-こまる-

イルミーネ国の物語

「ねぇ、ジュージュ。もしエロ本が読めなくなったらどうする?」

「な、なにを…」
突然、投げかけられた質問にジュールは、目を見開いた。
しかも、ここはベッドの中だ。
ムード…という言葉がジュールの中でガラガラと崩れ始める。
トトは、人のムードを壊す名人…いや、もはや達人の域だ。(それでいて、自分のペースに人を巻き込むのは得意だ)
ジュールが返事に困っていると、トトは枕の下に頭を差し入れ、唸った。
「私にとっても、ジュージュにとってもエロ本は大事だよね?そうだよね?」
「私にはエロ本より大切なものがあります!」
ここで真面目に答えてしまうところ、ジュールはトトのペースに乗せられつつあった。

あいかわらずトトは、枕の下から話しはじめた。
「私が酔って帰ってきた夜を覚えている?」
「さぁ、いつの夜ですか?」
トトが酔って私室に帰るのは…日常の事だ。
「一週間ほど前に」
「あ、ああ」
そういえばそんな事があったかもしれない。
ジュールは、やる気がなさそうな顔で考えるふりをした。
「あの夜、私はふらりと街に降りた。夜の冒険に出発したわけだよ!」
「そんなことしちゃダメって言ってるのに!何度言ったらあなたという人はっ!」
ジュールは目の色を変えた。
兄の無謀で危険な行動は、いつも彼の心を寒からしめるのだ。
ただでさえ、危なっかしいのに!
と、ジュールは叫んだ。

だが、トトはそれを無視して
「かなり恥ずかしい行動を…」
と言ったっきり、しばらく黙った。
ジュールが、枕の下で兄が窒息しているのではないかと心配になり始めた頃、またトトは口を開いた。

「夜でもやっているお店で、エロ本を購入しようとしたんだよ…すると、残念なことにお財布の中に
お金がないじゃないか!あわてて、私は持っていた小切手を出したら・・・・・・・・
・・・・・
・・・・・
使えないって・・・・・」

「ぷっ!」
「私は、人生の中でもっとも恥ずかしい事をしてしまったんだよ!」
トトはそれからも唸っていたが、やがて枕から顔を出した。

「さらに、昨日はリーチェ公夫人にエロ本が発見されてしまったんだ…」
「なんですと!」

ジュールも、それにはさすがに顔色を変えた。
リーチェ公夫人というのは、トトの父の伯母でとてつもない堅物だ。
結構な歳だが元気で、日々、国王たるトトを素晴らしい国王にしようと口出しを惜しまない。
当然、リーチェ公夫人はトトの跡継ぎも欲しがっているわけで、何度か見合いの話を持ってきた。
そのたび、トトは断り続けている。

一つは、トトは同性愛者であるという理由。
もう一つは、ジュールという恋人がいるからだ。

もちろん、その両方とも夫人の知りえぬ事実だった。
もし、これが公になったら…
最悪の場合、トトはその地位を失うかもしれない。
同時に酷いスキャンダルに巻き込まれるだろう。

「それで、なんと言って答えたのです?」
ジュールは冷静に聞いた。
「下着のカタログだと言ったんだよ。私はそういう時のために過激なものは極力さけるように
しているんだ。それでも過激なものはレオーネに預かってもらっている」

トトの従兄妹のレオーネも同性愛者だが、こちらはどうしようも隠しようがなく、なんとなく公になっている。
それを認めないのは彼女の母親だけだ。
たしかにレオーネ宅で、男向けの男の雑誌が見つかっても、どうということはなさそうだが…。

「こういうところでも気を使わなきゃいけないのは、本当に困るよ」
「今度から見つからないように…」
ジュールはそれだけを言った。
兄のためなら、世界中を敵に回してもかまわないと思っている彼だが、わざわざ敵を自分から作る事
はないという考えだった。

「イルミーネが、もっと普通に愛し合える国になればいいのにね」
「そうだね」
最近トトは、遠くの国でおこなわれている同性同士の結婚に興味を抱いている。
少しずつ…少しずつでも、人々が自由に愛し合える世界を作りたいというのは、ジュールも一緒だった。

「ところで、私は本の一冊からでも小切手で買えるようにしたいのだけど…」
トトが眉を顰めながら大真面目な顔で言うものだから、ジュールは笑い出した。
「あなたの失敗は失敗で、拭う必要はないと思いますが?」
「むむっ・・」

「ところで、私は雑誌じゃなくて目の前のあなたが見たい」
「やめておくれよ~、私は恥ずかしさでいっぱいなんだ~。ほら、全身から満ち溢れている!」
そう言い、トトは勢いよくパジャマを脱ぎ捨てた。

「全然、恥ずかしがってないよ~!!」
ジュールは、また笑いながら、トトに優しいキスをした。

いつか、誰もが自由に恋人と過ごせる世界になるように…。

END

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