-イルミーネの国王6(本編第1章終了)-

イルミーネ国の物語

―秘密―

塔の城の、南側の一室。

木漏れ日が差し込むテラスに、一人の男が座っている。
キッチリと切りそろえられた童子形の髪…に見えて、後ろだけ伸ばした髪をみると成人なのだろうか。顔は幼いが、白く見えるプラチナブロンドのせいで、後ろから見ると老人のようにも見える。

「陛下がお亡くなりになってから早数ヶ月か…」

年齢不肖な男は、高級な薫り高い紅茶を飲みながら、テラスに入ってきたもう一人の男に声をかけた。

「それで、目当ては見つかったのか?」
「ああ、だが・・しかし確認できていない」
答えたのは、明るい金髪の若い男だ。
彼もまた上流の装いを身に着けていた。

「それらしい者はいたということだな」
フンと笑って、彼はカップを置いた。
「我ら、貴族のために相応しい王に立ってもらわないと、困るからな!」
相手の発言に、ククク・・と笑い声を立てる白い髪の青年。
「私は、真面目な話をしているのだぞ!アランソン!」
「そうか」
アランソンは相手の男を気にもとめない様子で、語り始めた。

「亡きマクシミリアン陛下のご子息…と言うのは本当かな?まぁ、我らにはどちらでもよいか。少なくとも、前国王の面影を呼び起こしてくれて、邪魔にならない程度の知能を持っていてくれればいい。余計な思想はいらない。扱いにくいからな。今の陛下のように」
「その点なら安心してくれ。奴は・・いや、あの方は、陛下の面影をよく受け継いでおられる。
私も驚いたくらいだ。本当によく似ている」

「それだけではない。文句を言わない口が必要なのだよ」
アランソンは自分の赤い唇を人差し指でスッとなぞりながら言った。
「まぁ、馬鹿には見えないが、何を考えているのか掴めない感じだった。遠目から見ただけだからな」

彼は、昨日見た美しい少年の姿を思い浮かべた。
庭でリュートを奏でる少年は、ふと見上げる動作や面差しが、亡きマクシミリアンによく似ていた。

「そんなに美しかったのか?」
彼がぎょっとして見ると、アランソンは人の心を見抜くような眼差しでこちらを向いて笑っていた。
「どうしてわかるんだ?」
「見ていれば・・」
「よいお人形にはなるだろうよ、そんなに美しいならばな」
「そ、そうだな」

アランソンは笑みを消し、男のほうを向いて言った。

「我らの目的は、我らの言うことだけを聞くからっぽの人形をいだくことだ。忘れるなよ、バルッサン。セバスチャン・デティオールやリーチェ公夫人などに気づかれぬよう動くことだ」
「わかっている。老いぼれや、王族至上主義の姥桜などに邪魔はさせない!」

「この国を真に動かしているのは我らの方だと、もうじきわかるだろう」
そう言って、アランソンは飲みかけの紅茶を飲み干した。


馬場に教育係の声が響く。
「馬の乗り方を学ばないとね」

爽やかに、笑顔で語る彼の正体は、人を殴ることを悦びとする変質者だ。

「馬には乗れません」
トトは答えた。

「乗り方を学べば、すぐに乗れるようになりますよ。国王陛下」
「乗り方なら知っている」
「なら、なぜ乗らないのですか?」
「嫌なのです」

教育係は、困ったようにリーチェ公夫人の方に向きかえった。

「乗馬は貴族としての嗜み。それができないとは認められませんよ」
リーチェ公夫人は言う。
「まぁ、陛下にはゆっくり覚えていただければ…・」
優しい口調で教育係は話した。
この男、リーチェ公夫人の前では決して本性を表さない。

トトはそっと白いポニーに近づいた。

今まで大好きだった乗馬の練習。
大好きだった白いポニー。

ごめんね。トトは、もうおまえに乗れないの。

母上を亡くしたあの日から…
おまえに乗ろうとすると、身体が動かなくなってしまうの。

ごめんね…おまえは何も悪くないのに…。

涙が出た。

その後、無理やり馬に乗せようとした教育係の前でトトはまたショック症状を起こし、彼の手で控えの間に運ばれた。

「まったく!なさけない王様だよ」
リーチェ公夫人がいなくなった今、彼は本性を表し
「消えちまえ」
吐き捨てるように言って、出て行った。

苦しい…。
やがて襲ってくる影の声。
「助けて・・」

-罪深きおまえ-
-救われやしないさ-
-親殺しの罪を贖うまで-
-地獄でもがき続けろ-

「誰か、誰か!殺して!」
自分の声が木霊のように、天井に広がった。

 神様がもし、私を哀れに思うのなら殺してください。今すぐに。
 なぜ殺してくれないのですか。
 罪を、生きて贖うまで生き続けろとおっしゃるのですか?
 どうして死を与えてくださらない。
 こんな屈辱に塗れた生を
 この世に存在する意味のない私を
 なぜ殺してくださらないのですか…。

祈りは、それから、ずっと一人ぼっちの夜に続けられた。


「おい、また陛下が倒れられたようだぞ!」
日の差すテラスに、若い男が荒々しく入ってきた。

「まだ・・死なれては困るのだがな・・」
人事のように、アランソンは答える。

「早く、あれを連れて来なくては、機を失うやもしれんぞ」
「そうだな、私は早速今日立つ。後は頼む」
「ああ、最高の演出を用意しておくよ」
「では…」
忙しなく出て行った男の背を見ながら、アランソンは不敵な笑みを浮かべた。
 


日々繰り返される、頭の痛みと影の声。

地獄だ…と思う。

死を願うときには、罪を思い出せと、影が囁く。

罪の中に生きようとすれば、現実に存在を否定される。

心に開いた底なし沼にもがいても、手を差し伸べてくれるものなどいない。

実際にいたとしても、拒否するだろう。

国王の子として、そのように生きてきたのだから。

トトの、霞む目の前に僅かに差す光は、自らが国王マクシミリアンの子であるという誇りだった。
いかなる屈辱を強いられても、親殺しの罪を背負っても。
王族であるということ、国王マクシミリアンの子であるということが、トトの心を救っていた。

だが、その光も、近づく運命の前に覆い隠される日が来るのを、まだ、トトは知らなかった。


男たちが、白い建物の前に来ると、入り口に一人老婆が立っている。
老婆は、男たちを招き入れると、一番奥の部屋へと導いた。

開かれる扉。

そこには、リュートを抱えた少年が一人、窓辺に座っていた。

「ジュール・アルキュード殿下」

名を呼ばれた少年は、男のほうに振り向いた。

じっと細められるアイスブルーの瞳。
人形のような白い肌。
鈍い光を放つ、金の髪。

「…お迎えに上がりました」

男の声に、少年はわずかに微笑んだ。

第1章終了。 


-第1章-終了の感想…

長かった・・。
こんな長い話書こうとしてたんだ、私!
これでもまだ、第1章だよ・・。

そして、やっとジュール登場!
BL要素あり。兄弟もの・・と表に書いてありながら、本編ではやっと彼がここで登場です。
第1章中、まだ誰もBLっぽくない・・すいません(^^ι)

もともと、この話はまったく違う話でした。
妖怪と人間のハーフ、シロウ君が一般高校生タロウ君を狙う・・というコメディホラーBLだった・・しかもマンガだった。おい、あまりに違うだろ!!と自分でも突っ込みを入れたくなるのですが、この時すでに主要キャラは出来ていました。シロウのお父さんがトトで、おじさんがジュールで・・ジュールおじさんはシロウに愛の手ほどきをした人ですが、シロウのタロウに対する気持ちを知って、協力する・・。なぜ、ジュールおじさんが、シロウからあっさり手を引いたのかというと、ジュールおじさんは、実は兄上トト様に報われない思いを抱えていたからです・・。しかも、この話ではトト(狼男なんですがι)は人間の女性を愛し、忘れられなかったのでジュールが入り込む隙なんてなかった・・。
そして、ジュールさんは欲求不満の末、サング(こちらは吸血鬼でした、ちなみにジュールさんも吸血鬼)
の息子に手を出します。なんて乱れた話でした・・。そのうち・・、悪戯で描いたジュー×トトが自分的に受けてしまい、タロウ側じゃなく、ジュール側の話を書いてみようと思ったのが、きっかけです。でも、初めは、ジュール完遂できず!で終わろうと思っていたのですが・・(汗)
そもそも、父上が母上を殺すところから話が始まり、トトは自分の狼の血に嫌悪感を抱き、暗く生きている・・そこに腹違いの弟が現れて…でもトトはどっかに家出して・・それで女性と恋に落ち…息子が生まれて生まれた息子を育てられないから、ジュールさんに預けて・・そしたら息子の前に敵が出てきて…・。
よく、少年漫画にある「主人公の父上秘話(!)」みたいな話。

この話では、マクシミリアン父上は完璧な男でした☆
へなちょこマックスの面影は微塵の欠片もありませんでした(笑)vジュールはもともと兄上好きだってけれど・・vそれが何時の日か、もう少し真面目な話をかいてみようか・・なんて思ったら自然にこんな話になってました。まぁ、前の話をひきずっているところもありますが・・。

それにしても、この話がこの形になってから10数年たっています。
なぜ書かなかったか、また書けなかったかは、全てジュールさんに原因がありますι
日記の制作秘話にちらりと書きましたが、見なかった方も多いと思うので
詳しくは第2章の最後に書こうと思います・・。

しかし、ジュールさんがいなければ、この話を書き始めなかったことも事実であり、いろいろ教えてもらった人物なので、今ではとても感謝してます☆自分的に第2章はジュール堪能編なので、書くのを楽しみにしています。

新たにいろんな人々も出てきちゃって、これからますますにぎやかになりそうな予感ですが
この先も読んでいただけたら光栄です。

ここまで、読んでくれてありがとうございました!!

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