「・・・」
「・・・」
ジュールが部屋に帰った時、トトが椅子に座って何かをしていた。
「何をしているんですか?兄上??」
「これが解けないんだよっ!」
トトは、手元の金属をカシャカシャといじっている。
「何かと思ったら、知恵の輪?」
「まるで、私に攻略してほしいような風情で、ここに置いてあったから」
「それは、私が知り合いから借りたものですよ。レベル1のとても簡単なものらしいので、10分くらいで解けましたが」
「なぬっ!!」
トトは顔色を変えて、それをひっくり返したり、微妙に動かしたりした。
-それから10分後…
「兄上…力任せはいけません」
「ぐぬおおおおおおお!!」
トトは、呆れかえるジュールをよそに、知恵の輪を引きちぎる作戦に出ていた。
…というより、もう辛抱ができなくなったらしい。
「こんなもの取れてしまえばいいんだ!!」
「スマートなやり方をしましょう。知恵の輪の存在意義がないじゃないか」
ジュールはクールに意見を述べた。
さすがに金属は引きちぎれなかったらしく、トトは知恵の輪をほおり投げた。
「もう違う事して遊ぶからいいもん!」
「ククク…それレベル1ですよ」
「もうやらないから!!」
そして、次の日。
「ぬ!ぬ!」
「またやっているんですか?」
ジュールはまた知恵の輪と格闘しているトトの姿を見た。
「これは簡単そうだからね!」
「それはレベル3です。まぁ、あきらめずがんばって下さいね」
そして、数分後。
「うぉぉぉぉ!!!」
「だから、力任せはダメだって…」
まったく進歩の見られないトトに、ジュールは苦笑しつつ顔を覆った。
「兄上は意外と負けず嫌いだからなぁ」
「むむむ…」
トトは、数日に渡って毎日違う知恵の輪に挑戦していたが、結局何一つ解けなかった。
「頭を使うんだよ」
「だって、ジュージュはそんなに頭を使ってなさそうなのに解けるじゃん!」
「極めて簡単そうに外すところが腕の見せ所!」
「ううう」
悔しそうな顔を見せつつも、また新たな挑戦をしようとするトトを見て、ジュールは「本当に負けず嫌いだなぁ」と呟いた。
バストール国王サングがやってきたのは、そんな頃だった。
親友のトトが知恵の輪に立ち向かっているのを見ると、サングは
「そんなのつまんねぇ!」
と吐き捨てるように言い、トトを指相撲を誘った。
「どうせ、指先使うならこのほうがいいだろ?」
かくして二人は、お互いの手を握りあった。
「手加減なしだ!」
「ああ、久しぶりで血が騒ぐよ!」
ところで、バストール国王に付き従っていた侍従は、急いでアルキュード公ジュールを呼ぶようにと召使に知らせた。
この二人を止められる者は、身分的にも性格的にも彼しかいない。
そう、昔からサングに仕えていた彼は知っていたのだ。
バストール国王とイルミーネ国王が、「指相撲」に関してある協定を定めている事を。
そして、その結果がとんでもない事態を招く事を。
「とりゃー!!」
「ふん!!」
侍従が事態を恐れ、ビクビクとしているのも気にせず、二人は真剣勝負にはいっていた。
どちらも、親指を鋭く狙う。
身体全体を動かして。
「指相撲協定-サングとトトのお約束」
その1、テーブルに肘を付いて行うというやり方を認めない。
ガツン!
トトの身体がテーブルにぶち当たる。
「くっ!」
衝撃でテーブルの上に乗っていた花瓶が落ちて割れた。
飛び散る赤い花弁。
さらにサングはトトを振りまわす。
二人の親指の動きは、常人には見えないほどスピードを増していた。
シュッシュッと空を切る音だけが聞こえる。
ガシャン!ガシャン!
二人のために用意されたティーセットが、高い音をたてて惜しみなく割れる。
トトは身体を窓辺に押さえつけられた。
「さぁ、もうオシマイだ!」
「何をっ!」
トトの親指が信じられない方向からサングの親指を襲った。
「くそっーーーーー!!!」
トトの親指がサングの親指を捉えた。
親指を押さえつけられたサングは奇声を上げながら暴れまくる。
「1・2・3・4・5…」
「指相撲協定-サングとトトのお約束」
その2、10秒数えるところは普通と同じ。
「ふざけーーー!!」
サングの左拳がトトの顔面を捉えた。
「ぐふっ!」
トトの顔が衝撃に歪む。
間を置かずして、トトの顎先にサングの頭が迫った。
「ちっ!」
トトは身を翻す。
間一髪、「マントマン」サング最強の頭突きは避けられたようだ。
その隙を見て、トトの蹴りがサングの脇腹に入った。
「ぐはっ!」
「陛下たちをお止めしなければっ!!」
周りにいる者たちは大慌てで、騒ぎ始めた。
だが…
「誰が、一体あの間に入るというのだ…」
二人の国王は、目にも留まらぬスピードで攻撃を出していた。
それも、あいかわらず指相撲を続けながら。
下手に手出しをできない。
そして、サングの性格を知っている者なら、こういう状況で邪魔を入れられる事が、どんなに国王の不興を買うかをよく知っていた。
「アルキュード公はまだか?」
…こうなる事は予想できていたが…。
サングの侍従は、もう一度召使に聞いた。
なるべくなら、手遅れにならないうちに来てもらいたいものだ。
「指相撲協定-サングとトトのお約束」
その3、指相撲を行っている手以外への攻撃はどんな攻撃も認める。
「一体、何事ですか?」
火急の呼び出しを受けたアルキュード公ジュールがその部屋に入ってきたのは、部屋の大部分が破壊された後。
呆然とする人々の視線の中で、二人の国王は戦っていた。
二人とも髪は乱れ、涙と鼻血と荒い息、血反吐を吐き、まるでお互いしか見えていないようだった。
「あ、兄上っ!」
ジュールの叫びが合図になったのだろうか。
「がっ!」
「ぐっ!」

お互いの左ストレートがもろに決まって…二人は倒れた。
それでも指相撲の手を離さないところはさすがというべきだろう。
「お目覚めですか」
「・・・う」
トトは目を覚ました。
気絶していたようだ。
鼻がヒリヒリとする。
顔面中が痛い。
「兄上…」
ジュールが心配そうに覗き込んでいる。
「なんでこんな馬鹿な真似をなさったのです」
「勝負だからね」
トトは答えた。
「あんな馬鹿と勝負なんてしないでください」
「男と男の意地と誇りをかけた一番だったんだよ。今回は引き分けか…残念」
どこか嬉しそうにそう言うトトに呆れながら、ジュールは「あの馬鹿は自国に連行されました」と語った。
「はぁ~負けず嫌いもほどほどにしないとね」
しばらくして、トトは鏡に映った自分の顔を見ながら言った。
「本当ですよ」
青あざだらけのトトは、数日間王宮の奥に隠された。
国王暗殺未遂事件の疑いを持たれないようにするためである。
「つまらない…」
「自業自得です。おとなしくしていなさい」
あれから事あるごとに、ジュールに注意をされてトトは不機嫌そうだ。
一方、バストール国では国王はそのままの顔で、あちこちを歩き回り「名誉の傷痕」だと言いまわっていた。
サングの妻のジュリエットはそんな夫の姿を見ると、呼び止めて注意を促した。
「皆が驚いています。あなたの武勇伝は証拠を見せなくても、皆が知っているのだから…」
「そりゃそうだ!」
叫んだサングの顔を見て、また女官が気絶した。
「ありゃありゃ…」
「さぁ、お部屋に戻りましょう」
ホラー小説の登場人物のようなボコボコ顔のサングを連れて、ジュリエットは部屋に戻った。
そして、ニッコリと笑い、言った。
「1週間くらい謹慎ですわよvオイタのしすぎ」
「ええっ~~~トトと遊びたいなぁ~」
「ダメです」
「・・・ううう」
負けず嫌いのトトとサングだったが、お互いの伴侶には頭が上がらなかった。
END

