-平和な日-

兄上… イルミーネ国の物語
甘えん坊な弟君

イルミーネ国が冬をむかえる頃。

アルキュード公はいつも通り国王の私室のソファに座り、新聞を広げていた。
休日のゆったりとした午前中。

新聞には、イルミーネ国の安定した経済に関する記事が載っている。
近隣諸国との貿易も上々…。
特にバストール国の港から運ばれる物資は、イルミーネ国を豊かにしていた。
これは、サングとトトが共に手を携えた結果だった。
トトはイルミーネの鉄鋼技術をバストールへ提供する代わりに、港の使用権を大幅に拡大したのだ。

「平和だな…」

思わず、ジュールの口からそういう言葉がでた。
ソファにもたれて一息つきつつ、昔のことなどを思い出してみる。

・・・・・

お昼近くになって、トトは至極深刻な表情で部屋に入ってきた。

「ジュージュ、私、お昼に…なっとうを…」
「あ、兄上!!」
こちらを見たジュールは真っ青だった。

「どうしたんだい?!」
「私は今考えていたのです。よくぞ、生きていてくださったと!!」
「は?」
トトは目を丸くした。

ジュールは新聞をすさまじい勢いで放り投げながら、
「ああ、こんなものなど少しも役に立たないのだ!」
と声をあげる。

トトが目を見張っていると、ジュールはまた意外な言葉を口にした。

「私はずっとあなたを…無能だと思っていたのです!」
「ひ、ひどいなぁ…」
唖然としながらも、トトは弟の暴言を受け入れる。

「い、いえ!言いたかったことはそうじゃなくて。あなたのような方こそ、もしかしたら生き残るすべを知っているのかもしれないと…」
「そ、そう??」

先ほどからまったく話が見えない。
トトはジュールの隣に座った。

「一体どうしたというんだい?」
「まずは順を追って説明すべきでしたね。すみません…」

・・・

ジュールは新聞を読みながら、今の幸せを噛みしめていた。

「今日は平和で何もない。国も落ち着いている。私も幸せだ」

そう思いながら、過去を思い出していた。

はじめてトトに会った日のこと。
トトとサングの出会い、自分と二人、そして二国の関わり合い。
国内の敵との闘争の日々。

そうした中で、ふと思ったのだと言う。

・・・

「あなたはよく生きておられた…」

ジュールが出会ったばかりのトトは、あまりに純真で傷つけやすい王子様だった。
まわりの変化に怯え、自分を襲った悲劇につぶされかけていた。
自分で命を絶ってしまう危険もあったが、実際に国内の敵に命を狙われたこともあるのだ。

「でも、それはジュージュが止めてくれたんだよね」
「え、ええ。しかし、やはり私から見ると、あの時のあなたは無能とまでいかなくても、儚いイメージだったのです」
「無能から昇格したのかもしれない…」
と、トトは笑った。

「私は運がいい」
トトは言う。
「まわりの人たちが助けてくれたから生きている。いつも私が倒れそうになる時に、誰かが隣にいて、どういう形でか助けてもらっていた。私は本当に恵まれているんだよ」

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ジュールは、昼間のトトの言葉を思い出していた。
(もちろん、その後の話…昼食の納豆に卵を入れるべきかバターを入れるべきか、ごはんにするかパンに乗せるか、でトトが深刻に悩んでいたこともちゃんと覚えていた)

ふと歴史書に目を通したくなったジュールは、王宮の書庫へ向かった。
そこで一晩中、本を読みふけっていた。

次の日の朝。
トトは、ジュールを書庫で見つけた。
本に埋もれるように机に突っ伏している。

「どうしたの?調べるものでも?」
「いいえ…」ジュールは頬を机につけたまま、首を振った。

「最終的には自分を捨てないでいる意志の強い人が生き残っているのです。
いつの時代もね。自分の本当に欲しいものだけを知っている人が」

そういって、高く積まれた歴史書をポンポンとたたく。

「私もあなたに負けたくないので」
「それはいいから…もう寝ないとだめだよ」

トトは、そのまま目を閉じたジュールの背中に毛布をかけた。

かつて…
自分の地位を奪いに来た敵。
両親の都合により引き裂かれた異母弟。
トトの心を占める恋人でもあり、今では一番近くにいる家族に。

後日談:

トトの密かな計画。
どんぶりにプリンを作り、それを王宮の中で一番大きいスプーンですくって食べる…。
口をプリンでいっぱいにしてモグモグしているトトを見て、ジュールはソファに座ったまま呟いた。
「平和だなぁ…」

-オワリ-
あとがき
本編をひさしぶりに読んだら、よく兄上・・生きてたなって(^_^;)

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