-こじらせさん-

宇宙人1/2

事の始まりは、RQの余計な一言だった。


・・・・

「またもや、余計な一言とは・・ね」

呆れかえったような顔で、占い師兎兎が醒めた視線を相談者にむける。

「あいつが何を考えているのか、さっぱりわからん!それは前からなのだが・・」

相談者リヒャルトが、事の他、深刻な表情で言うものだがら、兎兎は心の中でため息をついた。

ーきみたちのそれは、いつも痴話喧嘩という種類のものなんだけどね・・・ー

それにしても、毎度毎度同じような喧嘩をしていて、この二人は気づかないのだろうか。
始まりはいつも、RQの余計な一言から始まって、それをリヒャルトが消化できずに問題になるのだ。

「我々は、もう・・・ダメなのだろうか・・・」

ーそんな顔は、あなたのパートナーに向けてください・・・ー

「ふぅ~~」

心の底からショックを受けているらしいリヒャルトを前に、兎兎のため息はとまらない。
兎兎は、タロットを取り出した。

「大丈夫、いいカードが出ているよ。すべては自分次第ってね」
「そうか・・・」

リヒャルトは、少しばかり安堵したようだ。

ーここに来る人は・・・特にこの人は占いなんか信じてないけど、ようするに話を聞いてもらいたいだけなんだよね・・・ー

部屋の扉を開けると、そこには運悪くRQがいた。

「なんだ」
「なんでもねぇよ」

二人の間には、見えざる諍いの炎が渦巻いている。
兎兎は

「頼むから、ここから離れたところでやっておくれよね・・・営業妨害なんだよ」

と言い、ドアの前の札を「営業中」から、こっそりと「お昼寝中」に変えた。
もう、今日は疲れてしまったのだ。

・・・・・・・・

「それで、占いでいい結果がでたのかよ?」
「貴様に言うことではない」

なんだかんだ言っても、RQとリヒャルトは並んで歩いていた。

「昨日のこと、まだ怒ってんのか?」
「怒ってなどいない。ただ、貴様をどう目の前から消そうかと考えている!」
「なんだよ、言いたいことがあるなら、言えばいいのに・・・」
「言いたいことなら、もう昨日言った!」
「あんたは、あれを気にしているんだろ、あの~『オレ以外の男に興味あるのか?』てやつ」
「!!」

見えない速さで、リヒャルトの踵がRQの股間にヒットした。

「~~~っ!!」
「もがけ、苦しめ!貴様はいつまでもそうしていればいい!」
「り、りひゃ・・・」

うずくまったRQに捨て台詞を吐いて、リヒャルトは去っていった。

・・・・

そうして、占い部屋のほうへ逆戻りしたRQは、股間を氷で冷やしていた。

「もう、やめてよ~、そんな用でここにくるなんてさ」
「緊急事態だぞ!」
「だったら、医務室に行ってくれないかな」
「ここから医務室までどれだけあると思ってんだ」

あーあ、と兎兎はため息をついた。
RQの股間を冷やしている氷は、今まさに兎兎がアイスココアに入れようとしていたものだからだ。

「ややっ、不審な間男がいます」

そこへ、機械部長の潤一がひょっこりと顔を出す。
潤一は兎兎の異母弟であり、恋人でもある。

「まぁ、あなたでは兄上の相手は務まりませんがね」
「素敵な褒め言葉をありがとう、潤一」

苦しそうにRQは言った。

「それにしても、なんですか、その姿は・・・」
「情けないんだよ」

兎兎が一部始終を説明すると、潤一は至極真面目な表情で、

「ここではなく、医務室に行ったほうがいい。下手をしたら使い物にならなくなりますよ。それだけが自慢のあなたではないでしょうが、処置は早いほうがいい」

嫌味か心配かわからない発言をした。

「もう大丈夫だ」
「念のために、医務室にいったほうがいい。それとこの件は・・・」

どうにか普段どおりの姿で、部屋を出て行こうとするRQを潤一が呼び止める。

「内密にするつもりですが、必要になったら使わせてもらいます」

潤一のアイスブルーの瞳がキラリと光る。
いくつもの他人の弱みを握っている潤一らしかった。

「ゲッ!!・・・ま、いいさ。オレはオープンマインドだからな」

部屋を出たRQは、ピンク色の髪を結びなおした。
たぶん、リヒャルトはトレーニング場に行っているのだろう。
こうなったら、面と向かって話すしかない。

ー別にたいした意味があったわけじゃねぇ・・・ただ・・・ー

ところが、トレーニング場についたRQを待っていたのは、バーベルの攻撃だった。

「バーベルはそうやって使うもんじゃねぇだろ!!」
「どのようなものでも武器として使用する柔軟性は大切だ、特に貴様相手にはな!」

50キロを越えるバーベルを軽々とぶん回すリヒャルトの腕力も相当なものだったが、追い詰められることもなく上手に逃げるRQの運動能力もたいしたものだ。
まわりにいるSSGの隊員たちは、呆れながら感心しながら、二人を見守っていた。

「これってトレーニングじゃなくて、真面目な戦闘訓練!!」
「そう、どんな時でも私は真剣に取り組んでいるのに、おまえは、おまえという奴はっ!」
「真剣はいいけど、バーベルの用途が違う!!」

RQはとうとうトレーニング場から脱出した。
それを追ってリヒャルトも行こうとするが、バーベルは戻そうと思ったのだろう。
その場に丁寧に置いて・・・猛ダッシュでRQを追っていった。
そうして、二人が消えていったトレーニング場には静寂が戻った。

・・・・・

「ニャ~ン」

リヒャルトの飼い猫アポロが見守る中、リヒャルトの自室で激しく危険な痴話喧嘩は続いていた。

「どうして、そんなにいつまでもプリプリ怒ってんだよ!オレの言った事にそうたいした意味は・・・」
「おまえにとって無意味な言葉でも、おまえという人間を知るには十分すぎる言葉だった!」
「その・・・あんたが」
「おまえは、私よりも多くの人間と肉体関係を持っているのだろう!私もそうだと思ったのか」
「そんなこと言ってねぇだろ!!他の男に興味ある?って聞いただけじゃねぇか!」
「他の男の”身体”にだ!勝手に省略するな!」

二人のバトルの炎がメラメラと燃え盛る最中、アポロは眠そうにあくびをして、どうということはないような素振りで、二人の間を通過する。
二人のバトルは見飽きているとでも言いたいようだった。

「たしかに、そうだったかもしれねぇが、たいした違いじゃない」
「たいした違いじゃないだと・・・では、おまえは私以外の男の身体に興味があるのだな」
「むむ・・・どうしてそうなるんだよ?」
「それを知ってなお、私が平気でいてもいいと言うんだな」
「ちょっと、待ってくれ!頭が混乱してきた・・・」

RQが頭を抱えて唸っている間、リヒャルトはため息をついて、ゆっくりとRQに近づき

バシッ!!

「いてっ!」

平手がRQの右頬に炸裂した。
思ったより痛くなかったが、下から覗き込んでくる大きなグレーの瞳の視線が痛かった。

「もし・・・私がおまえの問いにYESと答えていても、おまえは平気なのだろう」
「そんなわけ・・・」
「では、なぜ聞くんだ?どうして、あの間に・・・」

それは・・・
快楽の波に揉まれているリヒャルトが・・・

「オレだけの手で、身体で、感じているって、絶対にそう思いたかったからだ」
「・・・っ」
「そりゃ・・・まぁ、少しはふざけて聞いたけどさ・・・」
「私は・・・真面目におまえと・・しているんだぞ・・・」
「は?」
「そうと決めたら、恥ずかしくても・・・ちゃんと最後まで・・・しないといけないって・・・」
「はぁ??」

・・・・・・


「まったく、ああいうのを中二病というのです」
「それはどちらのことだい?」

占い部屋で兎兎と潤一は紅茶を飲んでいた。
もうアイスココアは飲む気にならなかったのだ。

「RQですよ。わざと相手が怒るようなことをして楽しんでいる」
「わざと??ん~、そういうところもあるけど、あんまり考えてないんだよ」

兎兎は、スプーンにのせた角砂糖を一つ沈めた。

「それよりも、リヒャルトのほうが・・・あれはこじらせ女子というんだよ」
「この場合、女子じゃないから”こじらせさん”というのが適当でしょう」
「まぁ、いいや。こじらせさんの場合、恋愛経験が少ないから、相手の言ったこととか納得ができるまでごちゃごちゃしちゃう。主に真面目すぎる人に多いんだけどね」
「たしか、兄上はあのお二人のなれ初めを見た時、恋に落ちているのは長官のほうだとおっしゃっていましたね」

「なつかしいね」

兎兎は、ほぉ・・と宙を見据えた。

「今では、二人ともいい勝負だけど、最初の頃は明らかにリヒャルトのほうが夢中だったよ。あの人は、自分でわかっているかどうか知らないけど、RQよりも独占欲も嫉妬心も強いから・・・」


・・・・・


「いつまで、そうして目を丸くしているんだ・・」
「い、いや、驚いただけ・・・」

RQは、少しのけぞった。

ーまさか、リヒャルトの口からそんなこと聞くなんて・・・ー

「にゃ・・・」

二人が足元を見ると、いつの間にかアポロが二人の間で寝ている。

「これじゃ、バトルはできないな・・・」
「ああ」

「私から目をそらすな!」
「わかってるって・・・ただ、ちょっと・・・」
「おまえは、私以外も多く知っているから、私などには飽きたのだろう。だから・・・」
「そんなわけ・・・ないっていうか、オレがあんたが大好きだって、どうしてわからないんだ!」
「わかって・・・やるもんか、あんなこと言って・・・」

ーリヒャルトの中で、何かがこじれてる・・・ー

「それじゃ、オレが、あんたの思うように”たくさんの経験の中から、今だけリヒャルトにちょっと興味持って、あんたもオレ以外の男に興味もってても平気で笑顔を見せられる奴”だったら・・どうすんだよ!!ぜーはー・・・なんだかわかんないけど、言い切ったぜ!」
「!!」

ところが、意味のわからない台詞に息切れしているRQが見たものは、不安げに揺れる大きなグレーの一つだけの瞳だった。

「・・・や・・・だ・・・」
「リヒャルト」
「くっ!」

リヒャルトの鉄拳が頬に届くまでに、RQの掌がそれを受け止めた。

「ほんとに好きじゃない相手の鉄拳を、こうもいつも受け止められるもんじゃねぇよ」
「おまえは、いつも私を混乱させることばかり言うからっ!」

指を伝う生暖かい感触に、リヒャルトは手を引こうとした。
しかし、RQの手がそれを許さなかった。

「この指先まで、全部あんたを奪いたい。オレの前に立つ人間の中で、この世の中で、あんたを超えるものはない」

自分のほうへ引き寄せたリヒャルトの指先に、触れるか触れないかの口付けをする。

「やっ・・・」

ぞくりと背筋を駆け上がるものに、リヒャルトは震えた。

「勘違いするな。あの時の言葉は、リヒャルトがオレ以外の奴にそういう顔を見せたら、オレ自身がどうなっちまうかわからないってことさ」
「あ・・・」

そうして、リヒャルトの腕を無理やり引き寄せて、身体の中にすっぽりと収めてしまった。

「今の言葉が信じられないなら、あんたの身体の奥に真実を叩き込んでやる」



・・・・・・・・



「ーーーーって、もう、そりゃこれ以上危険な賭けはなかった!」

次の日、占い部屋にRQはいた。

「だってさ、昨日はあそこ強打して、バーベルで攻撃食らって肋骨と腕の骨にヒビが入ってて」
「その状態で・・・よくもそんな危険な賭けに出たね」

兎兎も、思わずぎょっとして、つぶらな瞳をしぱしぱさせた。

「なんとか話の方向を強引に違う方向へずらしつつ、中央突破を図ってみた・・・」
「きみの言う中央突破って、すんごくやらしいんだけど、まぁ無事でよかった」
「使い物になったようで私も安心しました」

「潤一・・・、おまえに心配されたくねぇ!」

またもやひょっこりと姿を現した潤一。

「なにはともあれ、リヒャルトが言わんとしているところがきみにも理解できてよかった」
「へ??・・・いや、いまいち理解できてないんだが・・・」
「きみは、馬鹿かい!!それじゃなんにもならないんだよっ!!」

「RQ、ちょっといいですか?」

部屋の奥で、潤一がRQを呼んでいる。

「あー、ジュージュ。ちゃんと説明してあげてよ。もー」

そうして潤一が奥の部屋に通じるドアを閉めると、すぐに占い部屋のドアが開いて黒い人影が入ってきた。

「ややっ、これはこれは・・・ちょうどいい」
「なにがだ?」
「なんでもないよ」

入ってきたリヒャルトを、少々わざとらしく迎える兎兎。

ソファに座るなり、リヒャルトは下を向いて話だした。

「ここは、秘密厳守だったな・・」
「そうだよ」
「実は、昨日話していたことなのだが、・・・結果だけ言ってしまえば、奴に中央突破を計られた気がしないでもない」

ドン!

奥の部屋から、大きな音がした。

「そこに誰かいるのか?」
「あ、ジュージュがね。でも大丈夫。ここの声は聞こえていないから、続きをどうぞ」
「ああ」

一息ついて、リヒャルトは口を開いた。

「奴は・・私と一緒にいるときに、時折他人の話題を入れようとする。そのたびに私は試されているのか、それとも私が嫌なのかと不安になる。あいつは、私などよりもずっとずっと人の間をかいくぐって生きていくのがうまい。そんなあいつにとって、私のような人間などつまらないものに映るのではと。私は、本当の私は、誰よりも自分に自信がない。情けない人間だ」

「自信なんて・・・なくてもいいんだよ。そんなふうに自分がわかっているリヒャルトだから、RQの素敵なところに気づけたんでしょ。自分の持ってないものを持っている相手って、誰よりも輝いてみえるものだからね」

リヒャルトの顔に笑みが浮かんだ。
情けないほど幸せそうな表情で。

「RQはたぶん、きみよりもずっとロマンチックな夢を見ている人なんだよ。ある意味で」
「私には、いつもそれが理解できない。パートナーとして真剣に向き合っているつもりなのに」
「まぁ、RQだって真剣なんだけどね・・・。そういう凸凹ぶりが面白いんだけどね」
「こう毎回面白くては、おまえにも迷惑をかけてしまうし、いつか崩れてしまうのではと・・・」

リヒャルトは苦笑いを浮かべた。

「それでも、まだ一度も崩れたことがない。だってね。私がいつもここで聞く話は・・・、綱引き競争みたいだから」
「?」
「どっちがより好きかを競い合っているみたいだから」
「そんなことは・・・っ」

あわてて赤面した顔を隠して、リヒャルトは立ち上がった。

「いつだってリヒャルトは真剣な恋人同士になりたいんでしょ。そう伝えればいいのに」
「まだ・・、言えない・・・うんんん、たぶん・・・いや、どうして・・」

ぶつくさ独り言を呟きながら、「失礼するっ」とリヒャルトは部屋を飛び出していった。


・・・・・・


「おや、RQ。今の聞こえてしまったかい?」
「ああ」

どこか呆然と立ちすくんでいるRQの背中を潤一が押す。

「ここにいられても困るんですけど」
「だからって、今すぐにリヒャルトのところへはいかないぜ」

その顔に笑みが浮かんでいるのを見て、兎兎は首をかしげた。

「珍しくジュージュが気を利かせたと思ったのにぃ~これは面白いよ」
「ああ、ありがとうな潤一。でも、まだ行かない。もう少し、心が整理できたらその時は」
「で、RQはリヒャルトの言わんとしていることがわかったの?」

「なんていうか・・・別にあの件はもうどうでもいいんだ。オレ自身の心を変えないとさ」
「ほぉ」
「今まで、オレはリヒャルトを手の届かないものだと思っていたのかもしれない。こいつがオレと一緒にいる、腕の中にいるってことが、心の底から嬉しかった。満足して有頂天になっていろいろ見失ってしまうほど」
「大好き・・・なんだよね!」

兎兎は、とても嬉しそうな顔で笑った。その気持ちが伝わってくるような雰囲気をRQは素直に出せるのだ。だから、リヒャルトが素直になれないともいうのだが。

「大好き・・・大好きだから。目の前のリヒャルトがちゃんと見えなくなっちまった。あいつの悪いところ、自信がない部分も。リヒャルトはずっとずっと前から、オレに真っ直ぐ向き合っていてくれたのに。これからは、あいつを全部受け入れたい。今度見失うのは、オレ自身かもしれない。でもたとえ、あいつを愛しているって気持ちしか残らなくても・・・それでも隣にいられるのなら、それでいい」

「あなたにしては、上出来な心構えだ」
潤一が、背後から顔を覗かせる。

「おまえに褒められてもそう嬉しくないんだがな!」

・・・・・・・・・

RQが去っていった占い部屋で、兎兎はお雑煮というものを作ろうとしていた。

「よく考えたら、もう新年なんだよ」
「兄上、出汁のとり方はわかっていますか?」
「わかっているよぉ~私だって去年とは違うんだ。人は進化する生き物だよ!」
「そうそう、先ほどRQとリヒャルトの件で、人間関係も進化するっておっしゃっていましたね。では、私は今までのように手伝わず、そばで見守ることにします」
「えーーー!!だめだよぉ。私、ねぎが切れないんだもん!」

「・・・進化してください、兄上」

そうして、兎兎は無事にお雑煮が作れたとか・・・。

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