明日は、アルキュード公ジュールの誕生日だ。
王室で毎年のように行われていたアルキュード公のための誕生パーティーは、今年は1週間前に行われた。次の週に本人に仕事があったためだ。
そんなわけで、ジュールの誕生日の前日までトトは一人で過ごしていた。
「明日はジュージュの誕生日・・・ふヒヒヒ・・・」
トトは、毎年ジュールの誕生日を自分の誕生日よりも楽しみにしていた。
実際、国王たる自分の誕生日は公的な行事に振り回されるので、あまり楽しみではなかったのだ。
明日は・・・カップケーキでも焼こう。
その後、ジュールとゆったり過ごす。
二人でダンスを踊るのもいいだろう。
そのあとは、じっくり愛し合うつもりだ。
「ああ~」
うっとりしそうな想像をしてトトは身悶えた。
結構長く付き合っていると、マンネリ化するものだが、
「わたしたちに限っては全然そんなことないんだね」
ニコニコと満足そうに、ベッドに入る。
あいかわらず、ジュールはかっこいいし、私のトキメキも変わらないんだよ。
トトはこの人らしく、また何度目かの恋に落ちていた・・・。
幸せとトキメキと妄想に包まれたままトトは横になったわけだが、どうにも変な夢を見た。
深夜2時半。
「ぎゃっ!!」
トトの足を凄まじい痛みが襲った。
おかしな夢を見ていたせいなのかもしれない。
「い、いたいよぉ!!!」
攣った足を急いで動かそうとする。
たしか、こういう時は親指を内側にするんだっけ?
それとも、ふくろはぎをもむんだっけ?
無理やりぐいぐいと動かせばいいんだっけ??
あわてたせいで、そのすべてを試してみる。
やがて、凄まじい痛みは引いていった。
ほっと安心したトトは自然に二度目の眠りに入っていった。
・・・・・・・・
次の日の朝。
「今日は、ジュージュの誕生日だね!」
勢いよく布団を投げ出して、ベッドから飛び降りようとしたトトはそのまま床に落下した。
「ぐへっ!」
床にボディブローをした形で、苦しげにもがく。
右足が動かない。
正確に言うと、膝から下が引きつったままになっている!
「ど、どうしよう!」
ようやくの思いで起き上がると、仕方なく足をひきずりながら着替えの服を取りに行った。
朝から国王が足をひきずって歩いているので、様々な人が声をかけてきた。
しかし、トトとしては夜中に足が攣ってしまっただけなので、たいしたことはないと返していた。
シップを張るほど大げさなものではない・・・はずだ。
数時間後には元に戻るだろう。
だが、トトの予想に反して足は痛みをともなったまま、まったく動かない。
このままではカップケーキも作れないどころか、明日からの生活にも支障がでるだろう。
ちょうど、トトは明日から会議がたて続きに入っていた。
「ジュージュに言って、今日はおとなしい誕生日にしてもらおう」
アルキュード公ジュールは、その日の正午に王宮に戻ってくる予定だった。
(外交の仕事で隣国に行っていたのだ)
そして、いつもどおりジュールは時間より少し前に帰ってきた。
「兄上!ただいま帰りました」
「おかえりなさい。無事でよかった」
トトは、執務机に座ったまま答えた。
いつもならジュールに寄り添うところだが、今日はどうにも身体が動かない。
「どうかしたのですか?」
「実は・・・」
「これはこむら返りというやつですね・・・」
「前にもこれと同じようになったことがあるんだよ」
「くせになっているのかもしれません」
患部をそっと触って、ジュールは自分のかばんから湿布を出した。
今日はちょうどよく長旅の帰りだったので、簡単な医療グッズをもっている。
「そんな大げさなものじゃないよ」
「歩けないだけでも大げさですよ」
トトは、自分の間違った知識のオンパレードに後悔した。
こむら返りになった時は、急に無理やり動かしてはいけないのだ。
「肉離れまではなっていないから、安静に」
ジュールは医者らしく、トトの膝に手をポンと置いた。
「ところで、私は今日ジュージュの誕生日だと思って、いろいろ用意するつもりだったんだよ。でも、足がこれじゃ・・・」
「ああ、いいよ。無理して大変なことになったらいけないから」
それでも、トトは足をひきずりながら、戸棚に手をかける。
そして、そろそろと小皿をテーブルに並べ始めた。
誕生日には、いつも軽く食べて飲んだり、ダンスをしたりするのが二人の恒例だった。
「今回も一応、軽食を用意したんだ」
「ありがとう。でも、無理はしなくても・・・」
「無理ってほどじゃなくて・・・」
トトは申し訳なさそうに、小皿の蓋をとった。
そこには、ちくわが8本並んでいた。
「調理場にこれくらいしかなくて・・・」
続いて、細く切ったきゅうりとマヨネーズ、チーズなどが現れた。
「どれかがちくわに合うと思ってね。ちくわパーティー・・・」
トトは申し訳なさそうな顔で無理やり笑顔を作った。
「飲み物は決めてる?」
ジュールは聞くと、トトは「まだ・・・」と答えた。
「それじゃ、私がちくわに一番合う飲み物を選んで差し上げよう!」
颯爽と、部屋から出て行くジュールにトトは呆然としていた。
しばらくして、ジュールが帰ってきた。
「これかな?」
透明の瓶を一本持っている。
「これがなんだかわからないけど、とりあえず飲んでみよう」
トトはグラスを二つ用意して、それを注ぎいれた。
「乾杯!」
「ジュージュの誕生日に!」
それを口に入れると、軽く炭酸がきいていた。
「わっ!これ、お米のお酒だよ」
トトは驚いてのけぞった。
「そうそう!最近流行っているみたいだよ。炭酸入り。アルコール度も低めで兄上向きだといえます」
「・・・」
そういえば、最近トトは悪酔いして、得体の知れないことを口走りながらベッドで大泣きしたばかりだった・・。
「では、さっそくちくわを合わせてみようね!」
トトは誤魔化すように、ちくわに手を伸ばす。
おもむろにきゅうりをちくわの穴に通しながら、素手で持ってかじった。
「これはいい」
もぐもぐと食べながら、トトは頷く。
たかがちくわにきゅうりを差し込んだだけのものなのに、まるで居酒屋にでも来たような気分だ。ちくわが一品料理のように感じる。
「普段は、こういうお酒はあまり飲まないけど、今日は兄上もいることだし・・・」
ジュールは嫌味を言いながら、ちくわにマヨネーズをつけて頬張った。
「マヨネーズで食べるとサラダのような味がする!」
「えっ!私もやってみよう!」
こうして、ちくわパーティーは大成功をおさめた。
さまざまな味のちくわと爽やかな口当たりのお酒を楽しんだ二人。
すると、トトがおもむろに窓際に立った。
「今日はダンスを踊れないので、私が歌を歌います」
とろりとした目つきなので、少し酔っぱらっているらしい。
「なにを歌うのですか?」
「タイトルは”イルミーネの女(ひと)”」
「え??」
突然歌い始めたトトに合わせて、ジュールはギターで伴奏をつける。
イルミーネの女(ひと)とは、この国の人なら大体が知っているだろうという歌ではあったが・・・ジュールは・・・・兄が演歌が好きだとは知らなかった。
しかもかなり本気で歌っている。
こぶしをきかせるところは、変顔になっていたが、それだけ真剣ということだ。
いつしかジュールも本気で演奏していた。
「ありがとう、ありがとうございます!」
笑顔にうっすら涙まで浮かべて、トトは頭を下げた。
「意外な姿でした!」
ジュールはそう言いながらも、拍手を送る。
トトがイルミーネのど自慢に出演する日も近いかもしれない。
続いて、ジュールがギターを片手にノリのいいロックな音楽を奏で始めた。
「なにしろ、私の誕生日はロックな日なのです!」
「フーフーフー!!」
歩けないトトは椅子に座ったまま、上半身だけで踊りまくっている。
「これはたまらないねぇ!」
やがてトトがくたくたになった頃、演奏は終わった。
「はぁ!楽しい誕生日だ!」
「まったく」
二人は顔を見合わせて、お風呂に直行した。
二人とも汗だくだったのだ。
上機嫌のまま、笑いながらベッドに倒れこむ。
「うぉっう!!」
トトが悲鳴をあげた。
こむら返りの足が痛んだのだ。
「ああ、無理をしないようにしよう・・・」
それから、無理な行為はなかった・・・・・・。
(そのかわり、今までにないやり方で楽しんだ二人だった)
1週間後。
トトのこむら返りは嘘のようによくなった。
しかし、ジュール曰く「くせになっているのかもしれない」ということで、トトは無理な運動は禁止させられた。
「今度、また二人でお出かけしようよ」
「もう少ししてからのほうがいいよ。それと、歩きやすい靴で」
「うんうん。わかってるよ」
納得するように、指をからませる。
「ところで、誕生日の夜のあれは・・・よかったね」
「どこのどのへんのことを言っているのですか?」
ジュールが意地悪く笑みを浮かべる。
トトはぷぅと膨れて、
「このまま、こむら返りでもいいと思ったくらいだもん!」
と言い返した。もちろん、ジュールの返事はわかっていた。
「それじゃ、お出かけできないじゃないですか」
「そういうと思ったよ。でも、私はああいうのも好きなんだ」
「私は、ああいうのじゃないのも好きです」
「・・・・」
「・・・」
「じゃあ、お出かけした時は、ああいうのじゃないのをしよう」
「ええ。それにはあなたの回復が必要になりますね」
そういうと、ジュールはトトを抱え揚げて、ベッドに降ろした。
「もう寝なければ」
「ああいうのじゃないほうを楽しもうよ」
「・・・そうだね」
トトは”ああいうのじゃない”のがよっぽど気に入ったらしい。
ジュールは、なんともいえない笑みを浮かべていたが「これもいいか」と思って、トトをぎゅっと抱きしめた。
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ジュールさん誕生日おめでとう!!


