-超番外編
広島~香川の旅 3-

イルミーネ国の物語

次の日、トトは朝のバイキングもとらないで、香川県の琴平に向かうことにした。

「足は大丈夫?」
「う、うん。昨日お風呂でよくもんだから、少しはよくなっていると思うんだけど…」
「昨夜はゆったりしたけど、ちゃんと眠れた?」
「うん…」

トトは、足をさすった。 腫れている感じがした。
右足は相変わらずカクカクしていたが、わりと普通に歩ける。

「でも、今日はなにしろこんぴらさんを登るんだよ!」
「だ、大丈夫なのかなぁ」
「本当は尾道に寄って、愛媛県の今治までサイクリングをしたかったんだよ。しまなみ海道をね!」
「昨日の夜も悩んでたものね。いつから今回の旅はトライアスロンになったんだ…」
あなたの旅についていく…と言ったものの、ジュールは少しだけ心配になり、そして後悔をした。

「でも、時間がないんだよ。残念だねぇ」
「…そこは、次の旅のお楽しみにしましょう」
瀬戸内海を自転車で渡る、とても気持ちのいいサイクリングコース。
しかし、今のジュールにとっては恐怖へとつながる道だった。
トトのように足をひきずっているわけではなかったが、そうとうへとへとだったのだ。
あとは、トトが一層無理なことを望まないことを願うばかりだ。

宮島口から出た電車は、山間を進む。
ここからは、海は見えない。

「しまなみ海道が見えると思ったのに、残念だなぁ」
トトが恨めし気に窓の外を見ている。
「そこは、また秋にでも…今日は暑いよ」
ジュールはどこか満足気に答えた。
海が見えたりしたら、兄が飛び出していってしまうかもしれないじゃないか!
早く、岡山へ着け!

すると、トトは疲れのためかうとうとし始めた。
あーよかった。
ジュールもやっと安心して目を閉じた。

ー岡山ー

「私は、朝昼食のかわりに、ままかり寿司を食べるんだ!」

さっそくお土産店に向かったトト。

「私は有名なちらし寿司がいいです」

ジュールも元気を取り戻したようだ。
岡山のちらし寿司は、ままかりをはじめとする魚介類、野菜、卵などが乗った豪華なお寿司だ。

一方、トトの言ったままかり寿司とは、酢飯に酢〆のままかりを乗せただけのシンプルなものだ。 しかし、トトはこれが大好きだった。
岡山から香川行きの電車に乗りながら駅弁を開いた。

「ホテルで朝食を抜かした甲斐があったというものだよ」
トトはニコニコしながら、ままかり寿司を頬張った。
「この酢の具合がたまらない!玉子の甘味と実によく合っている。ままかりの〆具合もちょうどよくて」
ジュールもニコニコと弁当を食べている。

瀬戸内海を眺めながら、二人は四国へと 入っていった。
琴平駅。 日本風の赤い瓦屋根がかわいい駅。

「さすが、金毘羅さんの駅だねぇ!素敵☆」
トトはきょろきょろと駅の回りを見回した。
立札があり、こんぴらさんへ…と書いてある。

「ほら、あそこだよ!」
「おおはしゃぎだなぁ。足は大丈夫なの?」
「私も成長したからね。もう無茶はしないよ」

本当なのか?!
トトの発言に突っ込みたくてたまらない…。
そんなわけでトコトコと進むトトの後を追って、歩いていくジュールだったが 日差しの強さに思わず顔をしかめた。

「帽子を持ってくるべきだったなぁ」
「これから参道を歩くのに日傘を差していても迷惑だしね」

すると、行く手に土産物屋らしき古い民家が見えた。
「あそこに帽子があるみたいだよ!寄ってみよう」

トトは地味な麦わら帽子を手に取った。
「500円だって」
ジュールは白い布の帽子を手に取った。
「私のは1000円です」
お手頃な値段の帽子を見つけて、二人はご満悦だ。
ちょうどお店の人が出てきて、鏡を見せてくれた。
「よくお似合いですよ。今日は日差しが強いから気を付けて」

お金を払って、出ていこうとする二人に、お店の人から声がかかった。
「階段がきついから、これをもっていってくださいね」

竹でできた杖だ。

「わぁーー!!ありがとうございます!」
これで、正式に巡礼者だ! 何事も恰好からだよ!
杖をぶんぶんと振り回すトト。

「本当によかった…なんかすごいアイテムを手に入れた気がする…ゲームでいえば”復活を可能にする玉”とか」
ジュールの天を仰ぐその姿は、巡礼者そのものだ。

その店からしばらく歩くと、金毘羅さんへ行く参道へ入った。
「私…ここで讃岐うどんソフトっていうのを食べるつもりなんだけど…」
きょろきょろと回りを見回すと、修学旅行生が歩いている。
「彼らが大挙していないお店を探さないといけないね」
「元気だなぁ…あの学生たちは向こうから下って来たということは、一度登ったんだ。それなのに、普通に歩いている」
「ジュージュ…なにおじさんみたいなこと言ってんだよぉ」
「私には、彼らの若さがうらやましいです…」
つまりは、もう休憩をしたいということなのだ。

「さっきは、、駅弁だけだったから、そろそろうどんを食べてもいい頃かも」
要約すれば、二人とも、讃岐うどんを食べてみたくてたまらなかったのだ。

趣のある古民家のような造りのうどん屋にはいって、さっそくぶっかけうどんを頼む。
「私にはかき揚げを」
「私にはちくわ天を!」
「兄上はちくわ天が好きだなぁ」
「ちくわ天は馬鹿に出来ないよ。うどんにちくわ天ほど合うものはないんだから!」

トトの言葉が真実かどうかはともかく、運ばれてきたものを見て、ジュールは納得した。
ちくわ天はそれだけですごいボリュームである。

「わぁい!いただきます!」
「このうどんのコシ、本物だ!」
シンプルなうどんがこんなに美味しいなんて! さすが本場! さすが讃岐うどんである。
うどん県は伊達ではないのだ。
おなかもまずまず満足したところで、二人はまた歩き出した。

階段のそばまでくると、横に駕籠が待っている。

「…あれに乗ろうかどうか迷っているんだよ」
「足が痛いなら乗ればいいと思うよ」
「…」

しばらく悩んでいるトトの横を腰のまがったおばあさんがヨボヨボと歩いて階段を上ってゆく。

「…どう考えても、若い私が乗るには格好悪いよ」
「無理をしないほうがいい」

ジュールの言葉を振り切って、トトはゆったりと階段を上り始めた。
御本宮までの全785段が始まったのだ。

「このために杖を貸してもらったんだもの。負けられない戦いというものがあるだろう」
「…つらかったら、途中でもいいから駕籠に乗せてもらいましょうね」
固い決意をこめてトトが見上げた先は、数百段を超す階段が待っていた。

しばらく登ってトトはポツリと
「だって駕籠に乗ったら、途中で美味しいものがあっても降りられないんだよ?」
「そりゃ…まぁ」
「ソフトクリームのお店だってあるかもしれないのに…」
何よりも食を求めるあたり、トトらしい。
ジュールも、先程のうどんの他に何か珍しいものが食べてみたかった(彼は限定品という言葉に弱いのである)

途中で階段の両脇にお店が並んでいる場所があった。
「普通の土産物屋さんだね。珍しいソフトクリームはなさそう…」
「もっと登ったらあるかな?」
二人の旅は、いつの間にか美味しいものを探す旅になっている。
お参りに来たはずなのに…。

それからもう少し登ると急に視界が開けて、境内のような広場に出た。
広い参道が続いている。

「日影が急になくなってしまったね」

大門をくぐると入り口に女性たちが座っている。
この人たちは、特別に選ばれてここで飴を売っているのだ。
つまりこの先に露店はないのである。

「あーーー、ここからは神聖な場所なんだよ。もう変わったソフトクリームもないんだよ!」
こうなったら、帰り道でソフトクリームを探すしかない。

途中、神馬などを見て休憩しながら、進む。
「あ、ああ!ここは書院だって、立派な建物だねぇ」
ちらりとトトは門から覗いてみる。
「入る?」
「いいや、少しでも足を大切にしなければ」
帰りのソフトクリームのために。

そこからえっちらおっちら250段くらい?登ったところに、本堂があった。
(ここまで来るまでにも、いろいろ見所はあったはずだが、足の痛みと暑さでよく覚えていない)

「感動!これが金毘羅さんだよ!私は一度ここにお参りしてみたかったんだ!」
「何の神様なんだろう?」
「大物主神と崇徳天皇が合祀されている…と書いてある」

金毘羅さんの○に金の文字が書かれた明るい黄色の提灯は有名だ。

「この~シンボルマークを掲げ、瀬戸内の元海賊たちは松前船に乗って日本中に布教してまわったので~す」
何やら怪しい口調でトトは説明をする。
「金毘羅さんは交通、海運の神様なので~す」
「では、一枚…」
ジュールが写真を撮ろうとしたので、トトは真っ青になって止めた。
「ジュージュ!金毘羅さんは正面から写真を撮ってはいけないのだよ!失礼にあたるからね!」
「ああ、あそこに書いてあるや…」
ジュールは、注意書きが書いてある看板を認め、まったく別の方向へカメラを向けた。

「ここの景色なら許されるでしょう」
「ここに来たかった人は大勢いただろうね。それだけの信仰を集めていたんだよ」
「あなたはここに立てて満足ですか」
ジュールも嬉しそうに笑顔を見せる。 トトの答えがわかっていたからだ。

二人は、本堂にお参りをした。
大勢の人が夢見た場所に立たせてくれてありがとうございます。
無事にここまで来ることができた。

大丈夫、足はまだ大丈夫…。

本堂の隣に、奉納物を祀っていあるところがあった。
絵馬殿と呼ばれている。
船の絵が多い。 海上にかかわる人々の願いがそこには込められているようだ。

「ここは海に住むものの守り神だったんだよ。このあたりの海賊たち、彼らもここに来たのかなぁ」
「彼らの神様なのですよ。きっと来ただろうし、もし来れなかったとしても忘れたことはないでしょうね」

もう一度、二人は海の見える景色を見た。
「あの海から、ここを見つめて…見守られていたんだね」
「あなたがここを目指したかった気持ちもわかってきたよ、足大丈夫そう?」
「残念ながら奥社までは行けなそう…もう帰ろう。それでゆっくりとお酒を飲むんだ!」
「とうとうお酒解禁か!じゃあ、早く帰ろう!」

いきなり足早になった二人。
帰り道は…サクサクいくはず・・・だった。

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