そうして、どれくらい時間がたっただろう。
あいかわらず、トトは黙って壁の前に座っていたし、リヒャルトは立ったままだったが、やはり黙って壁の向こうを見つめていた。
もう悲鳴も聞こえない。
それでも信じ続ける。
あいつらが向こうから現れるのを。
・・・・・・・・・
「へぇ、やるじゃないか、おっさん!」
「おまえもな!ちびっ子!」
「二人とも~・・・素手で壁削るなんて、すごすぎるよ!僕の入れ歯たちもキミ達同様、ぼろぼろさ!」
RQとサングはお互いの泥だらけの顔とぼろぼろの手足を見て、ニンマリと笑いあった。
「この先にどんな奴が待っていても、これくらいじゃ参らないさっ!あいつと共闘できるんだぜ!」
「おう!最強の相手とハニーがダブルで待ってるんだ。こんなに萌えることってあるか!」
「僕もひさびさに兄さんの勇姿を見たいね!でも、そこには僕の秘密道具も一緒さ!」
もはや、3人の頭からはすっかりと宝物のことは抜け落ちていた・・・。
数分後。
「なんだこれ?」
サングの拳に、何か岩とは違うものが触れた。
RQもミラーもそれに気づいて、そこの部分を掘り返してみると・・・
「箱?」
両手にすっぽり入るくらいの古い箱が顔を覗かせている。
「なんだこれ?」
「これ引っこ抜けば、あっち側が見えるんじゃねぇか?」
RQとサングは力を合わせて、その箱を引っこ抜いた。
「よっしゃ!!」×2
箱は二人の手を離れてスポーン!と後ろ側へ飛んでいった。
「おっ!向こう側が見えるぞ!!」
「おーい!!」
「兄さん、にいさーん!!」
・・・・・・・・・
「声が聞こえた!」
トトが立ち上がって、背後の壁に顔を当てる。
「サン!」
「トト!ここだ!今から加勢に行くぞ!!」
ドカン!
凄まじい爆音とともに、トトの前の壁が打ち破られた。
サングが飛び込んできて、次にRQが、続いてミラーが。
「おおっ!MYハニー!!敵はどこだ!」
「敵とは?おまえこそ、敵と戦っていたのではないか?!」
リヒャルトのみならず、失礼ながら全員がそう思った・・。
またもRQは血まみれだったからだ。
「兄さん、兄さんの勇姿の隣に立つため、ミラー君勇ましく登場!!」
「無事だったのか、ミラー!!」
そして、全員が顔を見合わせた。
「敵は??」
・・・・・・・・・・・
結局。
幻の箱の中には何も入っていなかった。
いや、もしかして入っていたのかもしれないのだが、RQとサングが投げ捨てた時点で箱が開いてしまったのだ。
中身の行方は誰もしらない・・・。
あの後、リヒャルトはRQの胸倉を掴んで、ものすごい剣幕で怒り狂ったのだった。
「キサマは、勝手な行動ばかりして!!私がどんなに・・・っ」
そこでRQの頬に拳が入った。
続いて
「私より恐竜を選んだおまえのことなどっ!!」
ここでRQのみぞおちに一発膝蹴りが入り、RQは沈んだ。
「大人たちの痴話喧嘩か~。それよりも、おまえが強い奴と戦っていると思ってここまで来てやったんだぜ!」
とサング。
「私は、戦っていたさ。目に見えないものとね。そして、きみが来てくれるのを信じていた」
トトとサングの二人は、固く手を握り合った。
「結局、敵もいなかった。お宝もなかった・・・か」
「兄さん、敵もお宝もあったじゃない!」
ミラーの言葉にはいろいろ考えされられることが多いが、今回もそれだ。
でも、なんとなくオレにはわかった気がした。
オレたちは、何かと戦い、そして大切なものを手に入れたのだ。
きっと・・・。
「うーん、うん??」
瞼に透ける日光の眩しさを感じて、オレは瞳を開けた。
ここは?
「うわっ!」
鼻になにかの気配を感じて、振り払う。
虫か・・・。
なにがどうなっている?
上半身を起こして周りを見回すと、RQとミラーとリヒャルトが同じように倒れていた。
「おいっ!」
「あーん、なに兄さん?」
初めに気がついたのはミラー。寝ぼけたように瞼を擦りながら、ぼんやりと起き上がった。
「許さんぞ!!」
いきなり、リヒャルトが身体をまっすぐにしたまま、垂直に立ち上がった。
「う、うわーーー!!兄さん、キョンシーだぁ!!」
「懐かしいものを知ってなーミラー!って、これはどうなってんだ?」
RQがピンク色の頭髪をかきかき起き上がってくる。
「どうにもこうにも・・・、たしか幻の箱はここに・・・」
懐を探ると、入れたはずの箱がない。
「ない?!」
「どうやら、我々は幻覚を見ていたらしいな」
リヒャルトは、さらりとそう返した。
その時だった、ポケットに入れたタブレットが振動を起こしたのは。
「やぁ、皆。実はよいお知らせと悪いお知らせをしなければならなくなったよ」
ユウの声だ。
「まず、よいお知らせは例の依頼人の老人が現れて、”宝物を盗まれたのは勘違いだったので、もう依頼を取り下げる”ということ。悪いお知らせは・・・きみたちには申し訳ないけれど、依頼自体がなくなってしまったので、そのまま帰ってきてほしいってことだよ」
そこにいた全員が言葉もなかった。
じゃあ、オレたちは一体何のために??
そこで初めて気がついた。
あの二人がいないことに。
「あ、あの二人組みは?あの・・・あれ??名前が思い出せない」
「変だね、僕もなんだ。こう面白い子と一緒に宝探しをしていたような気がするんだけど」
「私もだ。その誰かは、私が会ったことのある人物によく似ていたような記憶があるのだが・・」
「オレは、覚えてるぜ・・でも秘密!」
最後のRQの発言に皆が注目した。
「なぜ、キサマだけ覚えているんだ!」
「嫉妬するなよ、リヒャルト。オレが覚えてるのは名前でも姿でもねぇ。あいつと一緒に戦った感触だけさ」
そう言って、肩をすくめるRQ。
結局、誰もあの少年たちを詳しく思い出せるものはいなかった。
そして、オレたちはミラーが直した飛行機に乗ってそれぞれの拠点へ帰っていった。
この不思議な話は、SSGのレポートにはこう書かれているそうだ。
「飛行機で起こった不慮の事故」
とだけ。
