそうだ。
あとはアイス次第なのかもしれない。
・・・・・・
「アレクとの暮らしはどうなんだ?」
「仕事は順調に進んでいる。他はあまり変わっていない。そういえば、私が培養していたキノコをあいつが食べてしまった事件はあったが、取り出そうとした時にはとっくに消化されてしまっていた…」
「それは面白い。前に、甘え方について話したことがあったと思うが、その辺はうまくいっているか?」
「…未だに、不明点が多い。アレクにも意見を言われるのだが、私にはわからない」
アイスは、じっと下を向いた。
甘え方知らずは、彼にとってコンプレックスになっているようだ。
リヒャルトは、そんなアイスを静かに見つめると、語り掛けるように話した。
「甘え方は、自分で習得するものではないのかもしれないぞ」
「では、そうすればいい? 」
「私自身、甘え方は知らないけれど、甘えてしまっていると感じることがある…。あいつに」
「…」
「甘え方は、自分のそばにいる誰かが…教えてくれるのかもしれない。お前でいえば、アレクだが」
「あいつが?」
そうして、アイスはまた考えて
「今夜、あいつに甘え方を聞いてみることにする」
と言ったので、リヒャルトは微笑ましいものを見るように笑った。
温泉は、心を優しく素直にするものなのかもしれない…。
ところで、一足前に風呂からあがっていたアレクとRQだったが、妙な思い付きをした。
「お互いにパートナーを取り替えて、夜の街に出かけてみねぇ?」
・・・・
川沿いの道から一本奥に入ると緩い坂がずっと続いていて、その間に土産物屋や歴史を感じさせる旅館があり、仄かな明かりが灯った細い通路には、こじんまりした料理店などがひっそり存在している。
4人は、場所柄に合わせて浴衣に下駄という装いで、旅館の玄関に集合して、二手にわかれることになった。
「なぜ、私がこの男と行かなければならないんだ?」
ものすごく不機嫌そうな顔で、アイスはRQを指さす。
「たまには、違う方がいいだろ?」
「私は、リヒャルトと歩きたい」
RQの隣でアレクがもろに抜け殻になっていたが、そこはリヒャルトが説得に入った。
「アイス、お互いのパートナーを見直すいいきっかけになるかもしれない」
「これは先ほど話した内容に基づく実験なのか」
リヒャルトがうなづくと、アイスはしぶしぶと言った様子で、RQについて歩いて行ってしまった。何度も不安そうにリヒャルトのほうを振り返りながら。
「子供を初めておつかいに出す親の気分だ…」
つぶやいた後、リヒャルトは急にふらふらと歩き出した。
「おいおい、大丈夫か?」
アレクが慌てて追いかける。
「これが本当にアイスのためになるのだろうか?おまえとあいつの言うことはどうも…」
「…たぶん、ダイジョブ!」
アレクがグッとサインを出すが、リヒャルトはふらふらと歩いていく。
6段ほど階段を下りた先の細い通路には小さな神社があり、そのそばのベンチで腰を下ろした。
「ここは落ち着く…」
「二人はどこ行っちゃったかな?」
「気になるなら、探してくるといい」
「え、別に…」
アレクがそわそわしながら、立っているのを見て、リヒャルトは口元に笑みを浮かべた。
「私は、ここにしばらくいる。なんだかんだと言っても、この中では一番の年寄りだからな」
「らしくないぜ!そんなに違わないだろ」
もしかしたら、リヒャルトは夜の街など、賑やかな場所は苦手なのかもしれない。
「ここにいる」
「別に…」
「思えば、おまえとあんまり話したこともないし、あいつとのことも聞きたいし」
すると、リヒャルトは困ったようなふて腐れたような微妙な表情を見せた。
「アイスのことを聞きたいのではないのか?」
「あいつのことなら…ある程度知ってるつもりだからな」
「そうか、そうだな」
・・・・・・・
「あれ」
RQはさっきから一言も話さないアイスが口を聞いたかと思うと、目標に向かってスタスタと歩いて行ってしまう。
それは、一般には射的と呼ばれる遊びだったのだが、アイスの眼差しは本気だ。
早速、銃を手にしている。
「当てろよ~」
「問題ない」
豚の貯金箱を狙ったのだが…なぜだか弾は店主の頬をかすめた。
「ひっ!!」
「破壊失敗…なぜだ。なぜ実弾ではない?」
ゴム弾を見て、こんな使えないものをっ!といきり立つ。
ありえない弾道から見て、実弾でないことはあまり問題ではなく…。
「へぇ、おまえ銃が苦手なんだ~意外だな」
「きさま!!」
アイスが銃をRQのほうへ向ける。
「まぁまぁ、これにはコツがあるんだ」
そういうと、RQはキューピー人形に狙いを定めた。
「お兄さんのものになっちゃいなYO!」
ゴム弾はキューピーの片頬をかすめ、それによってバランスを失ったキューピーは倒れた。
「ピンクのお兄さん、おめでとう!」
RQの手にキューピーが渡ると、アイスは悔しそうな眼差しを向ける。
「それは、アレクに似ている。気に食わない」
「?!…よくわからねぇけど、おまえにやるよ」
アイスは、差し出されたキューピーを奪い取ると浴衣の袂に突っ込んだ。
そうして、再び銃を手に取ると、先ほどの豚の貯金箱を狙うものの…またもや弾はありえない方向へ飛んでいく。
そして、1等と書かれた札のついた大きな招き猫を倒した。
「すごいというべきか、究極の下手くそというべきか…」
「うちのおもちゃそんな作りになってたかな??!!」
店主も目を丸くしている。
アイスは、手渡された招き猫をRQにぐいっと押し付ける。
「これはリヒャルトが好きそうだ」
「…うん、ありがと」
・・・・・・
「こんなところで、私と話しているのは退屈ではないか?」
「いや、面白いぜ。まさかアップルシロップが好きだったなんて」
「あいつに酒を止められてからはじめたんだ。たしかに、それまでの私はブランデーをストレートであおることもあったからな」
アレクとリヒャルトは先ほどから、神社のベンチに座っていた。
「RQは、おまえの私室によく行ってるのか?」
「え…あ…ま、ま…そうだが」
別に変なことを聞いたつもりはなかったが、リヒャルトはしどろもどろになった。
「別にあの部屋で一緒に暮らしてもいいんだろ?」
「そ、そんなこと…」
隊員たちに示しがつかない!とリヒャルトは首をきつく振った。
だが、すぐに思いつめたような顔になって、
「あいつにはまだ言わないでくれ。私は今の仕事から退くことを考え始めている」
「は?いや、そんな重いことを聞いたつもりはないんだけど」
ふぅ~とため息をついて、リヒャルトは口を開く。
「もう少ししたら、私の職を誰かに譲ろうと…。まだ具体的には決めていないが、私が組織を把握している力を持っているうちに、もっと若い者に引き継がなければならないと考えている」
「そしたら後、どうするつもりなんだ?」
「…一緒に暮らしてもいいか」
前に会った時と、雰囲気が変わったような…。
アレクは、今回リヒャルトと再会した時から感じていた。
以前は、もっとピリピリしていた。
RQにももっと激しく当たっていた気がする。
それが、なぜか落ち着いた感じというか、わかっていて行動しているような雰囲気だ。
今、リヒャルトが気にしているのは、RQというよりアイスのようだった。
「あ、なんか変わったな、リヒャルト」
「そうか?どこが?」
「前よりも、落ち着いてるっていうか」
「それは歳だからだろう」
「そういうふうには見えねぇけど」
「いや、おまえもこの歳になればわかる。突然、去年できたことができなくなる予想がついてくるんだ。体力も気力も自分の中でコントロールする必要が出てくる」
「う~ん」
すると、向こうからピンク色の影が近づいてきた。
「おーい!二人で何いちゃいちゃしてんだよー」
「アレク!貴様、リヒャルトに夜這いをしていたのか!!」
「んなわけないだろ!!」
堪えきれないという風にリヒャルトが声をあげて笑いだしたので、全員がぴたりと動きを止めた。
「みんな、無事でよかった」
RQが招き猫をリヒャルトに差し出す。
「アイスからだ」
「私に…」
うっとりとした瞳で招き猫を見つめると、その耳をなでながら「うちの子に似ている」とつぶやいて、リヒャルトはアイスに「ありがとう」と礼を言った。
旅館に戻ると、もう布団の用意がされていたので、お互いのパートナーと部屋に戻ることになった。
「あーあ、ほんとはあんたと風呂に入りたかったんだぜ!」
「朝にすればいいだろう。朝風呂もいいものだ」
「ん?そうか」
RQは、抱きかかえていた枕からガバッと顔をあげた。
「薄煙の中での仄かな明かりで匂う立つような肌もいいが、朝の光の中で輝く肌もいい!」
「風呂でおかしなことはさせないからな!もう寝るぞ」
「ああ。朝におかしなことできないくらい、夜にはりきればいいだけさ!」
リヒャルトが明かりを消すと、RQはするりと…リヒャルトの布団に入った。
・・・・・・
「リヒャルトと何話したんだよ?」
「言うことはない」
「そうかよ~」
せっかくの温泉旅行なのにアイスと過ごす時間がなくて、アレクとしては不満たらたらだ。
なんだかんだといっても、リヒャルトとRQはそれなりに楽しく過ごしているだろうから、なおさら…。
ところが…
アイスがするりと布団に入ってきた。
そうして信じられないことに
「おまえにとっての甘えとはなんだ?」
と聞いてきた。
「え、いきなりなんだよ?!」
「甘えとは、個人だけでは習得できないものらしい」
アイスの口調に悔しさが混じっているのを見て、アレクは可笑しくなった。
「そう…甘えってのは感じ方だから、受け取る側によっては甘えじゃなくなる時もあるんじゃないのかな」
「では、私が甘えを習得しても、おまえには通じないということがあるのか?」
「うーん、逆におまえが甘えてないと思っていても、俺には甘えと感じることも…」
言いかけたところで、「それはどういうことだ!」と首を絞められた。
「ゲフッ…あたた、たとえば、今みたいにいきなり布団に入ってくるとか」
「布団に入ることが甘えなのか?」
解せないといった様子でアイスは考え込んだ。
「めったにしない行動があった時、それを甘えと感じるのか…も」
言っているうちに、アレクもよくわからなくなってきた。
アイスが気が付くと布団に入ってきていることは、まぁ…以前からもあった。
そして、布団にはいってくるなり死体のように寝てしまうことも。
だが、今夜は同じ布団で話をしている。
「おおっ!!RQ!俺にもわかったぜ!甘えの意味が。そして、今夜俺は幸せだ!!」
「?」
不快な名前がアレクの口から出てきたので、その口をすぐさま枕で覆う。
「・・・・!!!」
「このような行動が甘えというものなのか。少しわかった気がする…」
違うぞ!手前までは合っていたけど…。
それを言う前にアレクの意識が遠くなっていった。
朝日が昇った頃、湯加減を確かめるRQがいた。
「アレクのとこの風呂、ここよりずっと熱かったぜ」
「こちらは適温だったぞ、しばらく入っていてものぼせなかった」
そういうリヒャルトはまだ布団に入っている。
「それより、おまえはいい加減何か着ろ!」
「え?今から風呂入るんだけど、いいじゃん~」
「一晩中、その恰好でウロウロしているじゃないか」
「それはあんたが服を着させてくれなかったから…さ☆」
ウインクをしてみせるその顔に、枕を投げつけて、リヒャルトはため息をついた。
「動くのはもう少ししてから…」
「こういう時こそ、温泉の効果を実感だ!」
言うなり、RQはリヒャルトを抱え上げて、風呂につれていく。
「おい!こら!私は自分の足で行く」
「べつにいいじゃん~。10歩も歩かないだからさ。こんな時は自分を甘やかせ」
「っ~~」
瞬く間に風呂に入れられてしまった。
「昨日は、アイスと何話したんだよ?」
「秘密だ」
「ケチ~」
「おまえもいつも秘密秘密と言っているじゃないか。私がおまえに一つくらい秘密をもっても不公平ではないだろう」
「ちっ」
つまらなそうに横を向いたRQだったが、ふと思い出したように、ニヤッと笑った。
「ところで、どうして昨日ノーパンだったんだよ?」
「っ・!!」
たちまち、リヒャルトの顔が真っ赤に紅潮する。
「浴衣の裾をめくったら、これは嬉しいハプニング~♪なんと丸見え!」
「ち、ちが…あれは、あれは浴衣の時は下着をつけてはいけないと何かに書いてあって…」
「ぷっ…それ、女のことだろ?」
そのままRQは堪えきれず、馬鹿笑いをし始めたので、リヒャルトは桶で湯をかぶせた。
「うぅぷ!あちち!!」
「黙れ!これは誰にも言うな!」
「もう一つ秘密が増えたな!あはは!!」
「うるさい!」
「ひょっとして、昨夜アレクとじっとしてたのって、ノーパンだったから?」
「そ…だって、動いたら見えてしまいそうで落ち着かなくて…それで…」
しどろもどろになるリヒャルトとは逆に、RQはますます馬鹿笑いをした。
それで、とうとうリヒャルトの手がRQを風呂に沈めた。
だが、顔を出してもRQはまだ笑い足りないようで
「沈まされたら、目の前にあんたのあれが…あっはははは!!」
「も、もう!!二度とおまえとは風呂に入るものかーーー!!!」
・・・・・・・・・・
朝食は、食堂に集まることになっていた。
RQは自分のテーブルを見つけると、ちょうど入り口にやってきたアイスに手を振る。
「アレクは?」
「すぐ来る。それより、リヒャルトは?」
「…たぶんすぐ来る」
すると、顔を紅潮させたリヒャルトとアレクが二人で歩いてくる。
「おはよう!どうしたんだよ?」
「…なんでもない」
アレクは、幾分ぼんやりした感じだ。
「昨日、私が甘えたせいだ」
アイスが堂々と胸を張って宣言した。
「え、あ???」
アレクの隣で動揺するリヒャルト。
アイスは、「早々と実行してみた」と報告する。
「あああ…アイス。あまえ…る時は、長い時間、甘えないほうがいい」
リヒャルトの目から見ると、アレクは一晩中放してもらえなかったようだ。
なんて、積極的なんだ!
やはり、若さというものはあなどれない!
ショックを受けているらしいリヒャルトの前で、アイスは
「甘えるときは、素早く実行」
と繰り返して見せた。
「なんか窒息して気絶してるうちに、そのまま寝ちまってさ」
「よく蘇生したな、さすがだぜ!友よ!」
その横で、アレクとRQは肩を抱き合い、お互いの無事を喜び合う。
朝食は典型的な日本食で、アイスは焼海苔を見るのが初めてだったらしく、「注文票なのか?」と聞いてRQに笑われ、箸を投げつけようとしたところで、リヒャルトにちぎった海苔を口に入れられてようやく食べ物だと理解し、それからは気に入ったようでパリパリと海苔ばかり食べていた。
こうして、無事に朝食も終わったところで、帰路につくことになった。
この時間に出なければ、飛行機に間に合わない。
名残惜しいが、お互いに仕事があるので仕方がなかった。
今度は川沿いの落ち着いた道を歩く。
ところで玄関を出たところで、向こうからカランカランと下駄の音をさせて、誰かが歩いてくるのが見えた。
歩いている人物に対して下駄が大きすぎ、下駄の存在感が圧倒的すぎる。
和服におかっぱ頭のせいか、座敷童のように見えるその人物は、はと顔をあげた。
「おや、偶然だね?」
しれっとした顔で兎兎は4人を見やる。
「どうしておまえが?」
「私はちゃんと休暇届を出していたよ。ジュージュも一緒に、ね!」
後ろのほうから、「待ってくださいよー兄上!!」という声とともにガランガランと下駄を踏み鳴らしながら長身の男が駆けてくる。
「ああ、みなさん。おはようございます」
「私たちも昨日から滞在しているんだけど、明後日までここにいるつもりなんだ」
「どこに泊まっているんだよ?」
RQが聞くと、兎兎はここ!と宿を指さした。
そして、「あーあー!これは奇遇だね。君たちと同じところなんて!!」
とわざとらしく驚いて見せる。
これはどう考えても、この兄弟の企みなのだが、リヒャルトは「面白いこともあるものだ」と納得しているし、アイスやアレクも「狭い国だとそういうこともあるのか」とうなづいているので、RQもあえて何も言わなかった。
…いい思いもしたし。
帰国後。
アイスにメールをするリヒャルトがいた。
「リヒャルトからアイスへ
この前は、久しぶりに会えて嬉しかった。それから…アレクにはうまく甘えられているのか。是非ともそうだと嬉しい。ただ、甘えというものはバランスが大事なので、ここぞという時に見せるのがよいとRQが言っていた。この辺は私にもよくわからない。次に会ったら、この辺についても詳しく語り合いたいものだ。
パートナーとの関係に悩んだら、できるだけ相談にのりたい。
互いにもっと支えあえたらいいと思うのは、私の甘えではないと思いつつ…。
それでなくとも、おまえと会話できる時間は落ち着くし、幸せな時間だ。
追伸:帰りに土産物を買ったのでそちらに送る。猫の置物のお礼として受け取ってほしい。
では、近いうちにまた会おう」
・・・・
「アイスからリヒャルトへ。
この前は、大変有意義な時間を与えてくれて、礼を言う。
どういうわけか、おまえには本当の心境を話せる。甘えの問題にしても、あそこまで話せるのはリヒャルトしかいない。あいかわらずアレクから甘え方の明確な答えは聞けないままだが、私なりに努力している。昨夜は2秒のうちに甘えてみせたが、アレクは何が起こったのかわからないと言う。甘えは素早く、そして余韻を残さないと記憶に刻まれないものらしい。
それよりも、身体の調子はどうなのか。温泉で少しは傷を癒すことができたのだろうか?
必要なら、こちらにも薬の準備はある。すぐにでも身体に合わせてカスタマイズすることが可能だ。遠慮せずに言ってほしい。
追伸:土産物の岩塩は書いてあった通り、入浴の際に身体にすりこんでいる。
こうすると身体が活性化するようだ。手傷を負ったアレクにも消毒のためにすりこんでやったが叫び声をあげて悶絶した。あいつは何事にも身振りが大げさすぎる。あのピンク男の影響を受けているようだ。
また連絡する。今度はあの付近の山でサバイバルゲームをしてみたい」
・・・・・
「アレクからRQへ。
この前は楽しかったぜ!誘ってくれて&誘い出してくれてありがとう♪
あれから、アイスが毎日ベッドに忍び込んでくるようになった。
俺を何秒で落とせるかを実験しているらしい。最近では、あいつがベッドに入り込んできたと思ったら、いきなり首筋を打たれて知らないうちに寝ていた。せっかく近くにいるのに話す間もないなんて残念すぎる…。でも、少しは進展したかな?
今、アイスが、おまえにもらったっていうキューピーを棚に飾っている。
アイスに言わせれば、俺に生き写しだそうだ。俺ってそんなにキューピーに似てたっけ?
でも、なんとなくアイスはあれが気に入っているように見える。
キューピーの手にメスを握らせて満足そうだ。それじゃ、チャッキー人形だぜ…。
夜中にあの人形の前を通りたくねぇ!!
追伸:そういえば、リヒャルトが土産にくれた塩だけど、あれって傷口に塗り込むものなのか?
また、いつでも呼んでくれよな!」
・・・・
「RQからアレクへ。
おおっ!!相棒、生きていたか!!この前は楽しかったぜ。
進展おめでとう☆まぁ、ベッドインには変わりないな。過ごす時間を考える間もないのが惜しいけど。ベッドの中で積極的なのは、どんな形でも大歓迎だぜ!!今度は、アイスが手を出す間も与えないくらいにおまえの魅力で引きずりこめばいいさ。
ところで、こっちでもアイスにもらった招き猫をリヒャルトが飾っているところだ。
首の部分にリボンをつけてる。可愛いからSSGの入り口にでも飾ろうか?と聞かれたのだが、部屋のほうがいいと答えた。入り口じゃ商店みたいだ・・。
アポロに招き猫で話しかけている。ああいうところは、あんまり普段見せないところだ。あ、こんなことメールで書いたなんて知られたら鞭でぶたれるじゃすまねぇ(笑)
おまえがキューピーだって!?似てるかもしれない。目のあたりとか。
もう少し腹は硬そうだけどな。大事にしてくれると嬉しいぜ☆夜中に会いたくないけど(笑)
追伸:あの塩、俺も傷に塗り込まれた。叫ぶほど沁みたけど、塩を塗るリヒャルトの顔が必死だったんで、なんとなく萌えた!!」
「みんなで温泉作戦は大成功だったね!っくシュン!」
「あーあ、大丈夫ですか、兄上?」
兎兎は温泉三昧お散歩三昧で、湯冷めして風邪をひいてしまったのだった。
「みんなで喜びを分かち合うのが、兎兎ちゃま流なのでーす!ゴホゴホ…」
「心がけは大変立派ですが、ひとまずお布団に入って・・」
布団を目の下まで引き上げた兎兎は、眠りに落ちる前にぽつりと言った。
「どうしよう、ノーパンの夢見たら…」
「隣室の声が思いっきり聞こえていたのは、ここだけの秘密です」
潤一は、そういって兎兎の額を撫でてあげた。
なるべくノーパンの夢など見ないように・・。

