-友達 7(本編最終章)-

イルミーネ国の物語

ーピエロー

トトは、自国の通りを歩いていた。
ただ、何も考えずに。
どうして、ここを歩いているのか、自分でもわからない。
心は虹のように7色に分かれたまま。

気が付くと、目の前から派手な色合いのピエロが歩いてきた。
顔は醜く、それでいて表情は明るく、なんとも不思議な存在感であった。
短く切った髪は、色以外トトに似ていた。
「何かあったんだね」
ピエロは、笑みを浮かべた口でそう聞いた。
「…もっと、何もなければいいのに」
「そうかい?」
その声は、見かけによらず繊細で静かで。

「友に去られて、愛する人にどう接していいかもわからない。私自身の心さえわからない。
ただ…もう…ただ疲れてしまって、隙間に落っこちてしまった。でも、私の心はまた勝手に動き出す。
私の人生はどうなるんだろう。それでも明日はやってくる」
「何も変わらない明日よりはいい。変化があるということは、生きているということだからね」
「心が痛くて、影がいくつも覆いかぶさってきて…平和も幸せもまったくここの世界には見えない!」

「いつか…その心の動きを幸せだったと思える日がくるよ」
ピエロは、それでも幸せそうに楽しそうに言った。
しかし、その潰れた片顔だけが笑っていた。
彼のまともに見える半分の顔は、孤独の影が差している。

「幸せなんか、全く見えない!私の魂の片割れは、私の元を去っていった。愛する人は、愛することに深い傷を負っていて、私との将来は見えない。私のどこが幸せなのかい?!」
「魂を共有している友の顔を君が覚えているうちは、愛する人を愛しているうちは…」
「ピエロに私の気持ちなんかわかるわけない!」

すると、ピエロは、トトの前から一歩遠ざかった。

「どうして、私はきみの前に現れたんだろう?イルミーネの国王。これも世界が決めたことなんだね」
「あなたは何者なの?」
「私は、魔法人。人の生命の輪を外れて、運命を動かす者。私は存在が続く限り、先に進もうという心を持ち続ける限り、永遠の旅を続ける者。愛する人もいない。友の顔も忘れた。だが、この旅はまだ終わらせない」
「あなたは、まだ生きていたいの?誰もまわりにいなくても?たどり着く先がどこだかわからなくても?」

「再び人生というものに目覚めない限り、旅は続く。決して降りられない旅が」

この醜く奇妙なピエロは、満たされているようだった。
それは、トトがいつも求めていた平安に満ちた日常のように。
だが、どこか、人間らしさに欠けている。
苦悩さえ飲み込む能力を感じるからか。

「きみは、私のような魔法人になりたいかい?」
「ああ。なりたい。あなたのような生き方になりたい!もう何もいらない。何も見たくない!」

すると、ピエロはほぉっとため息をついた。

「私も昔は、そう思っていた。その苦しみ、嘆き、悲しさが今では懐かしい…」
「どうして?」
「私は自由だ。心を何者にもとらわれることもない。どの人間の運命に対しても優位に立ち続ける。これが”人の運命を変えることができるが、自らは運命の輪から外れる”という魔法人の生き方。私はそれを選択した。だから、この生き方を否定はしない。しかし、きみのように幸せを求めている人を見ると、昔に戻れない事実に気が付かされる」
「私が…」

”幸せを求めている?”

すべて、すべて、捨ててしまいたいのに。
もう、この世界に生きている意味も感じなくなってしまったのに。

「友達とまた会うのも、誰かと結ばれるのも、すべてきみが望んでいることだ」

どういうわけか、トトは声をあげて泣いていた。

「逃げるな。まだ間に合う。私のようになるには、もっとずっと先でいいんだ」

トトは、息苦しさで目覚めた。
しゃっくりをあげて泣いていた。
頭が痛い。
長い長い夢を見ていたような気がする。

「兄上」
上を見上げると、ジュールが心配そうな顔でこちらを見下ろしていた。

「変な夢を見ていたんだ」
「そうなのですか…」

突然、トトの耳にはっきりとした声が入ってきた。

ー今のきみを生きるんだー

「あ・・?」
「今日のあなたはどなたですか?」
ジュールに投げかけられた質問に、戸惑うトト。

「魔法人って知っているかい?」
「は?魔法ですか?」

ジュールが奇妙な顔をする。

「はは・・なんでもないよ」

トトの頭に、ぼんやりとだが、今までの記憶がよみがえってきた。
悪夢のような精神分裂の記憶。

だが、なぜか今日は頭の中から何も聞こえない。
ただ、睡眠薬を飲みすぎた朝のように頭が重く、痛むのだった。

「今日は、晴れているのだね」
「そのようです」

ああ…。

窓から瞳に映る大空。

トトの中に、失ったものが蘇ってきた。
父上、母上も…。謀反を起こして死んでいった臣下たち。
…誰もこの日のこの空を見ることはなかった。

私は、今日この太陽を、空を見ることができる。

まだ命も心も残っている。

命を分かち合った友サング。不思議な縁で出会ったジュール。
どちらも大切な存在だ。
誰も失わないこと。
できるだろうか。
私が今したい、今しなければならない、望みのために目の前に立ちはだかる壁を乗り越える。

それが生きるということ。

誰の人生でもない。
今の私を生きるということ。
この苦しみも悲しさも。
私が生きている証。

「私は、まだ終われない!」

続く

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