-ある夜の偶然-

イルミーネ国の物語

それは、とてもとても暑いある日の夜。

バストール国、西の市場、時刻は11:00をまわるところだった。

「ががっ!!」
たまにしか来ない迷惑な客が、一人。
顔見知りの付き添いとともに店を出た。

・・・正確には、追い出された。

「・・・・」
連れ出したほうは、いつも通りの冷静極まりない顔で、周囲10mに殺気を飛ばしまくっている。
「ゲフゲフ…」
連れ出されたほうは、いつもにも増して大きな口をあけ、ニヤつきながら腕を振り回している。

「いつか前にも、こういう事があった気がする…」
彫像のような表情のジュール・アルキュード公は、この連れ(連れだったつもりはないが)を、
どこかに捨てようと思っていた。
少し先にちょうどよくゴミ捨て場がある。

「よし、捨てよう!」

言葉に出して決心を固めたのには、少しばかりの遠慮と躊躇いがあったのかもしれない。
その証拠に「おい」と一度声をかけた。
しかし、相手は無言だった。
寝ているのかもしれない。
普段はうるさいくせに、寝ると恐ろしいほど静かな男だった。
「起きろ」
「・・・・」
不安になるほどの静寂。

「チッ…」
ジュールは、目の前の道をキッと睨んだ。
ここを通り抜ければ、彼の家だ。

「やはり、人生にはネタも必要だし…」

ジュールは、彼を静かにゴミ捨て場の横に寝かせた。
非人道的と言われてしまえばそれまでだが、勝手に寝た彼が悪いのである。
ジュールは、そこで死体のように眠っている男を眺めた。
手を胸の上で組んで、口もきっちりと閉じているところは本当に生きているとは思えない。

なぜか、ジュールはしばらくそこにいた。
彼を一人にして置くのが心配だったのかもしれないし、珍しく静かな彼を見ていたかったのかもしれない。

だが、ジュールがそこから行動を移す前に、横から怪しい気配が近づいてきた。
近づいてきた人物は、寝ている男をじっと覗き込んで、自分の知り合いかどうか慎重に確かめている。
続いて、ジュールを下から覗き込んだ。
ずいぶん小さな人だ。

「…と、思ったら兄上か」
「ジュール、なんでサングはここに寝ているんだい?」
「どうして、あなたがここにいるのです?」
「私はともかく…」
「彼はともかく、あなたが…」

「・・・」
「・・・」
「彼を連れて、違うところに行くんだよ」
ふらりふらりとおぼつかない足取りで、トトはサングを無理やり背負おうとした。
「やめたほうがいい」
トトは力持ちだが、それにしてもブツが大きすぎる。
「大丈夫!!」
トトも相当酔っ払っている。
ジュールはすべてを覚悟し、トトが引きずっているサングの下半身を抱え上げた。

二人に抱えられる巨大な荷物と化したサングはそれでも目を覚まさない。

飲み屋街では、どんな光景でもおかしく見えるらしく、まわりからは笑い声が聞こえてきた。
トトはそれでも「親友を助けているんだ」という誇らしい態度を貫いた。
…そう思っているのは酔っ払っている当人だけだったが。
一方、ジュールはこれからトトと何を話すかを考えていた。
偶然にも、こんなところで会ってしまったのは不幸でもあり、内心嬉しくもあった。
腕に抱えている男の下半身など、ポケットから出すのを忘れたティッシュくらいの事柄だ。

ところで、バストール国の西の市場付近で、殺人事件(?)が起きていた。
たちの悪い酔っ払いが殴りあった末に、どちらかが死んだという。
容疑者、死体ともに行方不明だ。
…にもかかわらず殺人事件だろうといわれているのが、死んだとされているほうが昏倒した際に
その友人が「こいつが殺された!」と叫んだからなのだ。

彼が生きてひょっこり出てくれば、それは傷害罪になるだろう。
しかし、容疑者も被害者もいつの間にか消えてしまった今、一応「殺人事件」として情報が通っていた。

・・・・

そんな事はつゆも知らない二人。…意識がないのを含めると三人。
酔っ払いがいない静かな通りの建物の2階、そこにあるバーにサングを運び込んだ。
奇妙な顔をするマスターを尻目に、眠っているサングを椅子に座らせる。

「乾杯!」
カクテルに口をつける二人。
サングは身動き一つせず、呼吸しているかどうかも疑わしいほど静かに眠っている。

「さきほどの続きですが」
ジュールは口を開いた。
「なぜ、こんなところに兄上が?」
「う、う~ん…お酒が飲みたくなって…」
「それはそうだろうけど」
「ふらりと冒険に」
「こんな時間まで一人でふらつくのは危ないよ」
「う、うん…」

そんな会話が二人の間で交わされている間、その店の外では、男が警察に向かって叫んでいた。

「オレ見たっす!こう…でっかいのとちっこいのが死体みたいなものを、あの店に運ぶのを!」

しばらくして、店から出た二人。
しっかりブツも忘れずに抱えている。
ただし、抱えているのはジュール一人で、トトもジュールの腕にしがみついていた。
…酔っ払いすぎたのだ。

「その二人組み。待て!」

背後から声がしたが、二人は思いっきり無視した。
それもそう。二人からすれば、三人組みだったのだから。

川べりを歩く二人の目の前に、走りこんできた警官が飛び出した。
いきなり、棍棒を突きつけられて、ジュールは反射的に手をあげた。
しかし、トトにしがみつかれている腕を上げなかったというのは、実にこの人らしい…。
が…もう片方の腕に抱えられていたサングは当然のごとく落下した。

サングの身体はごろごろと転がり、小さな川に落ちた。

「う、うわー!!」
叫んだのは、警官だったのか、それともトトだったのか。
ジュールは静かに言った。

「・・・・わざとじゃありません」

その後、トトがサングを抱きおこし(川といっても、膝までの水位もないちょろ川だった。)
ジュールが渋い顔で引きずりあげ、警官が取調べを行おうとしたところで、サングが目を覚ました。

とりあえず、二人の殺人および死体遺棄容疑は晴れた。

「なんでだよ?」
王宮に戻ったバストール国王サングは、ジュールに掴みかかった。
「おまえ、人を溺死させようとしただろ?」
「私は、酔っ払って川に落ちたあなたを救った事になっています」
どこまでも、憎らしいほど冷静な物言いのジュールに、サングは歯軋りをした。
「サンも死体容疑がかけられるんじゃないの?」
ププっとトトが笑う。

「もう!本当におまえたち嫌!もう誰とも飲みになんか行くもんか!」
「私も、行った先で酔っ払ったあなたには遭遇したくありません」
そもそも単独で飲んでいたんじゃないか。とジュールは付け加えたいようだ。

「でも、嬉しい偶然だったね!」
というトトの言葉に、二人は同時に叫んだ。

「本当にそう思うのか?!」

END

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